カピバラのカピ蔵の背に乗って水中に潜り、寺の内部へとつながる水路の中を進む一行。もう息が続かない、と思ったところで不意に水路がとぎれ、頭の上にぽっかりと空間が広がった。
「ここは……?」
「湯留糞寺(ゆるふんじ)の中庭にある、井戸の底じゃ」
 風雷坊は答えた。
「周りに誰もいないか確かめてから出て、噛虎(かみとら)様のおられる隠し部屋を探すぞ」
「御意」
「井戸の中は狭くて翼を広げられぬゆえ、石垣をよじ登らねばならぬが、できるか?」
「手前どもはインコゆえ、しがみついて登るのは得意。なんなら、飛べば済む所でもよじ登りたいぐらいでござるよ」
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 ちょうど日が昇った時分。荒法師たちは皆、フクロウなので、見張りの当直の者を除いては、眠りについたらしい。
 一同は、水桶に乗ったカピ蔵を釣瓶で引き揚げた。
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 カピ蔵が手を井戸の縁にかけたところで不意に話し声が聞こえ、何者かが近付く気配がした。

「秘技・ライチョウ隠れ!」
 ばさり、と風雷坊が翼を大きく広げ、オカメもんと小太郎を包み込んで丸くなった。
 さすがはライチョウ。残雪まじりの土色の翼が、周りにある庭石に、たちまち同化した。
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 カピ蔵はと言うと、井戸から転がり出て、母屋の壁に駆け寄った。
「カピバラ忍法、蓑隠れ!」
 そう言って、壁にかけられた笠と蓑にまぎれた。
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 一方、不意に引き手を失った水桶は、井戸の底に落ち、大きな水音を立てた。
「バシャーン!」
 見張りの荒法師たちが駆け寄って来た。
「何事じゃ!」
「井戸の水桶が落ちたようじゃ」
「誰もいないはずじゃが……」
「誰かが中途半端な位置に置いた物が落ちたのであろうが、万が一、しらとりの間の姫を取り返しに誰かが忍び込んだとあってはいかん。念のため、ワナを仕掛けておくか」
 (しらとりの間、か)
 風雷坊はくちばしの中でつぶやいた。
 見張りたちは、井戸の脇にせっせとワナを仕掛けた。出来上がったワナを見た風雷坊は、思わず、くちばしの端を緩ませた。
 (いやいやいや、いまどき、このように単純なワナにかかる、たわけ者がおろうか)
 「うぬっ、はかられたか!」
 見ると、いつの間にか小太郎が風雷坊の羽の下から出て、しっかりと、ベタなワナにかかっていた。
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 「たわけ者かああああ!」
 風雷坊はかごを団子ごと一撃し、小太郎をひきずり出した。
 「だんご~~~」
 団子を食べそこねた小太郎の、悲痛な叫び声がこだました。
 「ものども、出あえ、出あえ! 曲者であるぞ!!」
 寝ていた荒法師たちが次々と起き出してきて、寺はインコの巣をつついたような騒ぎになった。
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(つづく)

インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入

こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。