剣が自ら宙を舞い、バヤンガンの冠毛を切り落とす——目の前で不思議な剣の奇跡を見た一行は、何とも言えない感動に包まれた。

「これは、あなたが修業して得た力なのですか?」

 風雷坊がチャハヤに聞いた。

「いえ、私の力ではありません。私はみだりに刀を振り回したりはしません」

 チャハヤは笑った。

「シラットの古くから伝わる一番大切な教えは『実った稲穂のように、実れば実るほど頭を下げなくてはならない』(稲穂の教え)です。武術を学ぶ者は、強くなればなるほど命のはかなさに気付き、力の使い方を誤った場合の結果の恐ろしさを知ります。力を持つ者ほど、簡単に力を使うことはないのです」

「なるほど……」。風雷坊は深くうなずいた。

「不思議だな。うちの流派に伝わる奥義とまったく同じだ」。小太郎はつぶやいた。

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「クリスは古代の刀工が潔斎し祈りを込めて鍛えた刀で、クリス自身が持ち主を選びます。バヤンガンは、クリスに選ばれるには心が弱すぎた。それだけです」

「力を持つ者ほど、簡単に力を使うことはない……」

 噛虎(かみとら)は、チャハヤの言葉をかみしめるように繰り返した。

 その時、テーブルの上のクリスの1本が、柔らかく光った。

 噛虎が呼ばれたように感じ、そっとクリスに手羽をかざすと、クリスは輝きを増した。

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 チャハヤがひどく驚いて噛虎に言った。

「噛虎、このクリスは今、あなたを持ち主に選んだ。あなたに差し上げましょう」

「なんと。これは、そなたの先祖から伝わる大切な宝物ではないのか?」

「いいのです。クリスがあなたを選んだのですから。この真っ直ぐな刃のクリスの名は、『信頼のクリス』。このクリスは、あなたが自らの仕事をやり遂げ、多くの民の信頼を得るための力になることでしょう」

 噛虎はしばし目を閉じ、静かに言った。

「かたじけない。今のこの思いは、この真地噛虎、生涯忘れぬ。この刀はわが家宝とし、そなたの教えとともに、子々孫々まで大切に伝えることとする」

 噛虎は風雷坊に促した。

「風雷坊、おぬしに預けているあの品を、チャハヤ殿にお渡ししてくれぬか」

 風雷坊は1本の脇差を噛虎に渡した。

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「銘は粟穂口(あわほぐち)ホワ光。ひとたび鞘を抜けば、白いホワ毛が大量に舞い、瞬時に相手の鼻の穴を詰まらせるという、血を見ずして相手を倒す必殺剣じゃ。そなたの大切なクリスに対して釣り合わぬかもしれぬが、力を持ちながら敢えてそれを使わぬと言う強い心のそなたに、この脇差を持っていてほしいのじゃ」

「ありがとう……。プサカ(家宝)に加え、大切にします」

 一同がクリスの部屋を出ると、オカメもんが言った。

「名残りは尽きませんが、時空の引き出しがまだあの屋台に開いている間に戻りましょう。噛虎様のお屋敷の机の引き出しから出られるようにします」

「いや、待たれよ」。噛虎は言った。

「せっかくの申し出じゃが、わが屋敷ではなく、あの夜の前田鳥家の居室の机から出ることはできぬか?」

「はあ……戦闘中など明らかに危険な所ではなく居室であれば相手も丸腰ゆえ、出ることはできると思いますが……なぜ敵のふところにわざわざ飛び込むようなまねを?」

「よいから頼む」

 噛虎はにっこりとほほ笑んだ。

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 一同はチャハヤの家を出て、広場の周りを探し、例の屋台を見つけた。

 チャハヤが屋台のおやじに近付き、空を指差して叫んだ。

「あっ、見ろ! モナスがくるくる回っているぞ!!」

「なにっ????」

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 おやじが空を仰いだ隙に、オカメもんは4人を背に乗せ、引き出しの中に飛び込んだ。

 飛び込む一瞬、噛虎とチャハヤはほほ笑みを交わし合った。

 さようなら。一瞬の光のような出会いだった。

 Selamat jalan. もう会えないけど、君を忘れないよ。(つづく)

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インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
インコ侍 9 光と影
インコ侍 10 聖なる剣
 
 
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。