インドネシア新首都(IKN)「ヌサンタラ」で話題の東カリマンタン州。そこの海は旅好き、ダイビング好きには有名な、インドネシアでもトップクラスの美しさだ。デラワン島と周辺の島々を巡る旅。島をただ転々とするイメージの「アイランド・ホッピング」と呼ぶにはスケールが大きすぎ、内容が濃すぎる旅だった。(文と写真・西川知子)
首都開発で変わってしまう前に
インドネシアの旅好きの間で「めっちゃいいよ」「行った?」「行きたい!」と話題に上っているのをよく耳にしていた、カリマンタン島東部のデラワン(Derawan)島。ん? デラワンって?? その名前を聞いたことがなくても、地図を見れば「ああ」と納得するだろう。ダイビングスポットとして有名なスラウェシ島マナド、そこからずーっと左へ行けば、デラワン島近辺にぶつかる。もうそこはフィリピンにも近い。ここなら海が美しいのは当然だ。
東カリマンタンと言えば、いま注目を集めているインドネシア新首都「ヌサンタラ」のある州だ。今後、首都開発で変わっていかないとも限らない。「その前に」と、デラワン島を起点にいくつかの島を巡る「オープン・トリップ」(open trip)に参加した。
オープン・トリップは「コンテンツ命」
オープン・トリップに参加するのは2回目だ。こうした「船であちこち回る」旅の場合、オープン・トリップは便利だ。自分で船を手配する面倒がないし、料金も安い。「オープン・トリップ、デラワン」で検索すると、いくつか会社が出て来る。その中から、ホワッツアップ(WA)の反応の良さなどから、「HV Trip」を選んで申し込んだ。ちなみにツアー料金は3泊4日で約350万ルピア。飛行機代を合わせた総費用は1000万ルピアほどだった。
オープン・トリップは現地集合・解散だ。デラワン・ツアーの起点は、東カリマンタンのタラカン(Tarakan)島の空港。ジャカルタからバリクパパン経由で現地へ(シティリンク使用。帰りはバティック航空の直行便。往復ともに直行便にするのは難しい)。空港でピックアップしてもらい、そこからデラワン島へはスピードボートで約2時間半。
ツアー参加者は日本人2人、インドネシア人14人の計16人。オープン・トリップは当然ながらインドネシア人参加者が主体となるため、「インドネシア人の旅行の仕方」を垣間見ることになる。これがなかなか面白くて、インドネシア人はSNSの「コンテンツ」作りへの執念が半端ない。「コンテンツ命」なのだ。これに応えるため、こうしたツアーでは、カメラマンの同行やドローン装備は当たり前。写真スポットでは順番に撮影タイムになる。旅行中にカメラマンが撮影した写真は、水中写真やドローン写真も含め、事前に持参するように言われたUSBに入れて渡される。映えコンテンツに音楽を付けて編集した動画もシェアされる。
オープン・トリップの良さは、人が多いにぎやかさと、「人がいればいるだけ情報があること」。ただし、そこそこの語学力(インドネシア語)は必要となるだろう。
刺さないクラゲは激減
デラワンに興味を持った一番の理由は「刺さないクラゲ」だった。それは、カカバン(Kakaban)島内に出来たカカバン湖にいるクラゲ。海から隔絶されて外敵がいなくなったため、刺さなくなったクラゲが生息するという、世界的に見ても珍しいスポットだ。ただし、地球温暖化の影響で湖の水温が上がったことなどから、すでに多数のクラゲが死んでしまったという。
2018年にここへ行った人から「クラゲはいっぱいいた」と聞いたが、今では少ししかいない。こんな所にも地球温暖化の影響が……クラゲはこれからどんどん減っていってしまうのだろうか。
ジンベイザメに食べられる?!
