「プラスチックの島」 バリ島アーティストの環境保護へのアクション。日本人も他人事ではない 【インドネシア映画倶楽部】第30回

「プラスチックの島」 バリ島アーティストの環境保護へのアクション。日本人も他人事ではない 【インドネシア映画倶楽部】第30回

2021-05-10

Pulau Plastik

環境問題を訴えるロードムービー。バリ島のアーティストが海岸で拾ったプラチックゴミをトラックに積み、ジャワ島を横断して、ジャカルタを目指す。行く先々でプラスチックゴミ削減を訴え、人々と連帯する。日本人としても自らの国土を振り返らずにはいられない。

文・横山裕一

 断食月も残すところあと数日となった週末、久しぶりに映画館の上映情報をチェック。すると新作のインドネシア作品が上映されていることを知り、早速映画館へ。新型コロナウイルス流行禍で、2020年11月に映画館が再開したものの12月に新作が若干出て以来、ホラー映画か外国作品ばかりだったため、2021年最初の本稿執筆となった。

断食月中の映画館
断食月中でもあり閑散とした映画館

 今回の作品は環境ドキュメンタリー映画「プラスチックの島」。レジ袋やパッケージなどプラスチックゴミの削減を訴える、バリ島のロックバンド「ナフィチュラ」(Navicula)のボーカル、グデ・ロビ氏が主人公。観光地のバリ島の海岸を少しゴミ拾いしただけでプラチックゴミの山となる。レジ袋、ペットボトル、ストロー……。プラスチックゴミの削減を音楽活動を通じて訴えるだけでなく、彼はプラスチックゴミを積んだトラックで、キャンペーンのためジャワ島を横断してジャカルタを目指す。インドネシアでは、全国で毎分6トンのプラスチックゴミが海へ流出しているという。このためキャンペーントラックの荷台に書かれた文字は、

毎分トラック1台分のプラスチックゴミが我々の海に捨てられている

 本作品では、バリ島からフェリーでジャワ島へ渡り、東ジャワ州グレシック、ジョグジャカルタ特別州、西ジャワ州チルボンなどを回るロードムービーの形態をとっている。各地でゴミの深刻な現状を目の当たりにするが、人懐っこい性格の主人公・グデ氏の目を通しての素直な驚き、問題認識は、説教くさくなく、逆に深刻さを知る好奇心が高められ観るものを引きつけていく。

 特に衝撃的なのが海へ捨てられた、或いは流出したプラスチックゴミの「行方」である。プラスチックは時間の経過とともに細かくはなっても100年間分解することはなく、1ミリメートル四方に点々と確認できるマイクロプラスチックと呼ばれる物質として海中をさまよう。これを食べた魚を人が食べる。排出されずに人体に残ったマイクロプラスチックはガンなど疾病を引き起こす原因となる。

 さらに本作品内では、すでにこのマイクロプラスチックは我々の人体に入っている可能性が高いことを実証する。魚だけでなく、塩田で作られた塩など経路は様々だ。

 インドネシアは中国に次いで世界で2番目にプラスチックゴミを海洋に流出させている国であり、2018年のインドネシア中央統計庁の調べによると、プラスチックゴミの年間排出量は6400万トンで、このうち320万トンが海へ流出しているという。

 5年前になるが、ジャカルタのプラウスリブへの観光客が主に使用するマリーナよりも西方にある、ムアラアンケ港からプラウスリブの住民らが生活の足として使う定期船に乗ったことがある。定期船が出港してから10分も経たないうちに、見渡す限りの海面がゴミで埋め尽くされていた。ムアラアンケ港は複数の河口に近いためとみられるが、マリンレジャーを楽しむ観光客には知りえない、もう一面の厳しい現実でもある。

日本人にとっても「対岸の火事」ではない

 ゴミ処理技術の遅れも含めてインドネシアのゴミ問題は深刻だが、これは日本人にとっても対岸の火事ではない。日本でのインドネシア近海の魚介類の消費量が多いというだけでなく、日本近海も同様の状況になっている可能性が高いためだ。日本の使い捨てプラスチックゴミの量はアメリカに次いで世界2位と言われている。プラスチックは焼却してもマイクロプラスチックは残るとも言われていて、海に限らず陸地で最終処分したとしても、そこから想像を超えて広がってしまっている可能性もある。

 映画作品自体はインドネシア人を対象に訴えるものではあるが、前述のように、日本人としては自らの国土を振り返らずにはいられないグローバルな問題でもあり、意義深い作品といえる。

 インドネシアでのゴミ問題は深刻とは言いながら、部分的ながら日本より進んでいる点もある。バリでは1年以上前から、またジャカルタでは1年近く行われている、スーパーとコンビニエンスストアでのレジ袋の全面廃止である。当初は不便にも思ったが、気がつくと買い物袋を持って出かけるのが癖となっている。有料化だった時期は何の抵抗もなくレジ袋を購入していたことを考えると、有料化ではレジ袋の削減効果はほとんどないことが今になって実感する。現在生活する人々の子供や孫の代の健康を考えると、日本も早くレジ袋を廃止するべきではとも考えてしまう。

 本作品では始まってまもなく、主人公のグデ氏が愛娘と過ごすシーンも印象深く描かれている。グデ氏の活動の背景にある、我が子をはじめ自分たちの子孫のためにできることをやろうとしている意図も垣間見える。

 インドネシアではグデ氏のようにアート活動を通して、地域や社会のために活動を続けるアーティストが数多く目立つ。ファンや支持者とともに「コレクティブ」と呼ばれる社会活動集団が形成される。住民への生活行政サービスが行き届かない分を補うかのように、アーティストらの社会活動が機能しているのもインドネシアの特徴である。

 本作品では、これ以外にジャカルタでプラスチックゴミ削減活動を続ける弁護士の姿や、燃料のためにアメリカから大量のプラスチックゴミが輸入されている実態(日本の海外へのプラチックゴミ輸出量は2020年で約82万トン/日本財務省調べ)なども紹介され、一見の価値が十分にある。何十年も先の大事な人々のために今何をすべきか考えるきっかけともなり、前向きにこれと比べて考えれば、現在のステレスの溜まりがちな新型コロナ禍はここ何年かの一時的に我慢するものに過ぎないと思い直すことはできないだろうか。たとえ気休めでも。

 新型コロナ禍のため新作が上映されない影響か、ドキュメンタリー映画としては異例の3週目のロングランとなっている。是非鑑賞していただきたい。

インドネシア映画倶楽部 バックナンバー
横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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