敢えて敵の懐に飛び込み、大将と直接、対話をする。この噛虎(かみとら)の奇策により実現した前田鳥家との会談は、夜が明けるまで行われた。

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 そして両国は、鳥家側が噛虎側の土地の所有権と知行権を保障し保護する代わりに、協力関係を結ぶ「安堵(あんど)」という形で、一滴の血も流さず和平協定を結ぶことに成功した。

 こうして、噛虎の一行は無事に屋敷に戻ることができた。

 「皆の者には誠に世話になったな。礼を言うぞ」

 噛虎は皆をねぎらった。

 「いえ、噛虎様の勇気と知恵のあるお振る舞いに感じ入りました」

 小太郎は頬を上気させて言った。

 「ふふ、まあ、とりあえずの平和はもたらされたが、残念ながら事態はめまぐるしく移り変わるもの。

 権力を握っているかのように見えるあの男とて、意外と自分の思い通りには動けない。周りにいて次の権力の座を狙う者や、はてしのない民衆の欲望を抑えることは、ことのほか難しいのじゃ。

 今日の約束も明日にはなくなるかもしれない。そういう時代にわれらは生きている。

 われらのような小国を治める者は、常に広い視野で各国の力の均衡を見極め、判断を下していかねばならない」

 「はい……」

 「ひとつの判断の誤りが、多くの民を不幸に陥れることもある。その重さにおしつぶされそうになっていた時、あの不思議な世で出会ったチャハヤ殿の言葉と、この美しい剣が余に勇気をくれた。余はもう、自分のなすべきことから逃げはしない」

 「信頼のクリス」を手に、噛虎は言った。

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 「その方らに何か褒美をつかわしたいが、何がよいか?」

 「いえ、何もいりません。もう帰ります。家に帰り、母の作る粟だんごを腹いっぱい食べたい。それだけが今の私の望みです」

 それを聞いた風雷坊とカピ蔵はカラカラと笑った。

 「おぬし、だんごだんごと、会った時からずっと申しておるが、そんなにそのだんごはうまいのか?」

 「いやあ、もう、最高にうまいのですよ。皆様にも是非、食べていただきたいなあ。私の気持ちがおわかりになりますよ」

 「では、今から皆さんをお連れしましょうか?」、オカメもんが言った。

 カピ蔵が笑った。「またおかしなところに連れて行かれるのではないか?」

 「今度は落ち着いて出発しますから、大丈夫ですよ!」

 「ははは、すまぬすまぬ」

 一同は大笑いした。

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 「母上、ただいま帰りました! 申し訳ないのですが、だんごをこの方たちにも作っていただけますか?」

 「あれえ、小太郎さん、どこへ行ってたかと思えば、こんなにお友達を連れてきて! まあまあまあ、よくいらっしゃいました。少しお待ちくださいましね。あなた、あなた!」

 小春はうれしそうに叫んだ。
inko14_04「インコ侍」完

 

バックナンバー

インコ侍 0 時間旅行へ出発!
インコ侍 1 戦国時代
インコ侍 2 忍者と勝負
インコ侍 3 秘密作戦
インコ侍 4 出城に潜入
インコ侍 5 寺の井戸
インコ侍 6 必殺技
インコ侍 7 捕らわれの姫
インコ侍 8 インコネシア
インコ侍 9 光と影
インコ侍 10 聖なる剣
インコ侍 11 贈り物
インコ侍 12 戈を止める
 
 
こまつか苗(こまつか・なえ)
ペンギン・インコ陶作家。京都の清水焼の工房で陶絵付け職人として10年働いた後、大阪の自宅に開窯し、ペンギンとインコをモチーフにした陶作品(時々、カピバラ)を制作している。本職とは違うものの、イラストと文章による「らくがきドラマ」、「ラグビーポジション・インコ解説」などを発表し、好評を博す。