「野生のサイ、リキ」  インドネシアの自然の素晴らしさを満喫し、環境保護を学ぶ 【インドネシア映画倶楽部】第23回

「野生のサイ、リキ」  インドネシアの自然の素晴らしさを満喫し、環境保護を学ぶ 【インドネシア映画倶楽部】第23回

2020-03-04

Riki Rhino

スマトラサイ、スマトラトラ、スマトラゾウ、オランウータン、テングザル、ジャワクマタカ、ウミガメ……インドネシアの野生動物が密猟者とひたむきに闘う姿を通して、自然保護の必要性を訴える。インドネシア大学「外国人のためのインドネシア語講座」(BIPA)は、「インドネシア語の聞き取り学習の教材として良いだけでなく、インドネシアの希少動物の現状も知ることができる」として鑑賞を勧めている。

文・横山裕一

 数年前、西パプアのジャングルを取材していて、今更ながらふと気づいたことがあった。「そうか、子どもの頃世界の珍しい動物や秘境探検のテレビ番組、本を見て、憧れていた大自然のある国、インドネシアに今いるんだ」。

 日本では動物園でしか見ることのできない動物がまさに野生で生息している国。そんなインドネシアならではのアニメ映画が本作で、人間によって絶滅の危機に瀕している動物たちの厳しい現実が強いメッサージとして発信されている。

 物語は、密猟者に襲われ大切なツノを奪われたスマトラサイのリキがツノを取り戻すため、親友である野生アヒルのベニとともに旅に出る冒険活劇。道中、スマトラトラやスマトラゾウなどが密猟者に襲われるのを助けながら、リキは仲間や勇気の大切さを育んでいく。

 登場する動物たちはいずれも、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているものばかり。スマトラサイ、スマトラトラ、スマトラゾウ、オランウータン、テングザル、ジャワクマタカ、ウミガメなど。

 2018年時点でインドネシアに生息する500種余りの哺乳類のうち、実に3分の1以上の191種が絶滅危惧種となっている。特に主人公のスマトラサイは確認された生息数が百頭を下回り、「近絶滅」の危機に瀕した動物に指定されている。スマトラトラとオランウータンも同じレベル指定である。

 同作品では、各動物が実際にどこの国立公園の保護区で生息しているかも紹介している。冒険の出発点であるスマトラサイの生息地、アチェ州のグヌン・ルスル国立公園から始まり、スマトラトラの親子を助ける北スマトラ州のバタン・ガディス国立公園、さらにスマトラゾウと出会うリアウ州のテッソ・ニロ国立公園など。

 この背景には、熱帯雨林激減のため保護区でしか動物たちがすでに生息できないという深刻な現実がある。原因は開発やパーム油採取のためのヤシ林への転換、違法な森林火災などである。

 自然保護団体のインドネシア自然保護協会ワルシ(KKI WARSI)によると、衛星写真などによる調査の結果、2017年現在でスマトラ島の熱帯雨林は過去25年間で2000万ヘクタールから1100万ヘクタールとほぼ半減したことを明らかにしている。

 さらに希少生物たちが苦境に陥れられているのが、同作品でも暗躍する悪質な密猟者たちだ。インドネシア全体で過去1年を振り返っただけでも、バリ州でオランウータン密輸摘発、コモドドラゴン密輸摘発(いずれも2019年3月)、リアウ州でオランウータン密輸摘発(同年6月)、リアウ州で密猟によるゾウの死骸発見(同年11月)など後を絶たない。摘発事例は氷山の一角とみられる。

 熱帯雨林の減少に伴い、エサを求める動物たちの行動パターンが変化し、人里に出て起きる不幸も多発する。南スマトラ州では人がトラに襲撃される事故が相次いだ(2019年11月、12月)。またアチェ州では農園に侵入したオランウータンから空気銃の銃弾74発が見つかる痛ましい事件も起きている(2019年3月)。同州では猟師が仕掛けた罠にゾウがかかり保護されてもいる(2020年2月)。

 こうした絶滅危惧に瀕した動物たちに対する、さらなる保護活動や環境意識の高揚が求められる一方で、環境保護に逆行するかのような、気になる動きが出てきている。

 2020年1月、環境森林省のシティ・ヌルバヤ大臣は世界自然保護基金(WWF)インドネシアとの協力関係を打ち切る大臣令を発令した。30年余り続いた協力関係の打ち切りは一方的なもので、理由は明らかにされていない。WWFインドネシアは引き続き活動を続けるとはしているが、従来よりもスムーズに進められなくなることも危惧されている。

 さらに現在、政府が投資活動改善のため法整備を検討している「オムニバス法案」では、開発事業で事前に義務付けられている環境影響評価の実施を限定的にする可能性が出ている。経済優先で環境がないがしろにされかねないとの懸念の声も出ている。

 映画「野生のサイ、リキ」では、動物たちが密猟者とひたむきに闘う姿を通して、自然保護、環境保護の必要性を訴えている。残念ながら彼らにとっての最大の敵は、密猟者だけでなく現代文明を必要とする我々人間である。開発と自然保護のバランスは永遠のテーマである。

 上映中、サイやゾウ、トラたちが活躍するたびに観客の子供達が大きな歓声をあげていた。この記憶を大人になるまで持ち続けて欲しいというのが製作者の想いだろう。

 ただし、この映画は子供だけのものではない。インドネシア大学人文学部の「外国人のためのインドネシア語講座」(BIPA)は、インドネシア語の聞き取り学習の教材として良いだけでなく、インドネシアの希少動物の現状も知ることができるとして、ソーシャルメディアを通して受講者達に鑑賞を勧めている。

 さらにこの作品の見どころは、全編を通して映し出されるスマトラ島、カリマンタン島の熱帯雨林などの風景だ。写実的でアニメーションとはいえインドネシアの自然の素晴らしさを満喫でき、その大切さを再認識できる作品である。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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