「ジャカルタに仕掛けられた13発の爆弾」 息もつかせぬアクションシーン、2023年最大の娯楽大作 【インドネシア映画倶楽部】第65回

「ジャカルタに仕掛けられた13発の爆弾」 息もつかせぬアクションシーン、2023年最大の娯楽大作 【インドネシア映画倶楽部】第65回

2023-12-29

13 Bom Di Jakarta

対テロ捜査機関に届いた脅迫は「100ビットコインをすぐに振り込まなければ、ジャカルタ各地に仕掛けた計13発の爆弾を8時間ごとに爆発させる」。そして最初の爆弾が爆発、続いてMRTが爆発する。「今年最大のアクションムービー」とのふれ込みの娯楽大作。

文と写真・横山裕一

 表題のようなふれ込みで年末年始映画として上映された同作品。制作費の詳細は明らかにされないものの、通常作品の3本分の費用がかかっているという、娯楽大作だ。昨年、話題を呼んだ映画「ラデン・サレを盗め」に続くアンガ・ドゥイマス・サソンコ監督のアクション作品。

 物語はジャカルタで現金輸送車がバズーカ砲などで襲撃されたのに続き、国家の対テロ捜査機関にテログループから脅迫の犯行声明が送られる。脅迫内容は仮想通貨で100ビットコイン(約615億円相当)を早急に振り込まなければ、ジャカルタ各地に仕掛けた計13発の爆弾を8時間ごとに爆発させていくというものだった。対テロ機関は犯人から指定された振込先、デジタル金融取引会社の経営者である二人の若者を拘束し尋問するが、テログループとは関係ないことが判明する。

 捜査を続ける中、都心の高層ビルで最初の爆弾が爆発し、接触した犯人グループにも逃げられてしまう。この経緯から、対テロ捜査機関内に犯人と通じた者が潜入している疑いも浮上する。犯人追跡に手間取っているうちに、今度は高架線を走る鉄道、MRTが爆発する……。

 冒頭の現金輸送車の襲撃から銃撃戦など息をもつかせぬアクションシーンが続き、フィクションではありながらリアル感ある世界に引き込まれる。登場人物も魅力的に描かれる。規律を守らなかったため捜査から外されたにも関わらず独自に犯人を追い詰める捜査官、疑いが晴れたものの事件に巻き込まれていくデジタル金融会社の若者たち、犯人グループ、そして捜査班に潜入した犯人グループ一員の影と、終盤に向けてそれぞれが接近していく緊迫感が続く。

 アクション映画らしく、在留邦人にも馴染みのあるブロックMのMRT高架下でのカーチェイスをはじめ、都心での高層ビルやMRT電車の爆破シーンなどが相次ぐ。物語内での出来事とはいえ、身近なジャカルタ各地での爆発を見ると、2000年前後に証券取引所や米系ホテルで起きた爆弾テロをつい思い出してしまう。当時は長期独裁政権から民主化に移行した直後で、社会不安を煽ろうとする旧体制派や反米感情などが背景にあったが、20年余り経った現在、こうした娯楽映画として首都での爆弾テロシーンが登場するようになったのには時代の変遷を感じさせる。近年でいえばイスラム系過激組織による2016年の都心での自爆テロなど現実世界ではテロの可能性が全くなくなったわけではないが、かつてと比べれば格段に治安が安定してきたことを改めて感じさせる。

 個人的には物語の展開などにもう少しスピード感が欲しかった気もするが、上映時間2時間20分余りという長さは感じずに楽しめる。年末年始、一時帰国されない方は是非劇場でご覧いただきたい。(英語字幕なし)

充実期に入ったインドネシア映画〜2023年を振り返る

 さて、今年一年を振り返ると、インドネシアの現代社会、歴史を窺い知れる興味深い作品が多数公開された。巨匠ガリン・ヌグロホ監督が初挑戦したホラー作品「殺しの愛の詩」(Puisi Cinta Yang Membunuh)や、ジャワの田舎町で繰り広げられた傑作サスペンス「自叙伝」(Autobiography)、現実世界とネット世界の狭間に埋没してしまうサスペンススリラー「スリープコール」(Sleep Call)、ブヤ・ハムカの伝記作品の第1部と第2部、さらにコメディでは西スマトラ州のミナンカバウ民族の特徴を巧みに笑いに変えた「オンデ・マンデ!」(Oonde Mande!)、大人のしっとりとしたラブロマンスをユーモアを交え効果的なモノクロ映像を多用した「映画のように恋に落ちて」(Jatuh Cinta Seperti Film-film)とバラエティにも富んでいた。

 また「オンデ・マンデ!」はじめ、南カリマンタン州バンジャルマシンの子供たちを描いた「水の都、夢を開く窓」(Jendela Seribu Sengai)や、パプアの厳しい社会事情を描いた「オルパ」(Orpa)、カリマンタン島の美しい自然を背景に展開した「シェリナの冒険 2」(Petualangan Sherina 2)などでは、インドネシア各地の風土や各民族の特徴や魅力を確認することもできた。

 この他にも、日本映画や韓国映画のインドネシアリメイク版やオリジナルヒーローシリーズなども公開され、インドネシア映画界もコロナ禍から完全に脱却し、再び充実期に入っているようにも感じられる。近年、日本で一般公開されるインドネシア映画の本数が増えつつあるのも、このためだろう。

 来年も早々から楽しみな作品が予定されている。動画サイトで短編作品が爆発的にヒットし、テレビドラマ化もされた「テジョおばさん」シリーズの映画版が新年公開される。ジャワ語をマシンガンのように捲し立て、大阪のおばちゃんを思い起こさせるテジョおばさんの活躍を期待したい。また、今年インドネシア映画祭で最優秀作品賞を受賞した「ロテ島の女」も劇場未公開のため、是非公開してもらいたい作品だ。来年も映画を通して、さまざまなインドネシアの発見を楽しみたい。皆様良いお年を。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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