インドネシア全34州の旅 #20 
ランプン州 草原の象、蝶の公園

文・写真…鍋山俊雄 

 ジャワ島からスマトラ島への玄関口であり、スマトラ縦断高速道路の入口となるランプン州。州都はバンダルランプン。ジャワ島西端のメラックからフェリーで海峡を渡って陸路で行くこともできるが、飛行機で飛べば40分ほど。離陸して水平飛行に入ったと思ったら、すぐに着陸に向けて降下を始める近さである。ジャワ島から近いこともあり、ジャワからの移住者(ジャワ人、スンダ人)のほか、スマトラの北部からのバタック人の移民も多いそうである。

新しくなったランプンの空港。スカルノハッタ空港第3ターミナルに似ている?

 ランプン州には自然を楽しむいくつものスポットがあり、中でも、野生の象が広大な草原で暮らすワイカンバス国立公園が有名である。ランプン州の東海岸沿いにあり、1300平方キロ余りの広大な三角形の原野と野生林。公園内にはスマトラトラ、スマトラサイなどの希少動物のほか、多くの野生動物が生息している。

ワイカンバス国立公園、象保護地域の入口

 空港から東に車を走らせること約2時間で、国立公園の入口に到着する。ゲートをくぐって森林道路をさらに15分ぐらい進むと、スマトラ象の保護地域に到着する。そのまま進むと池があり、「MANDI GAJAH」(象の水浴)との掲示がある。朝に行けば、ここで象の水浴が見られると聞いていた。

 その通りに、木陰の間から、象使いを乗せた象が2、3頭ずつ順番に現れて、ゆっくりと池の中に入って行く。所々、深いのか、それともしゃがんでいるのか、象の体全体が見えなくなる程度まで沈んでいく。象使いは象に乗ったまま一緒に池の中に入り、象が潜っている時は、背中の上に立ち上がって待っている。象たちは、気持ち良さそうにひとしきり水浴した後、池の反対側に抜け、広い草原に向かって歩いて行った。

 草原のあちこちでは、水浴の終わった象が、のんびり草を食んでいる。動物園なら柵の中にいるのを上から眺め、サファリパークでも車の中からしか見たことのない象が、ここでは柵もない広々とした草原にいて、象と同じ空間の中で、彼らを楽しめる。

親と一緒で、うれしそうな子象

 一方で、彼らも人間を見てるようだ。両親と一緒にいる子象(背丈は人間の大人ぐらい)がいた。親にじゃれたりして、なかなか愛らしい。10メートルぐらい離れた所で写真を撮りながら見ていたら、私の方に向かってトコトコ歩き始めた。どうやら私に好奇心を持ったらしい。小さい子供や子犬が珍しい物に近付くように近付いてきた。だが、子象と言っても、結構、大きい。ずんずん近付いてきたが、ちょっとこちらが躊躇していると、「つまんないの!」という感じで、くるっと振り返って、また親の所へ戻って行ってしまった。

 この国立公園では、象の背に乗って草原を行くツアーがあると聞いていたが、私が行った時は、このアトラクションは中止していた。でも、広い草原の中で象がたたずんでいる姿を見ているだけでも、十分に楽しい。草原の中の道を散歩していると、2頭の象が大きな耳を揺らしながら向き合って、じゃれ合っている。けんかではないようだが、何か議論しているかのように見えた。

 さらに進むと、草原の中に、真新しい大きな建物がポツンと現れた。「象の病院」と書いてある。中には誰もいなかったが、裏庭には柵に囲まれた区画(象の診療室?)があった。公園の入口近辺には、象に乗って少しだけ歩き回ることのできる体験場があり、親子連れで賑わっていた。

象の病院

 もう1カ所のお薦めは、バンダルランプン周辺の街を囲む山沿いにある、スマトラ島の蝶を集めた公園(Taman Kupukupu Gita Persada)。こちらは、空港からバンダルランプンの街の方に車を走らせ、約1時間。1997年に蝶保護のために整備され、約180種類の蝶が観察できるという。インドネシアには約6000種類余りの蝶が生息しているそうである。