デラワン島と言えば「ジンベイザメとカメ」。ツアー2日目に「ジンベイザメと泳ぐ」プログラムがあった。デラワン島からスピードボートで30分ほどの「ジンベイザメ・スポット」へ行く。そこには魚を捕るための海上の小屋のような物があり、えさの魚を撒くとジンベイザメ3〜4匹が寄って来た。近くで見ると、びっくりするほど大きい。
ツアー参加者とカメラマンは海中に入り、「サメに食べられそうになっている写真」を撮るのに必死だ。ガイドがジンベイザメの動きを見ながら、「あっちへ行って」などと指示を出し、参加者は懸命に従う。うまくタイミングが合えば、ジンベイザメがえさの魚を食べようと口をパカーンと開けた時に、「サメに食べられそうになっているリアルな写真」を撮れる。ジンベイザメは人を食べないとはいえ、泳いでいたらフィンをくいっと引っ張られた人もいる。
海は、プランクトンでピカピカ青く光っていた。泳ぎながら、なんだかチクチクして痛いと思ったら、刺すクラゲだった。
バナナの葉でカメを呼ぶ
クラゲ運に比べ、「カメ運」は良かった! 船での移動中に、ほかの参加者たちと「カメを見たいね」と話していた。ガイドに「カメは見られる?」と聞くと、「カメなら、いつも、その辺にいるよ」との答え。そして「バナナの葉を仕掛けておくよ」と言ってくれた。宿泊先はデラワン島の海上コテージだ。夜、そのコテージの海中の柱にバナナの葉何枚かを結び、流れないように固定してくれた。バナナの葉はカメの好物という。
翌朝に海辺を散歩していると、ツアー参加者から「トモコの部屋の後ろに、めっちゃ大きいカメがいるよ!」というWAが来た。見に行ってびっくり。これまでに見たこともない、長さ1メートルぐらいもある巨大なカメだ。もし水中で出会ったら、「かわいい」と言うより「怖い」だろう。
カメは仲間を呼びに行き、その数はだんだん増えていく。最終的には5匹のカメが来て、バナナの葉を手で押さえて食べていた。バナナの葉はきれいに食べ尽くされた。
この後、カメの産卵保護区になっているサンガラキ(Sangalaki)島へ行った。水槽の中には子ガメがたくさん泳いでいる。さらに、1カ月ほど前に産卵された卵が埋められた砂地を「ちょっと掘ってみて」と言われて掘ると、子ガメが続々と出て来た! 参加者からは「うわーーっ」と大歓声。70匹ほども出て来ただろうか。子ガメは、数を数えてバケツに入れられ、水槽の中へと放された。少し大きくなってから海へ放される。
理想の南の島、怖いほどに美しい海
ツアーでこのほかに訪れたのは、マニンボラ(Manimbora)島、通称「スポンジボブの島」。ここは、真っ白の砂浜に青い海、ヤシの木、という「理想の南の島」といった雰囲気の島だ。朝食を食べてのんびりし、写真を撮ったり、海にプカプカ浮いて遊んだ。
「鏡の入り江」(Labuan Cermin)は、名前の通りに鏡のごとく透明な水。そこに白いワニの姿が見えて、一時、騒然となった。自然の地形が面白い「ハロ・タブン洞窟」(Goa Halo Tabung)もまた、怖いぐらいの美しさだった。水深は深く、フリーダイブで飛び込む人もいる。水温は低く、泳いでいると震えてしまうぐらいだ。
マラトゥア(Maratua)島は、魚が群れになって泳いでいるのが船の上からでも見えるほどの美しさ。「クラゲの湖」のあるカカバン島の沖合ではシュノーケリングを楽しんだ。ドロップオフになったサンゴ礁に、魚が群れている。
インドネシア国内のあちこちを旅行してきたが、ここは、これまで行った所と比べても「インドネシアの美しい海のトップクラス」に属する、と言える。だからこそ、世界中からダイバーがやって来るのだ。ちょっと行きにくい場所にあるのだが、そこでしか見られない多様な生き物たちを見られる。巨大なカメにかわいい子ガメ、ワニ、たくさんの魚たち。カリマンタンの川上りオランウータン・ツアーにも行ったことがあるが、川と海とではスケールが違う。インドネシアの豊かな自然を肌で感じ、その中にちょっとお邪魔している気になるのだ。