文と写真・岡本みどり
<前回のおはなし>
コロナでオンライン授業となった生徒たち。3割以下の出席率を向上させるべく先生たちは各村への訪問授業を実施しました。生徒たちの「早く学校へ行きたい」という気持ちに、どう応えたらいいか頭を悩ませています。
村への訪問授業を終えてしばらく経ったころ。
ほかの先生たちから「そろそろミッドだね、どうするんだろう」という声が聞こえてきました。ミッドって何? キョトンとする私に、先生たちは中間テストのことだと教えてくれました。たしかに。オンラインでテストをするのでしょうか。
1週間後、全教師を対象に校内ミーティングが行われました。
決まったことは次の通りです。
- 中間テストの期間…1週間(2020年9月下旬)
- 中間テストの実施方法…問題は学校で用意。先生たちで手分けしてテスト用紙を生徒宅へ届ける。生徒は自宅で問題を解く。時間無制限。本やノートを見たり、インターネットで調べたりしてもよい。後日、テスト用紙を回収(回収方法は未定)。
- 中間テストの評価…テスト用紙回収後、各教科の先生からクラスの担任へ評価を提出する。必要な生徒には補講を実施する。
テストを自宅でやるのかぁ。まぁそれは仕方ないけど、時間無制限っていうところがいかにもロンボクだなぁ。各々で時間を計ってやりなさいと言わないんだな。言ったところで守らないのが目に見えているのかしら?
私は様々なことを面白いなぁと感じながら、校長先生をはじめ、皆のやり方に従うことにしました。
ということは、まずはテスト問題だな?
日本語の先生は私しかいないので、私が問題を作成するほかありません。
しかし、日本でもインドネシアでも教師になったことがないのに、テスト問題を作成するのは難しいものです。しかも、オンライン授業ばかりでほとんど顔を合わせていない生徒に向けて、です。
私は英語の先生に助けを求めました。同じ語学の先生なので参考にできると思ったのです。
先生からの丁寧なアドバイスを受け、インドネシア語検定の過去問題を見ながら(笑)、インドネシア語の問題文を練り出し、無事にテスト作成終了。近所に住む大学生の甥にもネイティブ・チェックをしてもらいました。
このテスト問題をテスト実行委員の先生に送ります。
日本やインドネシアの他校でどうしているのかは知らないのですが、私の勤務校では、テストの際に、先生方の中から実行委員会を組織するそうです。そして実行委員会でテスト問題を印刷したり、(学校でテストをする場合は)テストの時間割作成や監視員の先生の割り振りをしたり、テスト問題の回収用封筒を用意したりします。
オンライン上の先生方のグループでは、実行委員の先生方から何度も投稿がありました。
水曜日:「テスト問題の提出締め切りは金曜日です」
金曜日:「テスト問題の締め切りは本日です」
土曜日:「きっと皆さんいろいろなご事情がおありなのでしょう。わかりますよ。日曜日まで待ちます。月曜日には印刷しますので、日曜日までに必ず提出してください」
日曜日:「提出済みの先生:◯◯先生、◯◯先生、◯◯先生……。まだの先生はすぐに提出してください」
月曜日:「印刷しますよーーーー。はやくーーーーー(悲鳴)」
え、高校の先生ってこんななの??
それともここがロンボク島の田舎の高校だから??
私はおかしいやらあきれるやら。
結局、実行委員の先生たちは月曜日に印刷をし、その後、2日間かけて、全校生徒分(500人程度)のテスト問題セットを作成していました。
木曜日、テスト用紙の配布が始まりました。
私は配布担当からは外れていたのですが、私の自宅が学校の校区域内にあるため、私の居住地の村とその隣の村の1年生への配布を手伝うことにしました。本来の担当の先生は旅行業科1年1組のU先生です。
先生たちが朝早く学校へ集まり、生徒のテスト問題を受け取ります。私はU先生と落ち合い、一緒に私の自宅まで来ていただきました。そこから生徒の自宅まで届けるのではなく、礼拝所や保健センターなど目印になる場所を指定して、そこで生徒と待ち合わせします。生徒たちの名簿を片手に責任重大な任務です。
他の教科はどんな問題なんだろう?という好奇心から、生徒たちが来るまでの間、チラリとテスト問題を見てビックリ。他の科目のテスト問題は、私が作成したテスト問題と全然違うのです。数学や語学を除いて、ほぼ全て記述式。「◯◯とは何か。書きなさい」「◯◯の果たす役割は何か。書きなさい」。えええーーー難しいーーー。そりゃあグーグル先生のお世話にもなるだろうよ。
そしてもう一つ、のけぞったことがありました。それは問題用紙と解答用紙が分かれていること。えーーー。どうしよう。私は問題文と解答場所が一緒の前提で問題を作成していました。ヤバイ。これは生徒が大混乱する……。
ツーッと冷や汗が流れそうになる気持ち半分、なんで教えてくれなかったのよーーーと、他の先生たちに言いたくなる気持ち半分でした。でもさ、よくよく考えれば、ここの先生方にとっては「問題用紙と解答用紙が別々なのは当たり前」なんですよね。当たり前すぎるから、当然、私もわかっているものとして何も言わなかったのだと思います。
私も問題文と解答スペースが一枚に収まっているテスト用紙が当たり前すぎて、何の疑問も抱かなかったからこそ、他の先生方に書式を尋ねていなかったのですから。
あー、異国で働くってこういうことかぁぁぁ。
隣にいたU先生に事情を話しました。
「あ、大丈夫大丈夫」
U先生は無責任なほどに軽やかに笑ってくださいました。
本当に?大丈夫なの?
どこが?なんで?
でもU先生が言うなら大丈夫なのでしょう。
このどうにかなるさ感が本当に助かるんだよなぁ。
「どうにかしなきゃ」ではなく、「どうにかなるさ」で回っている世界。
そんな世界に心を溶かしてもらいながら、私はその後、続々とやってきた生徒たちにテスト問題セットを一つずつ手渡ししました。