「とにかく、これではらちがあかん。さあ、警察まで来てもらおうか」

 ダンゴ屋台の主人は、噛虎(かみとら)の手羽を掴もうとした。

 そこへスッと、真っ白なタイハクオウムの青年が割って入り、屋台の主人の手羽を取ると、軽くひねるようにして噛虎から離した。
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 「いてっ! なんだ、邪魔するのか?」

 「いや、この者たちは私の知り合いだ。私がダンゴ代を支払おう。すまなかったな」

 青年は静かに言い、金を支払った。

 ブツブツ言いながら屋台の主人は帰って行き、野次馬たちも散っていった。

 噛虎たちは、ほおっと深いためいきをついた。
 
 「『しらとり』じゃ……!」

 風雷坊は目を丸くして青年を見つめ、つぶやいた。噛虎が幽閉されていた出城の「しらとりの間」には、南国風の装いの白い鳥が描かれていた。この青年は、その絵と同じ「しらとり」だった。

 「かたじけない。大変、助かった。どのように、このご恩をお返しして良いものかわからぬ」と、噛虎。

 「いや、何かとても困っておられる様子だったので。良かったらうちに来て、どういうことなのか、お話してくれませんか」

 そこで噛虎たちは、チャハヤ(光)という名前の、この白いタイハクオウムの青年の家に行くことになった。
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 チャハヤの家は鳥ジャカルタにある、古くて大きな家だった。

 「……ふむ。にわかには信じられないような不思議な話だが、君たちの様子を見れば、悪ふざけとも思えない。本当なのだね」

 オカメもんの説明を聞いたチャハヤは、混乱しながらも信じてくれた。

 「このようなことを聞くのは失礼かもしれないが……」、風雷坊は言った。

 「先ほどのあざやかな身のこなし。ただものとは思えない。おぬしは相当の武芸の心得があるように思うが?」

 「おや、わかりましたか。実は私はインコネシアの王族の出身で、古流シラットの継承者なのです」

 「シラット……」
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 「およそ1000年の歴史がある、インコネシアの伝統武術です。元々は王族が護身用に編み出し、後に王宮警護の者に伝えられ、今では誰でも習うことができます。今は王族といっても臣下がいるわけではありません。私はここで、シラットの道場を経営して生活しているのですよ」

 一同がチャハヤの話を聞いていると、突然、扉が無遠慮に開けられ、粗野な感じのタイハクオウムが脂粉をまきちらしながら入ってきた。
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 「よう、チャハヤ、元気か!」

 「バヤンガン(影)か、今、客人が来ているのだ。またにしてくれないか?」

 「おっ、やっと弟子が出来たのか? 今度はちゃんと金をもらえよ。お前はほんとに稼ぐのが下手だからな」

 「……皆さん、いとこが私に話があるようなので、ちょっと席を外しますね」

 チャハヤはバヤンガンを連れて隣の部屋に移った。

 「よう、チャハヤ。こんなに大勢の弟子が来たのなら、おまえのオヤジが残した借金を返せるだろう。それか、借金を返す代わりに、おまえの持っている聖なる剣『成就のクリス』を、おれにくれよ」
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 バヤンガンの声は大きいので、隣の部屋にいる噛虎たちにも否応なしに聞こえてきた。

 「聖なる剣……?!」

 小太郎の胸は高鳴った。(つづく)
 
 
インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
 
 
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。