【インドネシア全34州の旅】#32 中部スラウェシ州②  スラウェシの「ミニ・ラジャアンパット」

【インドネシア全34州の旅】#32 中部スラウェシ州②  スラウェシの「ミニ・ラジャアンパット」

2020-01-31

文と写真・鍋山俊雄

 西パプア州のラジャアンパットは美しい海と島々で知られる。パイネモ(Pianemo)の展望台から見た、ターコイズブルーの海に島々の点在する写真が有名である。ラジャアンパットはもちろん素晴らしいのだが、ジャカルタから遠距離で、旅行費用は高めだ。このため、インドネシア人トラベラーの間では、スラウェシ島東部にある「ミニ・ラジャアンパット」が有名になっている。

 「ミニ・ラジャアンパット」とは、南東スラウェシ州から中部スラウェシ州にかかる海域にあり、中部スラウェシ州のソンボリ(Sombori)島と南東スラウェシ州ラベンキ(Labengki)島に分かれる。

 インドネシア人のブログなどで行き方について情報収集したところ、南東スラウェシ州都のクンダリ(Kendari)から船で行くツアーが出ていることがわかった。早速、クンダリ発、ソンボリ島とラベンキ島巡りのオープントリップ(ローカルエージェントが募集する現地集合・解散のツアーで、参加者が定員に達すれば催行される)をインターネットで見つけて申し込んだ。3日間のツアーだが、初日の集合時間が早い。午前2時ジャカルタ発の直行便では、あまり時間に余裕がないため、前日夜にクンダリ入りしておいた。

 初日は、クンダリの港から小さな船に乗り込み、宿泊する小ラベンキ島(Pulau Labengki Kecil)まで向かう。海況は穏やかで、滑るように進んで行く。数々の小さい島を通り過ぎ、約3時間後の昼過ぎには小ラベンキ島に到着した。

クンダリの港から出発
小ラベンキ島に到着

 小高い丘があるほかは、平坦な砂浜が広がり、浜辺には色とりどりの家が並んでいる。ホームステイで泊まる家には4畳半ぐらいの部屋がいくつかあり、中にはマットレスと扇風機があるのみだ。家の奥には少し広い部屋があり、ホスト家族が住んでいる。

小ラベンキ島のホームステイ

 部屋の前にはバルコニーがあり、目の前にはラベンキ島、白い砂浜と美しい海が目の前に広がる。バルコニーは、食事をしたり、海を眺めながらくつろぐ場所となっている。

バルコニーからの眺め
かわいいティッシュケース

 荷物を部屋に置いた後、ラベンキ島周辺のスポットを船で巡るのに出発した。まずはラベンキ・ブルーラグーン(Labengki Blue Lagoon)と呼ばれる、何やら秘境めいた所だ。小ラベンキ島の向かいにあるラベンキ島の奥まった入り江にあり、ここには船着場も民家も何もない。浅瀬の海でボートを停めて、じゃぶじゃぶ、海の中を歩く。

歩いてラベンキ・ブルーラグーンに向かう

 入り江の周囲は切り立った岩に囲まれ、岩肌が鋭利な刃物のようだ。まるで大きな霜柱がそそり立つ彫刻のような形をしている。これをどうやって登るのだろう、と思って近付くと、ハシゴが一本、掛けてある。

ハシゴ

 あらかじめ用意していた軍手をはめて、慎重にハシゴを登った後、岩を越えていくと、目の前に、エメラルドグリーンの小さな沼が広がった。

 静まり返った森に囲まれた幻想的な雰囲気の中、沼の中には彫像のように岩がそそり立っている。沼には数々の魚が泳いでいるのも見える。ここで泳ぐこともできるそうだ。ラグーンの中にそびえる岩と一緒に写真を撮るのが、ここでのお決まりのようだ。いかにもインスタ映えするスポットである。

 次のスポットは「愛の入り江」(Teluk Cinta)という名の、ハート型の入り江。ここが最初の「ミニ・ラジャアンパット」だ。岩を切り開いた階段を登って小高い丘に上がると、目の前には、緑の生い茂る岩礁がいくつか広がる。本場の規模感ではないが、青空の下、ターコイズブルーの海に点在する島の風景は美しい。

 この風景の反対側にあるのが、ハート型に見える「愛の入り江」だ。

 初日最後、ラベンキ島にある白砂の長い海岸(Labengki Pasir Panjang)に立ち寄った。ヤシの木と白砂がひたすら続く海岸だ。再び小高い岩山に登って、高台から海岸を眺める。

 静まり返った海岸から先は、澄み切った青空と遠浅の海が広がっている。水平線が境界線となり、合わせ鏡のような風景だ。

 宿に戻ってから、小ラベンキ島の中を散歩してみた。海岸沿いの一本道の両側に家がある。

 漁に出る船の修繕をする青年、子供の髪を編みながら、おしゃべりに興じる女性たち。テレビ用のパラボラ・アンテナは時々見かけるが、スマホで何かを見ている人が多い。街中にはバレーボールコートがあり、人々が試合を楽しんでいる。船が漁から帰って来たようで、獲物を網から下ろしている。これが、ここの日常風景なのだろう。

