2017年、インコネシア・鳥ジャカルタ。
今日も道はたくさんの車で埋まり、歩道には鳥ジャカルタ名物の移動屋台が店を出し、活気にあふれていた。
「ドカーン!」
いきなり、その移動屋台の1台の引き出しが開き、オカメインコとコザクラインコ、雷鳥、カピバラが飛び出して来た。
「いててて、オカメもん、もう少し、静かに到着できないのか?」と小太郎。
「Aduh~!!」
「Ada apa??」
「Dari mana anda sekalian??」
「えっ? 何? ここはどこだ?」
一同が辺りを見回すと、見たことのない種族の鳥たちが、聞いたことのない言葉で叫びながら、どんどん集まって来る。
「と、とにかく、静かな所へ逃げなくては!」
「あっ、あっちに森があるぞ」
小太郎たちは渋滞している車の上を跳びながら道を渡り、緑のある方、白い大きな塔のある広場へ向かった。
「なんだ、この鉄のいのししは? 中に乗れるのか?」
「並んだまま、ほとんど動いていないぞ」
「すごいにおいのけむりを出すな」
車の上を跳び歩く一同に、クラクションが鳴り響いた。
「うわあっ、すごい声だな!」
「早く静かな所へ行こう!」
どうにか道を渡り、広場の森の中に一同は転がり込んだ。
オカメもんが口を開いた。
「皆様、落ち着いて聞いてください。ここは日本ではありません。日本よりずっと南の暖かい所、インコネシアという国の都で、鳥ジャカルタという所です」
「インコネシア……」
「あなたたちの時代の言葉で言うと、『鳥南蛮』と呼ばれる地域かと思います」
噛虎(かみとら)がうなずいた。
「おお、そう言えば、商人が一度、鳥南蛮渡りの更紗(さらさ)という美しい布を持って来たわ」
「この時代は2017年。噛虎様たちの時代からは約390年、小太郎さんの時代からは250年ほど先の、未来です」
「われらはなぜ、こんな所に来たのだ?」
「あわてていたので、時間や場所をはっきり決めないまま、出発してしまいました。何か頭の中に残っていたものにゆかりのある場所なのだと思います」
オカメもんは申し訳なさそうに言った。
「うむ……まあ、しかし、あの場から逃げないと、われわれはどうなっていたかわからないのだから、礼を言わねばなるまい」
風雷坊はそう言ったものの、途方にくれた。
「しかし、どうやって元の世に戻ればいいのだ?」
「あの屋台の引き出しから戻ればいいのですが、今はものすごい数の野次馬がいますから、無理です。誰もいなくなるまで、少し待ちましょう」
オカメもんはほっぺたの丸い部分を片方、パカッと外し、何かを取り出した。
「これをとりあえず食べてください」
「なんだ、これは? 食べ物なのか?」
「これは、翻訳コンニャクゼリー。未来の旅行用品です。これを食べると、異国の言葉がわかるようになります」
「おお、そうか。便利なものじゃな。……ん? 小太郎うじ、口の中に何を入れているのじゃ?」
「○△×……」
頬をいっぱいにふくらませて苦しげな小太郎。
すると、辺りが急に騒がしくなり、先ほどの屋台の主人が野次馬と一緒にどなりながら追いかけて来た。
「こらーっ! おまえたち、オンデオンデ(団子)の金払えーー!」
ピンときた風雷坊は、羽扇で小太郎の頬をしばいた。
「おぬしじゃな!」
小太郎はたまらず、口の中いっぱいの団子をブーッと吐き出した。
「申し訳ござらぬ。つい反射的に口の中に入れてしまい、飲み込むわけにもいかず、どうしてよいものか困ってござった」
「何を言っておるのじゃ。口の中に入れた物を返されても困るじゃろうが! このままでは泥棒になってしまうぞ。お金を払わなくては」
噛虎がすっと屋台の店主の前に行き、財布から銀を取り出して渡した。
「そなた、余の従者がまことに失礼な振る舞いをした。申し訳ない。その団子の値はいかほどか。これで足りるか?」
「なんだこれは。どこの国の通貨だ?こんな物どうすればいいのだ。おまえたち、ルピアは持っていないのか? ドルでもいいぞ」
「ルピア? ドル? それは何だ?」
「なんだとはなんだ。おまえたちは外国人のようだが、金もないなんて不法滞在じゃないのか? あやしい奴らだな! 警察に突き出すか?」
野次馬がどんどん集まって来て、辺りは大騒ぎになった。(つづく)
インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。