2nd Miracle in Cell No.7
韓国映画をリメイクした「7番房の奇跡」のインドネシア・オリジナル続編。単なる「二番煎じ」ではなく、心に深く訴えかける内容だ。インドネシア映画にしては珍しく2時間半近くもある長編だが、長さをいっさい感じさせない。
注:「7番房の奇跡」のネタバレあります
文と写真・横山裕一
インドネシア映画歴代6位と、586万人の観客動員数を記録した人気作品「7番房の奇跡」の続編。前作は韓国映画のリメイク版だったが、続編は韓国で制作されておらず、インドネシアオリジナルという珍しい作品だ。報道によると、ジャカルタでのプレミア上映会には韓国版のイ・ファンギョン監督も出席して「初恋の人に再会したような気持ちだ」とインドネシアでのオリジナル続編制作に歓迎の意を表している。
物語は前作から10年後の設定。前作で主人公だった知能障害のドドは冤罪ながら死刑執行されたが、愛娘イカは小学生高学年に成長し、刑務所長のヘンドロ夫妻に育てられていた。刑務所長夫妻は我が子のようにイカを愛するが故に、父親ドドがすでにこの世にいないことをイカに伝えきれず、イカによる父親宛の手紙の返事をこっそり書いていた。一方、イカは前作同様、刑務所員の協力も受けながら檻房をこっそりと訪れ、父親のかつての同房仲間と交流を続けていた。
ある日、法務省から派遣された高官が上官の権威を傘にヘンドロを休職に追いやり、自らが刑務所長の座に就いてしまう。さらに、イカが檻房に侵入していることもバレてしまい、挙げ句の果てにイカは孤児院送りにされてしまう。この背景にはドドが冤罪で死刑を受けた事件の被害者家族の思惑も働いていた……。
本作品では前作のハヌン・ブラマンティオ監督からヘルウィン・ノフィアント監督に変わったが、主要な登場人物をはじめテイストは変わらず、続編として違和感なく鑑賞できる。前作では親子愛が中心テーマとして展開したが、今回は愛情ゆえの嘘を赦すことができるかなど主題が多岐に、そしてより深く心に訴えかけられていて、単なる二番煎じの続編にとどまっていない。さらに、続編の主人公イカの両親であり故人のドド夫妻のエピソードも出会いからイカの誕生まで描かれ、前作の物語の全容を明確にもしている。
本作品について、ニュースサイトのドゥティック・ドットコムが「まるでパダン料理のような作品」とユニークな表現で評している。様々な料理が机にずらりと並べられるパダン料理に喩えて、この作品には親子愛、友情、笑い、感動の涙とあらゆる要素が込められているためで、まさに言い得て妙だ。
上映時間はインドネシア映画にしては珍しく2時間半近くもある長編だが、劇場では長さを一切感じさせない。2024年最後の新作として、是非楽しんでいただきたい。(英語・韓国語字幕あり)
さて、2024年も残りわずか。今年は910万人以上の観客動員数を記録した大ヒット作、「他とは違う」(AGAK LAEN)を皮切りに、ホラーコメディ作品が目白押しだったのが一つの特徴だった。社会現象と無理やり結びつけるならば、前大統領が法を曲げてでも退任後も権力維持しようとしたことなど民主化の後退というホラーまがいの現象を国民は呆れ、笑い飛ばすしかなかった、といったところだろうか。
このほか、2024年の映画作品では、「いつまでもともに」(Sehidup Semati)や「ハートブレークモーテル」(Heartbreak Motel)といった秀作サスペンス作品で、いずれも難しい主演の役柄を演じた女優ラウラ・バスキの好演、活躍が目立った。彼女は華人系インドネシア人だが、華人設定の役柄を超えた、現代の都会を生きるインドネシア人女性の代表的な存在を演じる女優としての地位を得た、稀に見る実力派俳優になったともいえそうだ。今後の彼女の新作にも期待したい。
以上、皆さんも良い年を迎えていただき、2025年もインドネシア新作映画をともに楽しんでいただきたい。