小ラベンキ島の子供たち

 夕刻になり、ラベンキ島に夕日が沈み始めた。夕食は、地元で獲れた魚料理を食べ、テレビもない部屋で、波の音を聞きながら眠りについた。

ホームステイでの夕食

 2日目は、1時間ほどボートで北上し、ソンボリ島周辺に向かう。ここにも「ミニ・ラジャアンパット」があるのだ。

 ラベンキ島同様に階段が整備されており、岩場の上の開けた片隅に、周囲を見渡せる展望エリアがある。「展望エリア」と言っても、岩場に最低限の柵を設置しただけで、崖直下には海が開けており、あまり身を乗り出したくはない。

 初日に見たラベンキのポイントより、もう少し島の数が多く、より「ラジャアンパットらしい」風景だ。この周囲ではリゾート開発をしているようで、水上コテージも建設されている。

 この辺りにも自然の造形が見所となったスポットが多く、順番に巡ってみる。

 「ダイヤモンド鍾乳洞」(Goa Berlian)では、ダイヤモンドのようにキラキラ輝く盛り上がった鍾乳石が小高い塔となっている。洞窟の天井までは15メートルぐらいあるだろうか。鍾乳洞の内壁にも岩のつららが幾十にも連なっており、なかなか見ごたえがある。表から見ると、ただの切り立った岩肌なのだが、内部がこのような鍾乳洞になっているのは興味深い。

 次に、「アロ洞窟」(Goa Allo)に入った。波が打ち寄せ、海面に接する岩肌が削られ、出来た洞窟の中は、浅い水たまりになっている。洞窟の入口から差す光の中、プライベートプールのような雰囲気である。

 別のラグーン近くの水上住宅に立ち寄り、コーヒーをご馳走になった後、1度目のシュノーケリング。浅瀬のサンゴ礁は、シュノーケリングで十分に楽しめる。昼食は、島の砂浜で弁当を広げる。ひと気がない砂浜には、大小のヤドカリが闊歩していた。

 昼食後、海上住宅が並ぶ小さな村、ムボキタ(Mbokita)で一休み。この辺りの住民は皆、海洋民族であるバジョー(Suku Bajau)だ。スラウェシだけではなく、カリマンタン、ヌサトゥンガラ諸島域にも広がって、島の際に海上住宅を建てて住んでいる。

 元来、バジョーは陸地に定住せず、船上生活を送る民族だった。インドネシア政府の定住化政策もあり、島々の海岸に水上住宅を建てるようになったらしい。バジョーの人と話をすると、「さすがに現在では、船上生活者はまずいないだろう」とのことだった。

 バジョーの子供たちは生まれた時から海とともに暮らしているため、魚捕りも、潜りもうまい。海上住宅をつなぐデッキの上から、子供たちが楽しそうに歓声を上げ、次々と海に飛び込んでいた。その周辺で、2度目のシュノーケリングを楽しんだ。

 朝は薄曇りだったが、日中に天気が良くなったこともあり、ミニ・ラジャアンパットにもう一度立ち寄ることになった。朝の見学ポイントとは反対側の、太陽を背にして絶景を楽しめる場所なのだが、階段がなく、登るのは少々難しいそうだ。

 小高い岩山で、海岸線からは、かなり急な傾斜になっている。砂浜から岩山に登るための小さいハシゴが見える。高さは15メートルぐらい。ハシゴを登った後、切り立つ岩を軍手でつかみながら、慎重に、ゆっくり登って行き、15分ほどで頂上に到着した。

このハシゴの所から15メートル登る

 頂上には、切り立った彫刻のような岩の尖頭が連なり、足場もあまり良くない。しかし、目の前に開けたのは、登る苦労が十分に報われる風景だった。浅瀬の海の中心には深い青。そこからターコイズブルーに変わっていく。点在する岩礁に日の光が当たる。

 柵もないので、あまり冒険するわけにもいかず、写真撮影をしながら絶景を堪能し、元来た道を慎重に降りて、無事に船に戻った。陽が傾く中、ラベンキ島に到着し、2日目が終了した。

 翌朝、2時間余りをかけて、クンダリの港まで戻った。街中で昼食を取った後、空港まで送ってもらい、オープントリップは終了。クンダリの街にはあまり興味を引くものがなかったので、そのまま夕方の直行便でジャカルタへ戻った。

 このラベンキ・ソンボリ島ツアーは徐々に有名になり、周辺ではコテージ建設が進むなど、徐々に観光地化され始めているようだ。人工物がいろいろ出来る前に、自然のままの風景を楽しめて良かったと思う。「ミニ・ラジャアンパット」と名乗らなくても十分に魅力がある、美しい島々への弾丸旅行だった。