インドネシア、今年はどんな一年だったでしょうか? +62が主宰し、X(ツイッター)投票で決める「インドネシア流行語大賞」、2024年は接戦の末に「ヌサンタラ(IKN)」が選ばれました。次点に「イし本」! 今年のインドネシアの世相とともに読み解きます。「今年、なんだか話題になっていたアレ、一体、何だったの?」がわかります。(文と写真・知る花)
首都移転、この先どうなるか本当の所はわからない
大賞は「ヌサンタラ(IKN)」、インドネシアの「新首都」のことです。インドネシアの首都移転は、今年10月に任期を終えたジョコ・ウィドド前大統領(ジョコウィ)の肝いりのプロジェクト。今年8月17日には、インドネシアにとって非常に重要な「独立記念日」の式典を初めてヌサンタラでも開催し、「いよいよ、首都移転!」とアピールしました。それもあってか、「今年は『イー・カー・エヌ』(Ibu Kota Nusantara=新首都ヌサンタラ=の略)という言葉を、なんだかよく聞いたな……」というのが、最多得票につながったかと思います。
この首都移転、なぜか日本人の関心が非常に高いようで、Google検索ワードでは上位にランクインしています。「インドネシア 首都移転 なぜ」「いつ」「どこ」など。日本のメディアに取り上げられることの多いのが理由かもしれませんが、「近いうちにジャカルタからヌサンタラへ、まるっと、ごそっと、皆さん移るんですよね?」と考えている人が多いようです。そこに、現地での感覚と大きなズレがあります。実際は、「この先どうなるか、まだ本当にはわからない」「たとえ首都が移転したとしても、ジャカルタ市民の生活に特に大きな影響はないだろう」というのが正直な所です。
なぜ首都移転するのか?
そもそも、なぜ「首都移転」の話が持ち上がったのか? ジャカルタに数々の問題があるからです。東京にも似ている一極集中、人口過密による「世界最悪」ともいわれる渋滞、大気汚染、地盤沈下、洪水と枚挙にいとまがなく、「ジャカルタはすでにパンク状態。なんとかしなければいけない」というのは共通認識であり、正論です。
さらに、インドネシアでは常に「ジャワ島」が政治経済の中心であり、ジャワ島以外の島々(「外島」と呼ばれます)は蚊帳の外に取り残されてきた、という不満が外島にはあります。こうした不公平感を拭い去り、外島の経済発展のてこ入れにもする、というのが、ジャワ島外へ首都を移そうという、もう一つの理由です。
インドネシアの地図を見ると、全体の中央辺りに位置するのがカリマンタン島。世界で3番目に大きな島です。プレート上にあるので、地震はほぼ起こらず、火山もなく、災害に強い地域です。このカリマンタン島へ首都を移転するという計画は、スカルノ初代大統領時代からありました。スハルト大統領、スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領の時代にも話は持ち上がりましたが、実行には至らず、立ち消えました。それを強く推し進めたのが、「ジョコウィ」ことジョコ・ウィドド前大統領です。
首都移転は、大統領2期目を迎えたジョコウィの「ペット・プロジェクト(お気に入りのプロジェクト)」でした。「『インドネシアの首都移転をついに実現した大統領』として歴史に名を残したかったのだ」という見方もあります。
ジョコウィのプッシュにより2022年に国会で成立した法律で「首都をジャカルタからカリマンタン島の『ヌサンタラ』へ移す」と決まりました。バリクパパンから車で約3時間の場所でのヌサンタラ首都建設を推し進め、任期切れ直前に「インドネシア独立記念式典をヌサンタラで行う」「大統領としての執務を開始」という悲願をなんとか成し遂げ、大統領は交代しました。
今年10月に新大統領に就任したのはプラボウォ氏です。ジョコウィと手を組んで大統領選を戦ったのですが、大統領になった今では、ジョコウィの影響力はできるだけ払拭したいのが本音でしょう。ジョコウィ肝いりのプロジェクトである「首都移転」に対し、どれだけ真剣にやる気があるのかはわかりません。ジョコウィとのパワーバランスが今後どうなるかにもかかっています。
計画では、2045年に首都移転は完了します。来年から20年先、という、とても先の長い話です。2024年のうちは確かに、バリクパパンは賑わいを見せており、首都建設は急ピッチで進み、首都移転の「ガワが動いている」感はありました。しかし、その「ガワ」をどれだけ実体に一致させていくかは、プラボウォ政権が本格的な舵取りを始める来年からが本番となるでしょう。
首都移転は「ひとごと」
