進める?留める?進級会議 ㊤ 1/4が留年?! 【ぼくせん〜ロンボク先生日記】#10 

進める?留める?進級会議 ㊤ 1/4が留年?! 【ぼくせん〜ロンボク先生日記】#10 

2022-04-19

文と写真・岡本みどり

前回のおはなし>
ここは北ロンボク県、観光専門高校。私は日本語教師、ぼくせん(ロンボク先生)。授業時間中に教室外でたむろしている生徒たち。しかしそれは生徒の問題ではなく、先生が無断欠席しているためだとわかりました。しかも、震災後に学校に来なくても支援物資を受け取れたことに味をしめたという、根深い問題と知ったのでした。

 あっという間に1年目の全授業と最後の学年末テストが終わり、残す仕事は生徒一人ひとりに1年間の評価をつけることだけとなりました。

 この子はテストの点数は今ひとつだけどカンニングしないでコツコツ自分で勉強していたなぁ。逆にこの子はテストの点も課題点もいいけど、全部友達の写しだったなぁ。この子は家が遠いのに全出席で頑張ったな。一人ひとり、実際に顔を合わせた時間は少なかったけれど、いろいろな思い出があります。

 いつまでも思い出にふけっていたいけれど、そういうわけにはいきません。なぜなら、各生徒の評価を担任の先生に提出する日までに、やることが満載だからです。

  1. テストの点数や課題の提出状況などから評価をつける
  2. 及第点(75点)に達しない生徒に補講を実施。追加課題を出す
  3. 追加課題を加味して、再評価をつける

 及第点に達しない生徒が私の予想以上に多かったので、補講の実施に結構骨が折れました。それでも、追加の課題を出しても提出して来ないなど、どう考えても合格点はあげられないなと思う生徒たちもいます。初年度ながら、私はそれらの生徒には落第点をつけ、担任の先生に報告しました。

 この後、職員会議が開かれ、進級の可否を決めます。進級には次のような条件があります。

  • 生産的科目は、全科目で基準点(75点)をクリアしている
  • 生産的科目以外の科目で、基準点を下回った科目数が2つ以内である

 この2つの条件を満たせば、無条件に進級です。問題は、この条件を満たせなかった生徒たち。 落第点を取った科目が5つも6つもある子は論外ですが、ボーダーぎりぎりの生徒たちの進級を、日ごろの授業態度などを踏まえて会議で話し合います。

 そうそう、生産的科目(mata pelajaran produktif)とは、SMK(Sekolah Menengah Kejuruan=職業専門高校。日本の工業高校や農業高校などに近い)に設置されている、各職業上で欠かせない知識や技術を習得する授業科目のことです。例えば、観光・旅行業科なら「観光業」、ホテル科なら「一般管理業務(フロント業務の知識)」、調理科なら「食品学」などの座学と、忘れてはならない、校内外の実習です。

 この、実習を含む生産的科目で、1つでも基準点を下回ると、進級不可。 結構厳しいんですよ~。ちなみに、日本語は生産的科目ではありません。私も生徒もちょっと気楽です。 

授業が終わった後の、がらんとした教室
授業が終わった後の、がらんとした教室

 さて、職員会議の日。

 校長先生や各クラスの担任の先生方は大変困った顔をしていました。なぜなら、今年度の留年見込み者数が多過ぎたから。なんと、このままでいくと、1年生全体の1/4が留年するという異常事態になりました。

 すでに入学希望者が定員近くまで達しているため、そこに1/4も留年者が加われば、教室がパンクしていまいます。なんとかして、もう少し大目に見て進級させたい校長や事務局側と、「いや、この成績で進級なんてさせられないですよ」という各教科の先生方が火花を散らし、担任の先生が板挟みになる構図。会議は活発を超えて、一触即発の雰囲気です。こわいよー。

 特に、一発アウトになる生産的科目の先生方は、「コロナでオンライン授業が多かったんだから柔軟に対応して」と頼まれても譲りません。ホテルやガイドなどの現場で働いた経験のあるプロフェッショナルな方が多いので、「こんな成績で進級させたら現場で通用しません、学校の名に傷がつきます」と応戦しています。
 
 どっちの言い分ももっともだ……と聞いているだけで胃が痛くなりそうな私は、「生産的科目の先生じゃなくてよかったぁ」と胸をなでおろしました。同時に、「ロンボクの人たちがこれだけ感情的になり、しかも上司(校長)に向かって自己主張を通すなんて、ちょっと見たことないな」とも思いました。それだけ、どの先生方にも秘めた想いがあったのですね。

 双方、一歩も引かぬところに、一人の先生がこう発言しました。

 「僕はねぇ、先生方のおっしゃる通りだと思うんですよ。でも、振り返ってほしいんです。その熱意を1年間を通じて生徒たちに示し続けてきましたか? そして、生徒がしっかり踏ん張れるような機会を与えましたか? 勉強をしなかったり学校に来なかったりした生徒にも責任はありますが、僕ら教師にも反省すべきところはないでしょうか?」

 この先生に言われたら仕方がないな、というほど、若いながらも熱心で人望もあつい先生からの言葉だったので、どの先生も黙りました。

 結局、進級確定の生徒にだけ予定通りの日程で通知簿を渡し、留年の可能性がある生徒たちは、保護者を呼んで事情を伝えることになりました。伝えることは3つ。まずは、留年見込者多数のため再度職員会議をして進級の可否を決めること。次に、その結果報告を待ってほしいこと。最後に、いま一度家庭での協力を要請したいこと。

 もう何度も追試して出した評価ですから、さらなる職員会議をに不満のある先生もいました。が、私たちは何時間も話してクタクタになったので、この辺りで折り合いをつけました。

 各教師は保護者会に向けて、担当生徒のデータ詳細(出席数、課題点、試験の点数など)を準備しておくようにとの指示を受けました。もしも保護者が納得しなかった場合、どの教科のどこがどうだったのかを伝えるためです。

 保護者会は2日後。私たち教師は春休み返上でデータを整理し、保護者会の準備をしました。さぁどうなることやら。

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