Rumah Dinas Bapak
東ジャワの山奥の村、オランダ時代に牢獄だったという古びた官舎で起きる不思議な現象……主演のドディッ・ムルヤントは「いるだけでおかしい」、インドネシアで指折りのコメディー俳優。終始くすくす笑えるが、まじめに怖い。これぞコメディーホラー!
文と写真・横山裕一
インドネシアでも指折りのコメディ俳優、ドディッ・ムルヤントの少年期の実話を題材にしたコメディホラー作品。ドディッが7歳時の1992年が舞台で、父親役をドディッ本人が演じる。
ドディッ少年は両親と妊娠中の姉夫婦との5人家族で、東ジャワ州ブリタールに住んでいた。ブリタールはスカルノ初代大統領の墓があることでも有名な街だ。ある日、森林保護担当の公務員だった父親が1年間限定の転勤のため、5人は山奥の村に引っ越し、官舎である年代ものの家屋で新生活を始める。
しかし、家を訪れた地元住民の話によると、この家の離れの建物はオランダ時代に牢獄として使用されていて、男に騙され投獄された女性が獄中で出産し、母子ともに無念の死を遂げたいわれをもつ場所だという。その後、ジャワ暦でいうジュマット・クリウォン(Jumat Kriwon)の日に限って、不思議なことが家族の身に降り掛かり始める…。
ジャワ暦のクリウォンとは大雑把にいうと、日本での大安や友引、仏滅などのようなもので、金曜日(ジュマット)と重なるジュマット・クリウォンの晩は聖なる夜として、霊現象など不思議なことが起きやすいと古くからいわれている。
今年に入って、ホラーに笑い要素を盛り込んだコメディホラー作品が増えているが、本作品はその中でも映像的、演出的には「真面目な」ホラー傾向の強い作品である。劇中ではお笑い役として父親の部下の2人組がいるが、それ以外でも恐怖に慄く出演者が発する真剣な発言や態度などが演出の工夫で逆に面白く、終始くすくす笑える、れっきとしたコメディホラー映画に仕上がっている。
物語の元となった、コメディ俳優のドディッ・ムルヤントは通常、一人漫談(スタンドアップ・コメディ)などでは、無表情、時に真剣な表情ながら惚けたことを言ってそのギャップから笑いを誘う芸風が特徴だが、今作品は彼の芸風がそのまま生かされたような巧みな演出が光っている。今回、父親役を演じるドディッ本人は仕事熱心で厳格な役柄に徹してはいるが、彼がいるだけでおかしさが込み上げてくる存在感は、ドディッの面目躍如といったところかもしれない。
余談だが、作品内ではジャワ語も随時使用されているが、ドディッ少年が欲しがる自動車のプラモデルとして、「タミヨ」という言葉が登場する。これは日本でも流行った模型メーカータミヤ製のミニ四駆のことで、インドネシアなどでは「タミヤ」と総称されることが多い。さらにこれがジャワ語では単語末尾の「A」が「O」に変換されやすいことから、「タミヨ」(Tamiyo)と呼ばれていたようだ。日本語がジャワ語風にアレンジされた例でもあり興味深い。
他のホラーコメディ作品は、コメディ色を出すために怖さを感じない作品が多いが、これぞホラーコメディという本作品を俳優ドディッの魅力とあわせて劇場で味わっていただきたい。(英語字幕なし)