 丘の傾斜面に4階建の博物館が立っており、入口付近の1、2階には土産物屋のほか、蝶の標本や絵画が展示され、上層が観察塔となっている。その周辺の森の中には、ドームやベンチがあり、のんびり座って蝶を観察することができる。

 公園に到着した時には、あいにく雨が降っており、蝶はまったく見られなかった。ドームの中で待つこと約1時間。雨が上がり、少し陽がさすようになって、ようやく、ちらほらと蝶が集まり始めた。

 ドームの中で6〜7種類の蝶を見た後、外を散歩してみた。蝶の公園と言っても、カゴに蝶が入っていて順番に観察できるという場所ではなく、外でのんびり散策してると、ひらひらと飛ぶ物が視界に入る、というような公園なのだ。

 1854〜62年、アルフレッド・ラッセル・ウォーレスという、博物学者であり探検家だったイギリス人が、スマトラからパプアまで、現在のインドネシアのほぼすべての地域をくまなく巡りながら、昆虫や動物、鳥類の採集活動を行った。その探検と採集の記録を記した『マレー諸島』という傑作に描かれている、ウォーレスが新種の蝶を追いかけた話を思い出しながら、その気分に浸ることもできる。

ドーム内での蝶のさなぎ観察

 森を眺めていると、葉の上に蝶がじっと止まっていたり、日本ではまず見たことのない鮮やかな色の蝶が、頭上をひらひらと飛んでいたり。結局、公園には3時間半ぐらいいて、10種類以上の蝶を見ることができた。

 ランプン州はこのほかにも、野生のイルカを見られることで有名なキルアン島周辺、「クラカタウの大噴火」で有名なクラカタウ山など、興味深い観光名所が多い。この辺りは空港からかなり遠くなるので、少し時間はかかるが、ジャワ島西端のメラックからフェリーでランプン州に渡るルートで行ってみたいと考えている。

 

 

鍋山俊雄(なべやま・としお)
インドネシア在住期間は計12年になる。仕事でジャワ、カリマンタン、スマトラへの出張が多いことに加えて、「週末弾丸トラベラー」としてインドネシア各地を放浪し、全34州を訪問した。

 

インドネシア全34州の旅
#0 空港
#1 北スラウェシ州 インドネシアの最北端?
#2 アチェ州 インドネシア0キロ地点と津波の跡
#3 ブンクル州 英国の砦、スカルノの足跡
#4 南カリマンタン州 川の街の水上マーケット
#5 バンテン州 バンテン王国跡へ、列車の旅
#6 西カリマンタン州 春分の日に赤道へ 影がなくなった!
#7 南東スラウェシ州(上) 波の音しか聞こえない、ぜいたくな空間
#8 南東スラウェシ州(下) インドネシア最大級、ブトン王国の城壁都市
#9 バンカ・ブリトゥン州 アホック前知事の故郷、「ラスカル・プランギ」の島
#10 リアウ諸島州 最北端の島の1つ。石群が織りなす造形

#11 西スラウェシ州 トラベラーの中でも「まだ行ってない」率が高い

#12 パプア州 ①国境編(ジャヤプラ、メラウケ) 国境の看板の向こうは熱帯雨林

#13 パプア州 ②山編(ワメナ) 伝統の残り香のあるうちに

#14 パプア州 ③海編(ティミカ・パンタイ) 船で新しい土地へ

#15 パプア州 ④戦争編(ビアク) 息をのむ美しさの海、戦争の名残り

#16 西パプア州 ラジャアンパットを一人で弾丸旅行する方法

#17 リアウ州 仏教遺跡と王宮

#18 ジャンビ州 東南アジア地域で最大級の広さを持つ寺院遺跡群

#19 南スマトラ州 アンペラ橋の周りの見所を巡る

インドネシア全34州の旅 #19 
南スマトラ州 アンペラ橋の周りの見所を巡る

文・写真…鍋山俊雄 

 スマトラ島の南部にある南スマトラ州の州都は、2018年アジア大会でジャカルタと並んで開催都市となった、パレンバン。

空港ではアジア大会のマスコットがお出迎え

空港にある「ジョコウィと2ショット写真」、背景はアンペラ橋に、アジア大会のスタジアムも

 スマトラ島で、パレンバンはメダンの次に人口の多い都市だ。外国人にとって、あまりなじみのある街ではないかもしれないが、かつては商業の都として歴史を彩り、日本人にとっても、つながりの深い街である。

