日本の戦国時代から現代のインコネシアにタイムスリップし、王家の末裔のタイハクオウム、チャハヤと出会った小太郎たち。チャハヤの家に行くと、ちょうどチャハヤのいとこのバヤンガンが訪ねて来た。彼は、隣の部屋の小太郎たちに聞こえるぐらいの大声で、チャハヤの家に伝わる「聖なる剣(クリス)」の話をし始めた。
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 「バヤンガン、『成就のクリス』は、わが家に代々伝わる宝(プサカ)の1つ。簡単に出したり譲る物ではないことぐらいわかっているだろう」

 「ああ、クリスには、持つ人を守る、不思議な力があるからな。その力が今の俺には必要なんだよ。商売が今ひとつ軌道に乗らないんだ。あの剣は元々、同じ一族の俺が受け継いだって良い物なんだ。大体、おまえは、おまえの親父が俺の親父から借りた金もいまだに返せない甲斐性なしのくせに、一族の大事なプサカを管理する資格なんてあるのか?」
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 バヤンガンは興奮して、借用書を振ってみせた。すると、ふとしたはずみで借用書は手から離れ、ひらりと隣の部屋に落ちた。なにげなく拾ったオカメもんが、驚きの声を上げた。

 「なんだこれ! 違う時空の者が見ても、ものすごくわかりやすい偽造だぞ!」
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 50.000ルピアの金額の末尾に、ゼロがキッチキチに3つも書き加えられていた。

 「あっ、本当だ!」

 「ちょっとチャハヤさん、もっと早く気付きなさいよ」

 「とにかく、お金にうとくて……」

 「ケッ、ちくしょう。とにかくクリスをくれよ。借りるだけでもいいんだよ。剣の力が欲しいんだ」

 やけくそ気味にバヤンガンが叫んだ。しばらく考えて、チャハヤは言った。

 「よかろう。おいで、バヤンガン」

 「えっ? いいのか、チャハヤ!」

 「ああ。本来は、年に一度、決められた日にしか出してはいけない物なんだが、仕方ない。皆さんも、良かったら、私の家に伝わるクリスをご覧ください」

 一同は、家の奥の小部屋に通された。部屋は掃除が行き届き、祭壇から、香の良い香りが漂っていた。
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 チャハヤは祈りを捧げて、祭壇からクリスを下ろし、机の上に並べた。そして、そのうちの1本の鞘(さや)を払い、刀身を横たえた。

 「これが『成就のクリス』だよ。カーブが3つあるだろう。持つ者に成功をもたらすといわれている」

 「おお……」。息を呑むバヤンガン。

 何とも言えない、圧のようなものが辺りを包んだ。不意に、「成就のクリス」は刃先を下にしてゆっくりと直立した。

 「う……」。先ほどまでの勢いはどこへやら。バヤンガンは小刻みに震え始めた。
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 クリスはふわっ、と宙に舞うと、突然、スパッとバヤンガンの冠羽を切り落とした。

 「ぎゃあああああああ!!!」
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 バヤンガンは叫びながら一目散に外へ飛び出し、逃げて行ってしまった。

 クリスはすうっと机の上の鞘の中に戻った。

 張り詰めた空気は去り、また、香の香りが部屋に満ちた。(つづく)
 
 
インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
インコ侍 9 光と影
 
 
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。