batik_cirebon_DSF2192インドネシアでの生活で、男性はバティックシャツが必需品だ。バティックはインドネシアの正装。ドレスコードが「バティック」となっていることもある。バティックシャツはどこで買ったり、仕立てたらいいのか? ジャカルタの高級店やデパートで「吊るし」のバティックシャツを見ると、目の玉が飛び出るような値段(400〜500万ルピア)がさらっと付いているし、その値段のわりに、それほどいいとも思えない。どれも似たり寄ったりの色、柄に見える。これはやはり、バティックの本場へ行って、探してみた方がいいのではないだろうか。

 金曜午後、ジャカルタを出発してチレボンへ向かう。「バティック・ハンター」は弊誌編集部3人(編集長、アートディレクターのQ、カメラマンのY)+友人の虎子さん。ジャカルタを抜け、見渡す限り水田が広がるジャワ北岸の道を5時間半ほどもひた走る。夕日はすぐに沈んでしまい、夜、チレボンの街に到着した。

 賀集由美子さんの工房「スタジオ・パチェ」はチレボン市内にある。翌朝早く、工房は人のざわめきとラジオの音楽で生き返った。
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 月〜土曜日の毎日、バティック職人さんたちはチレボン近郊のトゥルスミから工房へ通って来る。下絵を描いた布を蝋で伏せ、何度も染める。細い線の蝋描きは「イセン(isen)」、背景など広い面の伏せは「テンボック(tembok)」と言い、「イセン・チーム」と「テンボック・チーム」の2つが、熱した蝋を入れた鍋の周りに輪を作る。その横で、縫製チームは黙々とミシンを動かしている。
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 工房で作った特製のバティックシャツはさすがに見事だ(扉写真、1枚目の写真、下写真)。アンティークのバティックを復刻したもので、柄の細かさに気が遠くなる。「作るの大変だった〜!」と賀集さん。古賀俊行さんがオーダーしたシャツ(後述、「買ったバティックを仕立ててみた」)の制作も、ものすごく大変だったそうだ。通常はオーダーも仕立ても受けていないのだが、われわれのために特別に仕立ててくれることになった。
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 賀集さんがどっさり買っておいてくれたカニで「カニ・パーティー」の昼食の後、いよいよ布探しにトゥルスミへ出発だ。

 まずは賀集さんが「ここに就職したい」と言うぐらいにはまっているという「プリント工場」に立ち寄った。

 バティック柄プリントの普及はすさまじい。バティック柄がインドネシア人に広く愛されているのは良いことなのだが、そもそも「バティック(=ろうけつ染め)ではない」という所が複雑な気持ちになる。しかし、そんなことを言っていられないほど、プリント・バティックを着る人は多い。
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 この工場には長さ25メートルの捺染台が4台並び、郵便局のロゴ入り制服やジャカルタらしいモチーフの小学校の制服などが印刷されていた。プリントといっても、完全にマニュアルの手作業。機械で印刷しているわけではない。
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 版代40万ルピアと布代(「プリミシマ」と呼ばれる上質の布)メートル当たり2万5000ルピアで1色刷りができる。長さ25メートルもの布を印刷して100万ルピアぐらい(2015年当時)。確かに、用途によってはプリントという選択肢もありなのだろう。

 賀集さんはここで(賀集さんの人気のペンギンモチーフである)「ペン子ちゃん」柄のプリント生地を制作し、その上にバティックを施すという新しい試みを実験中だ。

 さて、トゥルスミの道沿いにずらっと並ぶバティック店。最初に入った店で「うわぁ、これいい! あれもすてき!」とばばばーっと買ってしまい、1店で「買い物終了」となることが多いので、まずどこへ入るかが問題だ。真っ直ぐ向かったのは、賀集さんの「師匠」でもある巨匠、マエストロ、カトゥラさんの所。手描きの最高級バティックを探すなら、ここをおいてない。
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 カトゥラさんのバティックシャツ・コレクションを見せてもらった。カトゥラさんは何か行事があると、それに合わせたバティックシャツを自分で作ってしまう。チレボンのモール「チレボン・スーパー・ブロック(CSB)」でイベントがある時には「csb」と大きく書いたバティック、ワヤンの展示会に合わせてワヤン模様のバティック、娘の卒業式には卒業の日にちを入れたバティックなど。究極のオーダーメードだ。結婚式の時には親族一同お揃いのバティックを作ったが、「手描きは間に合わなかったのでプリントにした」と言う「柔軟性」も笑える。
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 カトゥラさんは好奇心と冒険心が旺盛な人だ。カトゥラさんの作る伝統柄はもちろん素晴らしいが、ちくっと社会風刺を込めたり、遊び心があったり、現代的で面白いバティックも制作している。下写真はドリアンと楽器(ギターとトランペット)という珍しい組み合わせ。蝋を伏せて抜いた白地が美しい。模様の細かさにも目を奪われる。
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 虎子さんがここで見つけたのは自動車柄のバティック。クラシックな自動車と自転車に花鳥を絡めた、ヨーロッパ風(植民地風)のおしゃれな柄。「車柄のバティックって初めて見た。自動車会社に勤務する主人に」と購入した。