 スリウィジャヤ王国の首都の場所には諸説あるが、パレンバンにあったという説もある。昔から、マラッカ海峡周辺に商業都市が発達する中で、西欧、アラブ、中国などから渡来した商人が定住し、香料貿易の一端を担っていた国際都市の一面を持つ街である。

 17世紀には東インド会社が貿易拠点を設置。オランダ統治時代には石油資源も発掘されている。日本人にとっては、太平洋戦争時に、日本軍の落下傘部隊が降下し、オランダ軍を制圧した歴史を持つ街でもある。

 街を貫くムシ川にかかるアンペラ(Ampera)橋は、日本の戦後賠償金で建築された。本来は、船が間を通れるように、中ほどの部分が垂直に持ち上がる構造になっている。しかし、もう故障して長く、固定されたままになっている。夜は彩り鮮やかなライトアップがなされ、美しい。

アンペラ橋をくぐる、石炭を積んだ船

アンペラ橋上部の橋をつり上げる機械

 パレンバンは、ジャカルタから飛行機で1時間ほどで行ける距離で、飛行機の便数も多い。2016年3月9日の皆既日食の時に、パレンバンの空港で皆既日食の観察に成功したことは思い出深い。早朝にジャカルタから飛べば、午前7時過ぎからの日食開始に間に合い、かつ、日帰りで帰って来られる所として選んだのが、パレンバンだった。(『南極星』2016年4月号に観察記を掲載)。

 アジア大会を前に、空港から市内をつなぐ鉄道が完成した。以前は、空港から街の中心のアンペラ橋まで、混み具合によっては約1時間かかった。

アンペラ橋と平行に、ムシ川上に建設中のLRT

建設中のLRTの駅

 昔から交通の要所であったムシ川のシンボルであるこの橋周辺には、多くの見所がある。

 橋桁近辺では、小舟を使った観光ツアーの勧誘が多い。ここから6キロほど、スピードボートでは15分余りで行けるケマロ島が有名だ。ケマロ島に近付くと、まずは、色鮮やかな九重の塔が見えてくる。中国寺院には、ケマロ島の次のような言い伝えが書かれている。

 パレンバンの王の娘が中国の豪商と結婚し、2人で夫の故郷を訪問した。中国でもらったお土産の壺をケマロ島に近付いた時に船上で開けてみると、塩漬けの菜っ葉しか入っていなかった。がっかりして川の中へ投げ捨てると、菜っ葉の下にきらっと光る物が見えた。あわてて夫婦とも川の中に飛び込んだが、そのまま上がって来なかったという。地元の人々はこの夫婦をしのび、ここを聖なる島としてまつったという。

 ムシ川沿いには、柱を川岸に立てた水上家屋が連なっている。昔から商業の街だったパレンバンには、さまざまな国の人々が住みつき、自らの国の建築様式で、家を建てた。

 「カンプン・アラブ」と呼ばれるアラブ人居留地域には、当時からの家が残っている。家を説明する看板があり、路地でサッカーをする子供たちも住民も、アラブ系のようである。家のデザインにはいくつかの種類がある。通常のインドネシアの家屋とも違った、大きな邸宅である。

 「カンプン・カピタン」と呼ばれる地域には、古くは明の時代やスリウィジャヤ王国時代からの中国系住民が居住し、400年余りの歴史があるという大きな邸宅が2軒、残っている。これらの家の前には石造りのパゴダがあり、周りとは違った雰囲気を醸し出している。

