こまつか苗

 老中・田沼鳥次の権勢華やかなりし鳥江戸。[コザクラ無茶苦茶流]剣客・小桜小兵衛とその息子・小太郎は、連日、きびしい稽古に明け暮れていた。

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 「鋭」

 「応」

 「小太郎、もっと丹田(腹)に力を入れて打ち込むのじゃ!」

 「きえええええええい!」

 小太郎が顔を真っ赤にして腹に力をこめた、その刹那。

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 大きな音が響き、あたりに屁のにおいがたちこめた。

 「や、や、小太郎。力を入れるところが違うておろう……」

 強烈なにおいに、さしもの剣豪・小兵衛も倒れこみ、うめいた。
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 「父上、申し訳ござらぬ!」

 「ううっ、よいから早う、戸を開け放て。だいたいな、お前は食い意地が張りすぎる。ゴホッ。早う、厠へ行ってまいれ!」

 小太郎は廊下へ追い出された。

 「いやはや、剣術の道はけわしいのう」

 厠から戻った小太郎が台所の横を通ると、えもいわれぬ香ばしい香りが鼻をくすぐった。

 「や、だんごではないか」
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 誰もいないのをたしかめ、小太郎がだんごの皿に手をのばすと……。

 「くせものめ!」
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 目にもとまらぬ早業で振り下ろされたおたまで、小太郎は手羽先をしたたかに打たれた。

 「ピギャーッ!」

 「それはヒエのだんごだよう。小太郎さんは、粟のだんごの方がよいのだろう?」

 「かたじけない、母上」
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 居間に行き、粟だんごをほおばりながら、小太郎はためいきをついた。
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 「戦国の世ならいざしらず、この泰平の世では、剣術の腕をみがくことにどれほどの意味があるのだろう。父上はまだ早いというが、私は広い世間を渡り歩き、もっとうまいものを存分に、いや、自分の腕をためしてみたいのだ」

 そのときであった。

 文机のひきだしから、見たことのない、大きな鳥の化け物のようなものが飛び出してきたではないか!
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 「うわあああああ、何だお前は!」

 小太郎は肝をつぶしてひっくり返った。しかし、そこは一応、剣術つかい。すぐわれに返った。

 「待て、おちつけ。父のおしえを思い出すのだ——コザクラ無茶苦茶流奥義その1。『まず噛め』」

 小太郎はその化け物におもいっきり噛みついた。

 「ギャアアアアア」

 それはおどろいて、大きな声を上げた。
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 「奥義その2。『とりあえず上に乗れ』」

 小太郎はその上に無理やりよじのぼった。
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 「奥義その3。『とりあえず頭をすりつけろ』」

 小太郎が奥義通りに頭をすりつけていると、ふとした拍子に、なにか引き手のようなものに頭が触れた。

 「カチッ」
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 すると鳥の化け物は、

 「時間旅行に出発します」

 といって、急に、波立つように動き始めた。

 「うわあっ!」

 振り落とされまいとしてしがみついた小太郎とともに、それは文机のなかに忽然と姿を消した。
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 「小太郎さん、何の騒ぎかえ? もうすぐ夕餉の支度が出来ますよう」

 母・小春が部屋をのぞくと、だれもいない。

 「あれえ、どこへ行きなすったかねえ」
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 ひらいたままの文机のひきだしを閉め、小春はつぶやいた。

 「まあ、おなかがすいたら戻りなさるだろう」

 

インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
 
 
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。