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11月11日

 満寿泉(ますいずみ)蔵元の枡田酒造店に入ると、代表取締役の枡田隆一郎さんが「先にお茶でも飲みます?」と奥へといざなう。畳敷きの間があって、立派な神棚があり、御神酒は当然ながら満寿泉。いろりの上に鉄瓶がかかっている。枡田さんはそこで、見事な手つきで茶碗を並べてお茶を淹れてくれた。ほんの少し淹れられたお茶を飲んでみたら、そのうまかったこと。極上のお茶だ。
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 驚いたのは、枡田さんは英語も流暢に話し、大変な教養人であること。幅広い国際的視野を持っていて、日本酒はいかにあるべきか、どう進めば良いかを考えていて、常に「新しいこと」にチャレンジしている。タイのマンゴーチップスの袋を見ては「タイのイメージがありつつ、言葉は全部、英語。世界で売ろうとすると、やはりこうかな」と販売戦略を考えたり、ワインが好きだったので、生まれ年の日本酒が飲めるようにと日本酒もエイジングをしてみたり、樽香を付けるため樽エイジングをしたり、やることが非常に革新的なのだ。日本酒とはもっと伝統的で日本酒のことだけを考えており、「磨きが何%」とかをマニアックにやっている世界だと思っていた。そうではない。
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 木が好き、石が好き、「全部買いたくなる」と話す道楽もあり、道楽と趣味と教養が相まって酒造りに活かされているようだ。そして、そういう教養人でないと、本当に良い酒造りはできないのだろう。

 蔵にも案内してくれた。産地の名前を付けた稲が並ぶ。山田錦、白萩などを使い、契約して出来た稲を田ごと買い取ることもするそうだ。米は35〜50%も磨かれて小さくなり、米粒の形が小さな丸になる。
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 室で、麹米はベッドのような「床」で寝ていた。麹の香りは栗の香り、といわれるそうだ。蔵人は泊まり込みで、4時間ごとに「手入れ」をする。満寿泉のやり方は、空調を入れて空気を乾燥させる。米粒の中へ菌糸が深く入り込むようにするためだ。麹米はかみしめると甘い。

 次に、「酵母のお母さん」の酒母を作る。甘酒のにおい。大きな容器をのぞくと、最初の段階は真っ白だ。2日ほど経つと、泡がぶくぶく、プチプチ出て、米が腐ったようなにおいがする。それが、また2日ほど経つと、すっきりした日本酒のアルコールのにおいに変化する。
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 続いて、仕込み。酒が呼吸をしてどんどん育っていく。ここの室温は10℃以下に保たれているので、寒い。米1200キロ分の酒の入った大きなタンクにはしごで上り、手であおぐと、一瞬、息ができないほどの強いにおいが鼻を直撃し、むせかえった。「におい濃縮100%」。酒に弱いデザイナーのQは、においだけで顔が真っ赤になってしまった。

 これを搾る。搾りたての日本酒を飲ませてもらった。米の味がたっぷりして、ものすごくうまい。アルコールと米がバラバラでまとまっていない感もするが、それでも十分にうまい。ただ、完成した酒は搾りたてとはまったく違い、すべてが調和してまろやかになっている。

 蔵でいろいろテイスティングをさせてもらった。

 天皇陛下が乾杯の時に、口をつけるだけでなく全部飲み干した酒が「寿」。きりっとした、とてもきれいな酒だ。水のように飲める。日本酒で日本酒を造った貴醸酒の「八塩折(やしおり。「八」は「何度も」という意味)」。八岐大蛇に飲ませて酔っ払わせたのはこの酒だそう。注いだ時からとろっとしていて、お菓子を煮詰めたように甘く、デザートワインのようなおいしさ。ワイン樽で発酵させた酒は、すぐには日本酒とわからないかもしれない味だ。かなり強い樽香と木の味がする。
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 富山の酒の特徴とは何ですか?

 「多様性ですね。東と西の文化がぶつかっており、山も海もある。すべてが富山県の中にコンパクトにミックスされている。味は淡麗辛口から濃厚芳醇まで。香りが高い酒から香りがない酒まであり、味が全然違う」と枡田さん。

 その中で、満寿泉とはどんな酒?

 「父のイメージは『古今和歌集』だった。万葉集のように素朴すぎず、新古今和歌集のように技巧に走らず。いろんなことをやっていて、新しいものにトライし続けるのが満寿泉かな。基準は、僕が飲んでおいしいと思う酒。『僕テイスト基準』です。日本人はデータで判断して、35%まで磨いたらおいしいお酒だ、とか、コストと手間をかけたら高くても良い、とか思ってしまう。自己判断力がない。そうではなく、味覚によって、本当においしい物を作り出したい」
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●枡田酒造店/富山市東岩瀬町269。Tel:+81(0)76-437-9916。9:00〜17:00、土日祝休み。
 

dscf2168●酒商田尻本店/富山市東岩瀬町102。Tel:+81(0)76-437-9674。10:00〜19:00(日祝18:00)。

 
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