 このほかに、川沿いの通りに並ぶ家は「ルマ・リマス」(Rumah Limas)と呼ばれ、15世紀ごろから伝わる建築様式の家がかなり残っている。高床式で、階段を上がった所に玄関が設置されている。ほかにも、占領当時にオランダ人が住んでいた、オランダ式の家屋もまだ見ることができる。

 ムシ川沿いの公園の向かいには、パレンバン王国時代に建造され、現在は軍の施設になっている「ベンテン」と呼ばれる砦(Benteng Kuto Besak)がある。軍の施設としてそのまま利用されており、通常は入ることができないのが残念である。

 橋の近くには、18世紀にパレンバン王国のバダルディン1世によって建てられた大モスクがあり、その近くには、19世紀にイギリスやオランダの統治に抵抗した同王国のバダルディン2世(Sultan Mahmud Badaruddin Ⅱ)にちなんだ博物館がある。なお、このバダルディン2世は、以前の1万ルピア札の肖像でおなじみである。

 この博物館には、パレンバンの商業都市としての歴史のほか、日本軍侵攻に関する展示もある。その裏手には、「MONPERA(Monumen Perjuangan Rakyat)」と呼ばれる記念館がある。パンチャシラ像を抱き要塞のような形をしたモニュメントであり、中は博物館になっている。インドネシアの独立宣言後、パレンバンでのオランダ軍との戦いを記念して建造されている。

 川沿いには、スリウィジャヤ王国時代の発掘物を展示した古代遺跡博物館のある公園(Taman Purbakala Kerajaan Sriwijaya)がある。この地域は、人工の水路や池などによって区画された形跡と多くの発掘物から、スリウィジャヤ王国に関係がある地域とされており、その博物館で展示を見ることができる。

 街の中心から空港に戻る途中にある博物館(Balaputra Dewa Museum)では、珍しい人や動物をあしらった石像が展示されている。

 パレンバンに行くと言えば、大概、「お土産に買って来て」と言われるものがある。ンペンペ(pempek)という魚肉団子のようなもので、ピリ辛のたれで食べる。

 パレンバンの空港では、かなりの人がお土産として、このンペンペの詰まったダンボールの小箱を持っている。この魚団子のにおいがするのが、パレンバン発の飛行機の特徴かもしれない。

 

 

鍋山俊雄(なべやま・としお)
インドネシア在住期間は計12年になる。仕事でジャワ、カリマンタン、スマトラへの出張が多いことに加えて、「週末弾丸トラベラー」としてインドネシア各地を放浪し、全34州を訪問した。

 

インドネシア全34州の旅
#0 空港
#1 北スラウェシ州 インドネシアの最北端?
#2 アチェ州 インドネシア0キロ地点と津波の跡
#3 ブンクル州 英国の砦、スカルノの足跡
#4 南カリマンタン州 川の街の水上マーケット
#5 バンテン州 バンテン王国跡へ、列車の旅
#6 西カリマンタン州 春分の日に赤道へ 影がなくなった!
#7 南東スラウェシ州(上) 波の音しか聞こえない、ぜいたくな空間
#8 南東スラウェシ州(下) インドネシア最大級、ブトン王国の城壁都市
#9 バンカ・ブリトゥン州 アホック前知事の故郷、「ラスカル・プランギ」の島
#10 リアウ諸島州 最北端の島の1つ。石群が織りなす造形

#11 西スラウェシ州 トラベラーの中でも「まだ行ってない」率が高い

#12 パプア州 ①国境編(ジャヤプラ、メラウケ) 国境の看板の向こうは熱帯雨林

#13 パプア州 ②山編(ワメナ) 伝統の残り香のあるうちに

#14 パプア州 ③海編(ティミカ・パンタイ) 船で新しい土地へ

#15 パプア州 ④戦争編(ビアク) 息をのむ美しさの海、戦争の名残り

#16 西パプア州 ラジャアンパットを一人で弾丸旅行する方法

#17 リアウ州 仏教遺跡と王宮

#18 ジャンビ州 東南アジア地域で最大級の広さを持つ寺院遺跡群