「ティムール」 「ザ・レイド」のイコ・ウワイスが監督・主演し「プラボウォ」も登場 【インドネシア映画倶楽部】第107回

「ティムール」 「ザ・レイド」のイコ・ウワイスが監督・主演し「プラボウォ」も登場 【インドネシア映画倶楽部】第107回

Timur

映画「ザ・レイド」のイコ・ウワイスが監督・主演を務め、息をもつかせぬ迫真のアクションが展開する。しかし、国軍が撮影協力した作品であり、そこには時代を反映した意味が隠されているようでもある。

文と写真・横山裕一

 パプアで武装集団が誘拐した研究者らを救助すべく、インドネシア国軍の陸軍特殊部隊が活躍するアクションムービー。陸軍が撮影協力し、作品には現地の部隊長として、プラボウォ・スビアント現大統領を思わせる役柄も登場する。

 物語はパプアで動植物の研究調査をしていた国内外の研究者とスタッフが武装集団に襲撃、誘拐されるところから始まる。誘拐された民間人を救助すべく、政府は陸軍特殊部隊のチームを編成する。派遣されたチームメンバーのティムールは幼少期、パプアで育ち、パプア民族の同年代の子供2人と兄弟同然に過ごした経験があった。「兄弟」の一人、シラは同じ特殊部隊の隊員で今回のメンバーに同行していた。しかし軍の情報によると、残る「兄弟」の一人、アポロが武装集団のメンバーに加わっているようだった。ティムールとシラの辛い任務遂行が始まる……。

 作品ではインドネシア陸軍が撮影協力しているだけあって、特殊部隊ならではの任務遂行活動を窺うことができる。また、かつて日本でも公開され、話題を呼んだアクション映画『レイド』シリーズ(The Raid/2011年作品、同2/2014年作品)で主演したイコ・ウワイスが本作品で監督・主演を務めるだけに、息をもつかせぬ迫真のアクションが展開する。

 純粋なアクション映画としては楽しめるが、同作品にはそれだけではなく、現政権の時代を背景に、独立運動の続くパプアにおける国軍の活動アピールといった要素も込められているようだ。作品内にプラボウォ・スビアント元大統領と同名の現地司令官も登場する。演じる俳優も若き現大統領にそっくりな顔の役者だ。プラボウォ大統領は陸軍時代、特殊部隊司令官をはじめ、戦略予備軍司令官などを歴任している。また作品内では国軍の略称を現在の「テーエヌイー」(TNI)ではなく、スハルト政権時の「アブリ」(ABRI)と呼んでいる事から、時代はその頃の設定とみられ、現地司令官はプラボウォ大統領本人を示しているようだ。

 インドネシア国軍は1998年の民主化後、それまでの国防治安と政治の二重機能が指摘されて政治活動を禁じられ、さらに国軍から分離された警察が国内治安を担当したため、国軍は国防に専念することとなり、軍内部では不満もあったといわれている。しかし、元国軍幹部のプラボウォ大統領就任以降、陸軍駐屯地の増設やポスト拡大、さらに退役軍人の政府機関への登用範囲を広げるなど、国軍の権限拡大だとして指摘する声もある。

 またパプアの独立運動問題については、独立派武装集団が外国人パイロットを誘拐した事件なども過去に起きていて、2021年、政府は独立派武装組織をテロ組織に指定している。本作品もこうした事件がモチーフになっているようだ。しかし現在、外国メディアがパプア取材を禁じられているように、パプアでの実態や国軍の活動内容は明確にされていないのが実情でもある。

 こうした国軍を取り巻く経緯・時代を反映して本作品は、国軍の活躍を通して国軍の正義感イメージのアップやナショナリズム高揚が強調されている。その背景には現在の国軍復権を国民にアピールしているようにも窺われる。似た作品としては本稿でも紹介した「ビリーブ〜運命・夢・勇気」(2025年9月公開))があり、今後もこうしたプラボウォ大統領指揮下の国軍アピール作品が度々制作されていく傾向にあることも予想される。

 単なるエンターテイメント作品にとどまらぬ本作品が、プロパガンダであるかどうか、ぜひ劇場で見極めていただきたい。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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