首都移転は実際の所、どうなるかわからない、というのが一つ。さらに、「もし本当に首都移転したとしても、自分に大きな影響はない」「移転したら、渋滞が緩和されて良いのでは?」と、緩く、かつ、ポジティブに考えているジャカルタ市民がほとんどのようです。つまり、首都移転は「ひとごと」です。
ジャカルタ近辺に住むインドネシア人はどう思っているのか、首都移転の影響を受けそうな「ミレニアル世代」と「Z世代」に聞いてみました。
まだ移転してないから影響の程はわからないけど、もし移転したとしても、ジャカルタの渋滞がなくなって、良いのではないでしょうか。ジャカルタがニューヨーク、IKNがワシントンDCになるみたいなイメージ。あ、私はIKNに移らないですよ! ジャカルタが快適です。カリマンタンは水が合わないと思います(笑)。
女性、33歳
ジャカルタはもう人がいっぱいですから、首都移転は良いことだと思います。IKNによって、もっと秩序だった、都市計画に基づいた政治の中心地が作れるのではないでしょうか。IKNは、魅力的な場所になると楽観しています。私はマレーシアの行政首都プトラジャヤに行ったことがあります。そのような、またはそれ以上の首都になると期待しています。
男性、41歳
首都移転は自分にはあんまり影響はないと思うけど、カリマンタンの豊かな森を伐採して人工的に首都にするのは、そこにしかいない動物や植物を絶滅の危機に遭わせてしまうんじゃないかと心配しています。森がなくなって大きい建物がたくさん建ったら、地盤が下がって洪水にもなるし、工場とか立ったら空気汚染にもなる。いいことない。そしたら、地球っていう惑星は、どんどん人間が住めなくなってしまう。それは、人間自身のせいです。政治家はお金のことしか考えてないと思います。
女性、14歳
ジョコウィら政治家のやりたい放題に「緊急警報」発動
個人的にはサッカーインドネシア代表の「struick strike」がインパクトあったのですが流行語でもなさそうだったので大統領選に投票しました☺️
yoichi takano.@yoichitaneko22
やっぱ今年はコレでしょうかね。
#インドネシア流行語大賞2024
Arizonian Chandler@chandlerblv
首都移転でジョコウィの話が出たので、3位の「大統領選」と4位の「Peringatan Darurat」にいってみましょう。
まず、大統領選。インドネシア語で「Pemilihan Presiden」、略して「Pilpres(ピルプレス)」と言います。2024年のインドネシアの大きな出来事が、2月14日に投票の行われた「大統領選」であり、10年ぶりの「大統領の交代」だった、というのは間違いないといえるでしょう。
結果は、初期の世論調査で人気の高かったアニス氏、ガンジャル氏ではなく、プラボウォ氏が選ばれました。それは、現職大統領だったジョコウィの「あの手この手」のせいです。「そこに手を出したら終わりでしょう」「現職大統領がそんなことをやっちゃうんだ」という「禁じ手」を繰り出し続け、国民をあきれ果てさせました。「エリート政治家」ではなく「庶民派」として打って出て、大きな期待を担って大統領の座に就いたジョコウィがそれをやった、という失望感は大きく、ジョコウィは「国民を政治に失望させた」という意味で、歴史に名を残す大統領になったと思います。
ジョコウィをはじめとする政治家たちの「やりたい放題」に対し、ついに国民の怒りが沸点に達したのが、8月下旬の「Peringatan Darurat」(緊急警報)です。青い背景に国章ガルーダ、「PERINGATAN DARURAT」の文字。「Garuda Biru」(青いガルーダ)とも呼ばれる画像が、国民の怒りの表明として、YouTubeからX(ツイッター)、フェイスブックなどで一気に拡散されました。
元々は、米国の「緊急警報システム」(Emergency Alert System=EAS)をまねた「インドネシア版EAS」として、YouTubeに動画がアップされたものです。国家非常事態宣言時に大統領が公共電波を占拠するように、青いガルーダがネットを占拠しました。インターネット上の運動だけでなく、国会前でも大規模デモが連日行われ、俳優やミュージシャンら有名人もそれに加わりました。
何が原因でこれが起こったかと言うと、大統領選に続いて大きな意味を持つ、11月の統一地方首長選挙をめぐる動きです。地方首長選は「地元のトップを決める」というだけでなく、次の大統領選への重要な布石となります。ジョコウィ自身、ソロ市長、ジャカルタ特別州知事を経て、大統領になっています。地方首長は、大統領になるための有望な道程として確立されているのです。