 続いて向かったのは、「ブディ・マシナ」。ご主人のブディさんは亡くなってしまったが、妻のイダさんや娘さんが店を切り盛りしている。

 ここでは、面白い「シャツ用の型紙バティック(batik pola)」が次々に見つかった。「シャツに仕立てる」と最初から決めている場合、「型紙バティック」を買ってしまうと良い。前身頃、後ろ身頃、襟、袖、ポケットなど、柄がきっちりと合わさるように染められている。

 まず皆の注目を集めたのは、山、建物、道路、川という風景を描いたバティック。川には小舟が浮かんで行き交い、道路にはセンターラインまで入っている。山のふもとに建つビルはチベットのポタラ宮のようにも見えるが、案外、現代的なビルなのだろうか? なぜこんなバティックを作ったのか、不思議だ。
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 「蒸気船」も格好良い。大きくて立派な船から出た蒸気が、ぐるっとシャツ全体を取り巻いているデザインだ。
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 カメラマンのY(男性)は、「イグアナ柄」のシャツ生地を購入した。
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 イダさんは「山(前述の山柄のバティック)は重いから買わないのね」と、なにげに面白いことを言う。

 続いて、隣の「ニニック」へ。壁一面を埋める布の山にはひたすら圧倒される。圧倒されすぎて、ちょっと手が出せない。勇気を振り絞って1枚、出して、広げる。しかし、これは手強い。そそり立つ難攻不落の山。
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 そこへ、虎子さんの「猫・虎センサー」が発動。「誰が買うんだ」と言いたくなる虎柄のシャツ、虎子さんが着るとぴったり。虎の赤ちゃんがいろんなポーズを取っているかわいいバティックがあり、これも購入した。
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 何を買ったらいいかまったくわからない場合、「心の赴くままに好きな物を買う」でいいと思うが、自分に関連するテーマを決めてもいいだろう。虎子さんなら「虎・猫」と決めている。船に関連する仕事の人なら「船」、建設コンサルタントの人は「道路と建物」、鉄道好きの人は「列車」というように、テーマを決めて探してもよい。

 結局、この日の戦果は、虎子さん→自動車柄バティック、虎の赤ちゃん柄バティック、虎柄シャツ。Y→イグアナ柄バティック(シャツ用生地)。
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 翌日は、布探しの2日目。この日はチレボンを出て、インドラマユへと向かう。インドラマユのバティック職人アアットさんの自宅を訪れた。

 最高級バティックを買うならチレボンだが、そこそこの値段で手描きバティックを買いたい場合、インドラマユはお薦めだ。何しろ、値段がまったく違う。1枚15万ルピアぐらい(2015年当時)と、桁が1つ違うので、財布の中身をあまり気にせず、どんどん買える。布を切って洋服にする場合、惜しげなく使えるインドラマユのバティックは使いやすい。
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 珍しく無地の部分の多い布があり、アートディレクターのQが洋服用に購入した。私は小物を仕立てるのにマンゴー柄を2種類、虎子さんは星柄のバティックを購入した。
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 家の軒先で蝋描きをしているところを見せてもらうと、ものすごく速い。チレボンの手描きの3倍ぐらいのスピードだろうか。チレボンの細かさに比べるとざっとしているのだが、とにかく速い。あっという間に蝋描きされた布が出来ていく。
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 どんどん作り、どんどん使う。私が賀集さんに仕立ててもらった海の生き物柄のバティック・ワンピースは、アアットさんの家のカーテンを見て「同じ物を」と注文した品だ。バティックは日に当たるとすぐに色あせてしまうので、最も日が当たるカーテンに使うなど、とんでもない。でも、恐らく、「色あせたら、また作ればいい」という考えなのだ。バティックは、使うための布なのだ。

 布探し2日間の戦果は十分。虎子さんの「猫センサー」は、今度は本物の猫を多数、とらえつつ、バティック探しの旅は終わった。
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<特集>バティックを着る イントロダクション
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