小太郎の鳴き声に応じて、
「ピキョキョキョキョキョキョ……」
確かに、近くで噛虎(かみとら)の呼び鳴きの声がする。
声が最も大きく聞こえた部屋に入ったが、姿は見当たらなかった。
「確かに、この辺りで聞こえたはず……」
「あっ、これは?!」
小太郎が叫んだ。
床の間の掛け軸の縁が噛み切られている。
「これはまさしく、コザクラインコがここにいた証!」
「この床の間に何かからくりが?」
一同が床の間を探り始めたその時、また音もなく、フクロウの荒法師たちが周りを取り囲んでいた。
「うわっ!」
「もう逃がさぬぞ。神妙にせよ」
槍を突き出され、思わずのけぞった、その時。
床の間の壁の上部がどんでん返しのように後ろに倒れ、一同は壁の中に吸い込まれていった。
「うわあああああああ」
薄暗く、狭い空間。目が慣れるにつれ、文机の前に座り、こちらを見つめる美しいコザクラインコの姿が見えてきた。
「風雷坊、カピ蔵、助けに来てくれたのか」
「噛虎様には、ご無事で……」
「余は大丈夫じゃ。その者たちは?」
「私は小太郎。この者はオカメもんと申します。風雷坊様の食客にて、噛虎様をお助けに上がりました」
「それは危険なつとめを、礼を言うぞ」
噛虎は言った。
「この部屋は切腹の間と言い、切腹を言い渡された罪人の部屋だそうだ。罪人が逃げられぬよう、窓が一切なく、出入口も一方向のどんでん返しになっていて、中からは開けることができない仕組みになっている」
噛虎はまばゆいほどの美しさだったが、表情は硬く、暗かった。
「このように捕えられてしまい、そちたちにも迷惑をかけて、すまない。父や兄弟の亡き後、どうにか国を守ろうとつとめてまいったが、余はもう、この乱世に疲れてしもうた。いっそ、もう出家しようと思うのだ」
「噛虎様……」
「お気を落とされるのは仕方のないことではありまするが、あきらめてはなりませぬ」
風雷坊は言った。
「あなた様を慕う人々の気持ち、守り続けてきた土地を、簡単に敵に渡してはなりません。逃げましょう!」
「しかし、どうやって……」
突然、扉が開き、フクロウ荒武者たちが顔を出した。
「ふふ、ひとまとめになってくれたわ。ちょうど鳥家(とりいえ)様がお城に到着された模様。早速、お連れしよう」
最早これまでか。
一同が覚悟を決めた、その時。
「私の翼の上に乗るのです! 時空の引き出しがここに開いています。さあ!」
オカメもんが叫んだ。
「そうか。ここには引き出しがある! さあ、皆さん、早くオカメもんの上に乗るのです」
小太郎は全員を乗せ、オカメもんの頭のレバーを握った。
「どういうことだ?!」
噛虎は目を丸くした。
「説明は後で! さあ、つかまってください」
小太郎はオカメもんに声をかけた。
「オカメもん、連れて行ってくれ。ここではない、どこかに!」
「時間旅行に、出発します……」
彼らの姿は、文机の引き出しの中に吸い込まれて行った。(つづく)
インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。