ジョコウィは長男ギブラン氏を副大統領にすることに成功し、さらに、二男カエサン氏を自らの地盤であるソロで擁立しようと画策します。そこで問題になったのが、年齢制限です。カエサン氏は29歳で、地方首長となる要件である30歳には達していません。最高裁は「就任時に30歳であれば出馬できる」と決定したのですが、憲法裁は「出馬時に30歳でなければならない」という判断を下しました。しかしながら、国会は、この憲法裁の決定を無視する形で、強引に法律改正を進めようとします。それに対して国民がぶち切れ、「憲法、民主主義の危機である」と、立ち上がりました。
ジョコウィがスハルト氏のような独裁王朝を築こうとしているという怒りから、デモでは「ギロチン台のジョコウィ」の人形までもが登場します。熱狂する人々の歓声にこたえていたジョコウィの大統領就任パレードからは隔世の感があります。デモは一触即発、大きな暴動や事件に発展するかも……という緊張が走ったのですが、国会はついに、民意に屈する形で、法律改正を断念しました。ジョコウィのさらなる野望は絶たれ、運動の矛は治まりました。「声を上げる」「立ち上がる」ことの重要さ、インドネシア国民の矜恃を見せ付けた出来事となりました。
ダークホース「イし本」の快進撃
今年も様々な出来事でテンコ盛り状態でしたが、それが🇮🇩クラスタ内でそのまま「流行語」として流通するかというと??ですよね。その点でいうと「イし本」はXでは恐らく邦人に一番シェアされたポジティブかつクリエイティブな、まさに🇮🇩を紡いだ「ことば」であり、要件を満たしているのかなと思いました
Y0s@wkwkjapan@Y0s_tan
最後に、「イし本」(いしぼん)です。年末にかけて一気に話題になった、今年一番のダークホースです。投票では「大統領選」も抜き去り、なんと、2位につけました。
「イし本」とは何か、と言うと、今年12月に日本で出版された「インドネシアの推しを語りつくす本」の略で、東京在住の編集者である渡辺尚子さんの制作した同人誌です。以前に渡辺さんが執筆陣に加わった「推し本(おしぼん)」「牛し本(うしぼん)」に続き、「インドネシアの推しを自由に語る」というコンセプトで生まれました。インドネシアに関わる39人が、歌、音楽、ワヤン、ジャムー、食べ物、猫など、好きなことを自由に書いているアンソロジーです。
これが予想を超える大反響。ソロ旅行でインドネシアを訪れたことをきっかけに「イし本」を制作した渡辺さんは「自分が読みたいと思ったので、作りました」「自分しか買う人はいないだろう、と思っていました」と言うのですが、日本とインドネシアを中心にあっという間に初版は完売し、重版されました。まさに快進撃です。
今はほぼ品切れ状態ですが、これから重版された分が各店舗に追加されていく見込みです。来年初めには、重版分がインドネシアにも届く予定です。インドネシアの独立系ブックストア「Post」(トコペディアに店舗あり)、セレクトショップ「Sunset Limited」、「コウジ・カフェ」で販売しています(1冊16万ルピア)。日本では「Calo」「Title」などの書店(オンライン販売もあり)等で購入できます(税込み1980円)。
なお、2025年1月から、まだまだ語り尽くせないインドネシアの推しを語る「私の『イし』」の連載を+62で開始する予定です。どうぞお楽しみに!
「インドネシア流行語大賞2024」、その他のノミネートは次の通りです。
2020 Di Rumah Aja
2021 Peduli Lindungi
2022 G20
2023 Whoosh!
に続きまして~#インドネシア流行語大賞2024
優勝 ヌサンタラ
準優勝 プラボウォ&ギブラン
次点 マレーシア風ルンダン 、ローマ教皇、入島税 LOVEBALI
おまけ Pakムルヨノ&フフファファ🦆🏆総合優勝 ジョコウィドド
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(鍵アカ)
金メダル
帰化サッカー
イオン
スシロー
ニトリ
イし本
異常気象
スターリンク
国籍選択
ちょい局地的やけど、今年の正月に噴火してずっと活動続けて、こないだバズったレウォトビ火山かな?自分的には。
おてつ@gurumwu
2024年インドネシア流行語大賞に
(DM)
Garuda ID
を推します。
参照
これまでの「インドネシア流行語大賞」の記事(2020〜2023年)↓