コロナ禍のインドネシアで、インドネシア在留邦人の間で爆発的に流行ったものを記録しておきたい。

 アンコロウイルスだ。発生源は中部ジャワ・ボロブドゥール。感染経路は主にツイッター。ボロブドゥール在住の石井泰美さんが突然、ツイッター上に、おいしそうな大判焼きの写真を次々に上げ始めたのだ(この経緯については、AKBインドネシア日記「TAKOYAKI KAMEYAKI 屋台始めました」をどうぞ)。

 「大判焼き」というのはなんというか、日本が懐かしくなる味であるようだ。デパ地下や店頭で買った記憶がよみがえる。かく言う私も、ぎっしりあんの詰まった「御座候」が大好き! 子供のころ、誕生日ケーキをケーキでなく御座候に替えてもらったこともあるぐらいだ。特に白あんが大好き! 厚みのある、ずっしり重い御座候、焼きたてを入れた紙袋が湿気でぐにゃっとなり、手に伝わってくるほかほかした暖かさを今でも思い出すことができる。

 しかし、自分で焼けるわけはないと思っていた。第一、型がないではないか。ところが、石井さんに続いて、いろんな人が大判焼きを作り、写真をツイッターにアップし始めた。

 バンドンの西宮奈央(@naonishimiya)さん。トレーいっぱいの大判焼き、どーん! 小豆あん、抹茶あん、白あん、チョコマーマレード。どれもおいしそう! 豆らーの西宮さん、小豆あん以外は生地にきな粉を混ぜ、それがまたおいしかったそうだ。白あんは、以前に日本で買って来た白花豆を炊いたと言う。白花豆までストックしているとは、さすが豆らー。

抹茶あん、白あん
抹茶あん、白あん。きな粉入りなので生地は茶色い
チョコマーマレード
チョコマーマレード

 ジャカルタの長町佳奈子(@KanakoNag)さんは逆に「元・豆嫌い」なので、小豆あんは隠し味にショウガを入れて一緒に煮る。

大判焼きパンデミック
大判焼き大量発生

 ほかにも、こしあんにむき甘栗を入れた「栗あん」も作った。一番おいしかったのは「こしあん+リンゴあん+チョコチップ。絶妙な甘酸っぱさで、差し入れた友人や義家族にも好評でした!」と長町さん。ちなみにリンゴあんはリンゴジャムではなく、アップルパイに入れるよりも小さめに切ったリンゴのフィリング。砂糖とレモン汁で煮詰めて、コーンスターチでとろみをつけてある。

リンゴあん
リンゴあん
こしあんとリンゴあんとチョコチップ
こしあんとリンゴあんとチョコチップの組み合わせ

 誰かが作っているのを見ると作りたくなる、食べたくなる。感染力の強いアンコロウイルスは、ジャワ島を越えて、ティモール島のクパンにまで到達した。下の写真は、クパン在住のままきらん(@mamakiran)さんが焼いた大判焼き。粒あんはトコペディアで購入し、クパンまでは送料が高いので、ジャカルタの夫に頼んで運んでもらったと言う。

小豆あん

 いいなー、作りたいなー、と思っていたら、「トコペディアで大判焼きの型が買える」と感染者の方たちから教えてもらった。大判焼きの型というか、名前は「Cetakan Martabak Mini」なので、正確にはミニ・マルタバの型。値段はたったの15万ルピア。この値段なら、遊びで1、2回作って、そのあと放置することになっても惜しくない。

 ついに、トコペディアでこの型をポチり、私もアンコロウイルス「陽性確定者」の仲間入りした。材料や作り方は、西宮さんより「見よう見まねです」「御座候の店舗の動画を見ると、イメトレ効果抜群です」とのアドバイスを受けた。

 試しに店舗動画を見てみると、高速でチャッ、チャッ、チャッ、と穴の中に真っ直ぐあやまたず生地が入れられ、ぼってりとあんこが置かれ、その上に生地がかぶせられ、ひっくり返され、引き上げられていく……。イメトレね。

 感染者第一号の石井さんにも、恐る恐る「コツとかありますか?」とおうかがいしてみたところ、「長くなるのでDMしますね」と言われた。ダイレクトメールで届いた長文には、石井さんが試行錯誤して編み出した、材料の配分から焼き方のコツ、焼きむらを防ぐ方法までもが詳しく書かれており、「企業秘密」を惜しみなく明かしてくださったことに感動した。かぜん、できそうな気がしてくる。

 生地の材料は、小麦粉、ベーキングパウダー、卵、牛乳、砂糖、はちみつ。全てインドネシアで簡単に入手できる物ばかりだ。トコペディアで購入して届いた型は、穴が8つ。ガラスの蓋まで付いていて、全然安っぽくない、しっかりした作りだ。

マルタバ・ミニの型で焼く大判焼き。あん、ピーナッツソースを入れてみた
ミニ・マルタバの型で焼く大判焼き。市販のこしあん、ピーナッツソースを入れてみた

 1時間ほど寝かせた生地を穴に入れて、弱火で焼く。最初は生地を入れすぎて、片面だけで穴いっぱいになってしまったり、欲張ってあんを入れすぎてはみ出したり、四苦八苦。何回か焼いていると少し慣れてきたが、それでも火が強すぎて焦げてしまったり、逆に火が弱すぎたり、きれいなきつね色に焼くのはとても難しい。

 中に入れるのはモッツァレラチーズがおいしかった。とろけるチーズが内部で生地と一体化し、ほのかに甘い生地とチーズの塩気が合う。ガドガド用の余ったピーナッツソースを入れてみたら、スパイシーで、おかずっぽくなって、これも良かった。

モッツァレラチーズ
モッツァレラチーズ入り

 小豆あんとイチゴジャムは一緒に入れたら、合わなくて失敗。イチゴ大福では生のイチゴを使うわけだ。イチゴジャムだけの方がおいしい。

 「ミニ・マルタバ」の型で出来る大判焼きは小ぶりで、日本の大判焼きの半分もないだろうか。作る前はちょっと物足りないように思ったのだが、作ってみると、ちょうど手ごろな大きさだ。小腹が空いた時のおやつに、朝食に、ちょっとつまむのに、ちょうど良い。

 日本の大判焼きと同ぐらいののボリューム感を求めるなら、7つ穴の型を使うと良い。7つ穴なら、出来上がりの直径は7センチ。「うちはそれで焼いています。一番、日本のに近いのができると思いますよ」と石井さん。

チカランにも感染拡大。KKさん作
チカランにも感染拡大。KKさん作

 インドネシアで感染拡大を見せたアンコロウイルス、第一波はほぼ収束したように見えるが、まだまだ第二波、第三波への警戒が必要だ。インドネシア在留邦人宅にミニ・マルタバの型が常備される「With アンコロ」の時代が来るかもしれない。
 

池田華子(いけだ・はなこ)
1999年からインドネシア在住。+62編集長。ほぼ猫アカウントと化しているツイッター・アカウントは@jakartahanachan

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