インドネシア全34州の旅 #18  ジャンビ州 
東南アジア地域で最大級の広さを持つ寺院遺跡群

文・写真…鍋山俊雄 

 ジャンビ州はスマトラ島中部の少し南寄り、リアウ州の南側に位置する。大航海時代の16世紀、ポルトガルを筆頭に欧州列強が香料を求めて現れるようになるが、その少し前の15世紀初頭、スマトラ島とマレー半島に囲まれたマラッカ海峡にはマラッカ王国があり、中東、インド、明(中国)、琉球などとの交易が盛んに行われていた。

 このマラッカ王国は、この地域を長く統治していたスリウィジャヤ王国(7〜14世紀)の最後の王子が興したとする説がある。ジャンビは、このスリウィジャヤ王国時代に、パレンバンと並ぶ、交易の中心地の1つだったとみられている。

 インドネシアで、チャンディ(Candi)と呼ばれる石造寺院遺跡。最も有名なのは、ジャワ島中部のジョグジャカルタにあるボロブドゥール遺跡(仏教)とプランバナン遺跡(ヒンドゥー教)だが、スマトラ島にもチャンディはいくつかある。前回、リアウ州のムアラ・タクス(Muara Takus)をご紹介したが、ジャンビ州にも、チャンディ・ムアロ・ジャンビ(Candi Muaro Jambi)という、広大な仏教寺院群がある。

 ボロブドゥールのように、巨大な寺院が1つ、どーんとあるのではなく、「寺院群」というだけあって、バタンハリ川沿いの7.5キロ、約12平方キロメートルの地域に、80余りの寺院跡(ただし、大部分は土台部分のみ)が点在している。東南アジア地域で最大級の広さを持つ寺院群の1つとされる。

 建造は11〜12世紀ごろと推定されており、スリウィジャヤ王国、あるいはムラユ王国の建造物と考えられている。この寺院群遺跡は、2009年からユネスコ世界遺産の候補に挙がっており、現在でも暫定リストに名前が入っている。

 ジャンビは、ジャカルタから約1時間のフライトで到着する。ジャカルタで手配してあったレンタカーのドライバーと空港で会い、早速、ムアロ・ジャンビに向かった。車で40分ぐらい、バタンハリ川沿いを進むと、ムアロ・ジャンビの入口が見えてくる。最近は少しずつ観光名所としても整備され始めているようで、駐車場からの道の脇には土産物屋も目立つ。

 入口を入って、開けた目の前には、広大な野原にぽつぽつと、レンガ積みの小高い建物が目につく。高さは、最も高い所でもアパートの3階ぐらいだろうか。

 この遺跡群は熱帯林に埋もれていたのを19世紀初めに発見され、1975年から、インドネシア政府が発掘調査と復元をしている。どれも形は非常に似ていて、まだ修復途中なのか、あるいは完成形なのか、見ただけではわからない。形は、ジャワ島でいくつか見たことのあるチャンディとは違い、お隣のリアウ州のムアラ・タクスとも異なる。 

 園内は最初に地図で見た通り広大で、チャンディは東西に点在している。レンタル自転車(1台1万ルピア)で回ることにした。案内に沿って、入口から東側、そして西側へと走ってみて、数カ所のチャンディを見学した。

 進んでいくうちに、「Candi Sialang」と看板は出ているものの、単に、崩れたレンガの山となっている所を見つけた。まだ修復されていない状態のチャンディで、このような状態の物が、この広大な地域のあちこちに数十もあるのだろう。

 道は舗装が終わるとレンガを敷き詰めた観光歩道になる。中心から少し離れると、そのレンガが崩れ、雑草も多く、自転車ではなかなか進みづらい道になってくる。東西ともに15〜20分も自転車で進むと、人気のない森の中へと入り、表示もあまりなく、1つのチャンディから次のチャンディへの距離も離れている。

