「人質のヒーロー」 マラッカ海峡で海賊事件が発生、海軍が立ち向かう 【インドネシア映画倶楽部】第118回

「人質のヒーロー」 マラッカ海峡で海賊事件が発生、海軍が立ち向かう 【インドネシア映画倶楽部】第118回

The Hostage’s Hero

海賊に襲われ、人質となった船員救出のため、インドネシア海軍が作戦を展開する。海軍が全面バックアップし、フリゲート艦やスラバヤの港湾基地などを実際に使用して撮影している。国軍映画が増加しているのは、国軍出身のプラボウォ政権の反映だろうか。

文と写真・横山裕一

 マラッカ海峡での海賊事件に対してインドネシア海軍が立ち向かう、実際にあった事件を基にした作品。フリゲート艦やスラバヤの港湾基地など海軍が全面的にバックアップして制作されている。

 物語は2004年に起きたインドネシア国籍の貨物船での海賊による占拠、船員人質事件が再現される。海賊はスマトラ島東岸域を拠点にした集団で、自動小銃などで武装した凶悪犯。通報を受けた海軍本部はタウフィック中佐を現地指揮官に任命し、フリゲート艦で海軍特殊部隊員らが現場海域へと向かう。

 マラッカ海峡はスマトラ島とインドシナ半島に挟まれた海域だが、日本を含めた東洋と中東地域や西洋を結ぶ重要な航路だ。大航海時代を含めて古代から現代に至るまでその位置付けは変わらない。現在でも年間9万隻もの貨物船やタンカーなどが往来しているといわれている。マラッカ海峡往来の前後で停泊するシンガポール沖での船舶群を見ただけでも、マラッカ海峡の重要さが窺える。

 このため、同海峡での海賊犯罪は古くからあるが、1997年のアジア通貨危機に端を発した経済危機の影響で2000年前後に船舶の海賊被害が急増した。日本の船舶もたびたび被害に遭っていて、深刻な国際問題にもなっている。本作品はこうした時期での海軍の対応が描かれている。

 アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)によると、海賊事件は一時期減少したものの、2025年には上半期だけで80件が発生、前期比で4倍にまで増加しているという。現在においても深刻な問題で、本作品は20年前の事件を取り上げてはいるものの、タイムリーなテーマ設定でもある。

 本作品を含め、国軍アピールを兼ねた作品が相次いでいるのも最近のインドネシア映画界の特徴だ。2025年には東ティモールでの独立派ゲリラやパプアでの武装集団との戦闘を描いたいわゆるインドネシア陸軍映画が2本上映され(BELIEVE TAKDIR・MIMPI・KEADILAN / TIMUR)、今回は海軍。本作品は前2作品ほどナショナリズム高揚は強調されていないが、国軍映画の増加は国軍出身のプラボウォ政権時代を反映しているようでもある。陸軍、海軍に続き、空軍の作品もいずれ登場するかもしれない。

 本作品は海軍らしく、作戦会議や担当者決定、任命などが段階を踏んで描かれるなど、一種ドキュメンタリーのようでもあり、エンターテイメント作品とは若干異なった構成がとられている。是非この機会に劇場で鑑賞していただきたい。(英語字幕なし)

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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