【インドネシア居残り交換日記】 Day 14 賀集由美子(チレボン)  2020年5月11日 PSBB下でのバティック製作

【インドネシア居残り交換日記】 Day 14 賀集由美子(チレボン)  2020年5月11日 PSBB下でのバティック製作

2020-05-16

 5月6日から西ジャワ州全土で大規模社会規制(PSBB)が施行されました。チレボンは西ジャワ州の端に位置しており、車でちょっと東に走ると中部ジャワ州に入ります。

 うちのパチェ工房では、中部ジャワ州ブルベス県にある自宅に毎週末帰っているスタッフが2人。バイクで数十分ほどの距離ですが、北岸幹線道路の州境を越えないといけません。この二人は染めとシルクスクリーンを担当しており、いないと非常に困るのですが、PSBB施行前に帰省させることにしました。家が農家なので、レバラン休暇までは農作業を手伝うと言って帰って行きました。

 一方で、バティック職人や縫製スタッフはチレボン県在住、パチェ工房はチレボン市です。PSBBが施行されたらどうなるのか?

 もう面倒なので、「えーい、休みだ、休みだ! レバラン休暇1カ月!」と言ってしまいたかったのですが、レバランを控えてできるだけたくさん稼ぎたいこの時期は、皆、仕事する気満々です。工房へ来られない場合を考えて、念のために自宅でできる仕事を準備せねばならず、スッタモンダ。

 PSBB初日は、様子を見るために一応、工房はお休み。自宅で作業してもらって、足りない縫製材料をバイク便で送ったりして対応しました。その後、チレボン県とチレボン市の境は、時間帯に気を付ければ問題なく行き来できることがわかったので、2日目からは時間を早めてスタッフを送迎するようにしました。

 本音を言えば、製作しても出荷する当てがないし、この際、長期でお休みして工房の整理をするのも良いかなと考えました。しかし、スタッフを抱えている以上、仕事を与え続けないといけません。スタッフの自宅にあるミシンは調整ができていないし、直接指示ができる工房で働いてもらった方が、良い物が出来ます。

 断食月はおかずやデザートをたくさん作ってスタッフに持ち帰らせるので、それも出勤したいと思う要素の一つなようです。

蝋描きをするアアットさん

 さて、PSBBの始まる少し前に、インドラマユのバティック職人アアットさんからホワッツアップ(WA)がありました。「イブ、線描きした布、要りませんか? 売り先がなくて困っています」というもの。「仕事はあるの?」って聞いたところ「全然ないです」という答え。「そうかぁ、じゃあ、小さなクロスをオーダーしたら描く?」と聞いたら「描きます!」。そんなやり取りがきっかけで、アマビエが入った海模様のクロスを製作することになりました(→関連記事「アマビエ・バティックが出来た!」)。

 素材の木綿布は、アアットさんの近所に工房を構えるエディさんにお願いしました。私は実物大の下絵を鉛筆でダダっと描いて、宅配便でインドラマユに発送。エディさんから白生地を、私からはデザイン画を受け取ったアアットさんが自分で生地を裁断し、デザインをトレースして、蝋で布に線を描きます。線描きが終わったら、アアットさんの姪のリニさんに渡し、イセンと呼ばれる細かい線と点を描いてもらいます。

蝋描き(線描きとイセン、テンボック=背景の蝋置き)の終わった、アマビエ入りのミニスレンダン

 通常はこの後、パチェ工房に送って染めと色分け、蝋落としをするのですが……。うちの工房では染めができなくなったので、当初の計画では、エディさんの工房で染めて、エディさんの職人であるママンさんが週末にチレボンへ戻る時に出来上がり品を運ぶ、という段取りでした。

エディさん工房の染め担当、ママンさん。チャップ(判押し)バティックを作っているところ

 が、ここでまたコロナの影響が。ママンさんのインドラマユでの下宿の近所で人が亡くなり、「コロナかもしれない」と葬儀をせずに埋葬されてしまったのです。このままでは監視対象者(ODP)になってしまって帰れなくなるとあわてたママンさんは、急遽、チレボンの自宅に戻りました。

 そこで、蝋描きをした布はインドラマユからチレボンに宅配業者が運んで、ママンさんがチレボンで染めることになりました。WAのチャットで、私とエディさんが相談して配色と染料を決め、ママンさんが遠隔で染めて蝋落としをします。それをパチェ工房に届けてもらい、縁を縫製し、正方形のクロスに仕上げます。

賀集さんとエディさんのWAでの細かいやり取り

 今までいろいろな状況の中でバティックを製作してきましたが、こんなややこしいリレー方式で布を作るのは初めてです。こうして出来上がったアマビエ・バティック。販売開始したミニクロスのほかに、ミニスレンダンが間もなく出来上がる予定です。

 アアットさんの「仕事ください!」に触発され、エディさんのサポートを得て製作したバティックは「不要不急」の物かもしれませんが、バティック産地の経済は少しだけ回ります。また、作り手にとっては、新しい物が出来上がって、それを面白がってくれる人がいることに、本当に勇気付けられます。

 アアットさんのダンナさんは出漁中(現在地、パプアのソロン辺り)で、レバランまでの帰港は無理そうです。息子二人もボゴールにいるので動けず、レバランは一人で過ごすと言うアアットさん。実家は東ジャワなので、今年は帰省がかなわないエディさん。そして、農作業しながらPSBBが解除されるのを待つパチェ工房の染め担当スタッフ……コロナ収束までは長引きそうですが、早く、ボーダーを越えて自由に往来できる日が来ることを願いつつ……。

賀集由美子(かしゅう・ゆみこ)
1994年からチレボンに在住し、手描きバティック工房「スタジオ・パチェ」を主宰する。ペンギン(ペン子ちゃん)モチーフのバティック小物が人気。インドラマユ・バティックとのコラボ、シルクスクリーンとバティックの組み合わせなど、実験的な取り組みを続けている。

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