 修復済みのチャンディは中心部に集まっているようだ。あまり遠くへ行っても、単に瓦礫の山や土台のみとなっている所が多そうなので、元の場所に引き返すことにした。

 今から1000年近く前は、この地域はどのような姿だったのだろうか。瓦礫の山も、かえって想像をかきたてる。

 午後からは、ジャンビの街中を見学した。ここの大モスク(Mesjid Agung)は、独特のデザインだ。壁がなく、柱のみで支えられており、「1000本柱のモスク」として有名だそうだ(実際の柱の数は256本)。壁がなく、風通しが良くて涼しそうだ。各州を旅行する時、大モスクは街の象徴でもあるので、できるだけ行くことにしているのだが、このユニークなモスクは中でも印象深かった。

 次は、街の中心を流れるバタンハリ川を渡る橋「Gentala Arasy Bridge」へ。比較的新しい街のアイコンである、この吊り橋は、2012年に建造された歩行者専用橋だ。バタンハリ川を直線ではなく、S字形をした530メートルの道路で渡っている。車が通らないので、歩行者が思い思いにゆっくり、橋の上から川の景色を眺めながら渡って行く。マーケットのある側から渡った反対側には、「Gentala Arasy Tower」という時計台があり、こちらも橋と並んで、街のアイコンだそうだ。

 ジャンビはジャカルタから近いので、これらのポイントを回るだけであれば、日帰り旅行でも十分に楽しむことができる。今となっては地方都市だが、このマラッカ海峡周辺が賑やかだった時代の歴史を今の風景に重ねて、この地域を巡るのも楽しい。

 

 

鍋山俊雄(なべやま・としお)
インドネシア在住期間は計12年になる。仕事でジャワ、カリマンタン、スマトラへの出張が多いことに加えて、「週末弾丸トラベラー」としてインドネシア各地を放浪し、全34州を訪問した。

 

インドネシア全34州の旅
#0 空港
#1 北スラウェシ州 インドネシアの最北端?
#2 アチェ州 インドネシア0キロ地点と津波の跡
#3 ブンクル州 英国の砦、スカルノの足跡
#4 南カリマンタン州 川の街の水上マーケット
#5 バンテン州 バンテン王国跡へ、列車の旅
#6 西カリマンタン州 春分の日に赤道へ 影がなくなった!
#7 南東スラウェシ州(上) 波の音しか聞こえない、ぜいたくな空間
#8 南東スラウェシ州(下) インドネシア最大級、ブトン王国の城壁都市
#9 バンカ・ブリトゥン州 アホック前知事の故郷、「ラスカル・プランギ」の島
#10 リアウ諸島州 最北端の島の1つ。石群が織りなす造形

#11 西スラウェシ州 トラベラーの中でも「まだ行ってない」率が高い

#12 パプア州 ①国境編(ジャヤプラ、メラウケ) 国境の看板の向こうは熱帯雨林

#13 パプア州 ②山編(ワメナ) 伝統の残り香のあるうちに

#14 パプア州 ③海編(ティミカ・パンタイ) 船で新しい土地へ

#15 パプア州 ④戦争編(ビアク) 息をのむ美しさの海、戦争の名残り

#16 西パプア州 ラジャアンパットを一人で弾丸旅行する方法

#17 リアウ州 仏教遺跡と王宮

西宮奈央さんのMasak Kira-Kira 
#18 ベトナム風蒸し鶏とスープ(フォー・ガー)

 訪れるたびにその土地の料理にうっとりし、食べ尽くせないことを悔やみながら戻って来る国があります。ベトナムはその筆頭です。インドネシア料理も大好きですが、また異なるスパイス、そして多彩なハーブ使いなど、その味わいのバリエーションには感心してしまいます。

 現地の味をどうにか家で作れないかとやってみることもあり、今回ご紹介するのは、フォー・ガー(鶏スープの米麺)にチャレンジした際に出来たレシピです。本場の作り方とは違うでしょうし、「フォー」を名乗るには躊躇してしまうのですが、それでも大分、「近い」味が出来たのではないかな、と思っています。

