「エラン」 インドネシア代表チームのエースストライカーと賭博のドンとの対決 【インドネシア映画倶楽部】第84回

「エラン」 インドネシア代表チームのエースストライカーと賭博のドンとの対決 【インドネシア映画倶楽部】第84回

インドネシアらしく、サッカー、賭博、家族愛と盛りだくさんの、アクション映画。主役のガニンドラ・ニモは悪役を演じることが多いのだが、今回は純粋に良い役で、格好いい!

Elang

文と写真・横山裕一

 2025年1本目は、サッカー、インドネシア代表チームのエースストライカーと闇のサッカー賭博のドンを巡るアクションムービー。サッカー、闇賭博、格闘、親子愛と盛り沢山の様々な面でインドネシアらしい作品。タイトルの「エラン」は主人公の名前である。

 代表チームの中心プレイヤー、エランの活躍がチームの勝利を導くが、この結果を受けて、サッカーの違法賭博の胴元であるハルディマンは大損し、激怒するシーンから物語は始まる。ハルディマンは大会社の社長でインドネシア代表チームの大スポンサーでもあるが、その裏の顔は違法賭博マフィアのドンだった。

 エランは母親と妹の3人家族。母親は老人性痴呆症が進んでいて、妹が献身的に面倒をみていた。エランも母親の状態が気になるものの治療費がない。そんな折、オーストラリアのクラブチームから3カ月のレンタル移籍のオファーが多額な契約金とともに来たため、エランはこれを受けてナショナルチームを後にする。オーストラリアでエランはインドネシア人の少年と出会う。彼は病弱ながらインドネシア代表チームとエランのファンで、彼の熱狂的な姿を見てエランは再び代表チームで国家の栄誉を背に戦うことを決意する。しかし、オーストラリアでの契約終了後、帰国したエランを待ち受けていたのは、闇賭博で大金を得るため試合結果を操作しようとするハルディマンの脅迫だった……。

 作品内では闇賭博の格闘技シーンも登場する。主人公エランも子供の頃はインドネシア伝統拳法のチャンピオンだった父親のもと稽古していた設定で、迫力あるアクションを披露する。さらに闇賭博のドン、ハディルマンが抱える闇格闘技家が滅法強く、物語終盤にハディルマンの命令でエラン家族を襲う際のアクションシーンも見どころだ。

 インドネシアのサッカー代表チームは2024年のパリ五輪であと一歩のところで出場権を逃したが、近年実力をつけ活躍が目立ち始めている。しかし、一方で国内では2022年10月に東ジャワ州での国内リーグ戦後の観客暴動で130人余りの死者を出したり、2023年には政治家によるイスラエル参加拒否発言のため予定されていたU-20ワールドカップのインドネシア開催が中止されるなど不祥事が相次いでいる。こうした中、噂されている闇賭博が本作品ではフィーチャーされている。

 2025年に入って早々、韓国人の代表監督が急遽解任されたが、近年インドネシア代表チームは海外で存在感を示しつつあるだけに、「あと一歩」を乗り越えてもらいたいところだ。そんな思いが本作品にも込められているようだ。

 エランの国の威信をかけたチームへの想い、応援してくれる家族や豪州で出会った少年に対する想い、それに立ちはだかる裏社会の脅迫。エランの苦渋の選択を是非劇場でご覧いただきたい。(英語字幕なし)

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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