 作り方は至って簡単です。蒸し器を使います。香味野菜とスパイス入りのお湯で、あらかじめ下味をつけた鶏を蒸すことによって、鶏の風味は逃さずにスープに活かし、蒸し鶏はしっとりジューシーに仕上げます。スープに対して蒸し鶏の量が多いので、蒸し鶏は別途、サラダやサンドイッチなどにしてお召し上がりください。

 ポイントは、下味の際に使うパクチー(香草)の根。パクチーの根は葉以上に強く香るので、これを活用しない手はありません。パクチー好きな方は是非、根付きの物を買って、お試しください。

 わが家では、日々の料理で出るニンジンや大根の皮、ネギの青い部分などを冷凍して保存しておき、スープで使う香味野菜に活用します。ゴミを減らせますし、野菜も余すところなく使い切ることができます。

 魚醤はベトナムの場合、ヌオックマムですが、タイのナンプラーでも問題ありません(インドネシアで「ケチャップ・イカン」として売られているもののほとんどは、タイのナンプラーです)。

 フォーにしたくて考えたレシピなので、蒸し鶏とスープが出来たら、麺を入れたくなります。フォーのような米麺はもちろん、冷や麦などの乾麺や、冷凍うどんでも、おいしく食べられます。蒸し鶏とスープをおかずとお汁として、ご飯と一緒に召し上がっても。ちょっと異国風の味わいを、お楽しみください。

材料
鶏胸肉 daging ayam (dada) 1羽分
魚醤 kecap ikan 大さじ1半
はちみつ madu 大さじ1
ニンニク bawang putih 1片
パクチーの根 akar daun ketumbar 大体、2株分

[スープ]
ショウガ jahe 30g
レモングラス serai 30g
大根 lobak 20g
ニンジン wortel 20g
ネギの青い部分 daun bawang (bagian hijau) 15g
シナモンスティック stik kayu manis 1/2本
八角 bunga lawang 1片
粒黒コショウ biji lada hitam 小さじ1/2
水 air putih 800ml
塩 garam 適量
魚醤 kecap Ikan 適量
ライム jeruk nipis 適量

作り方
1.鶏の胸肉は半分に切り分け、脂身や筋などがあれば取り除く。串やフォークなどを使って全体を刺し、味が染みやすくする。はちみつ、魚醤に、すりおろしたニンニク、細かく刻んで潰したパクチーの根を合わせて、よく混ぜたものを全体に揉み込む。ラップをして、1時間から一晩、寝かせる。
2. ショウガとレモングラスはたたいてつぶし、大根とニンジンは半分〜1/4に切る。蒸し器になる大きさの鍋に、塩と魚醤以外のスープの材料を入れ、火にかける。沸騰したら弱めの中火に落とし、蒸し器に1の鶏を入れる。15分ほど蒸したところで、鶏肉の中まで火が通ったか確認し、火が通っていれば、取り出して自然に冷ます。
3.2の蒸し器に残っているスープを漉して、香味野菜やスパイスを取り除く。鍋に戻し、塩、魚醤で好みの味に整える。 麺で食べる場合は、別途、麺を湯がき、好みの野菜やハーブなど (いずれも分量外)と、裂いた2の鶏を添え、ライムを搾る。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA西宮奈央(にしみや・なお)
イギリス出身の写真家の夫とバンドン在住。ご飯は食べるのも作るのも大好き。インドネシアで簡単に作れる料理をご紹介します。
 
 
 
西宮奈央さんのMASAK KIRA-KIRA バックナンバー
#1 イチゴとクマンギのシャーベット
#2 ココナッツ・レモン・チキン
#3 ソムタム2種
#4 パン粉のスープ
#5 花椒風味の中華風チキン
#6 キャロット・ジンジャー・ケーキ
#7 タンドリー風の焼き魚
#8 桜色のビーツのペスト
#9 チェコ風ジャガ芋のパンケーキ
#10 ナツメヤシのトリュフ
#11 ラープ
#12  キャッサバとココナッツの焼き菓子
#13 3色のスープ
#14 アボン・イカン
#15 イカン・カンジョリ
#16 トウガラシのジャム
#17 カリフラワーのスパイシー・フリッター