「獄中のゴースト」 ジョコ・アンワル最新作は、怖いけど笑えるエンターテインメントと社会批判 【インドネシア映画倶楽部】第121回

「獄中のゴースト」 ジョコ・アンワル最新作は、怖いけど笑えるエンターテインメントと社会批判 【インドネシア映画倶楽部】第121回

Ghost in the Cell

負のオーラを持つ者から殺されていく? 逃げ場のない刑務所の中で起きる、ナゾのゴーストによる殺人事件。本格的なホラーでありながら笑える、これぞホラーコメディー。社会風刺も盛り込んだぜいたくな作品だ。

文・横山裕一

 近年、ホラーやスリラー作品でヒット作品を手掛け続ける鬼才、ジョコ・アンワル監督の最新作。囚人たちに襲いかかる謎のゴースト、次々と変わり果てた姿を見せる犠牲者たち。インパクトのある劇場ポスターさながら、本格的なホラーでありながら、登場人物の必死な行動が滑稽に見えてくる、怖くも笑えるホラーコメディの決定版。そして、獄中の物語ではあるものの、一般社会を映し出してもいるような見応えたっぷりな作品だ。

 物語の舞台はとある刑務所。ひと癖もふた癖もありそうな囚人たち、権力を笠に着て暴力もいとわぬ看守長、そして汚職で受刑中の大企業幹部に高待遇を提供し、見返りを受ける刑務所長と、暴力や不公正、汚職にまみれた場所だった。

 ある日、殺人の罪でジャーナリストのトケッが入所する。それ以降、不思議なことに囚人たちが一人、二人と残虐な姿で殺害されていく。恐れ慄く囚人たち。囚人たちはトケッの存在を訝るが本人には身に覚えがない。そして、囚人たちは怒りや狂気など負のオーラに包まれた者が死んでいくという共通点に気づき始める…。

 作品では謎の霊が殺人を繰り返していく純粋なホラー部分と必死に犠牲者になるまいと振る舞う囚人たちの滑稽なコメディ部分が上手く絡み合って構成されている。近年、ホラーコメディ作品はインドネシア映画のトレンドとして、多数制作されているが、ほとんどはコメディに比重を置いた、ホラー風味のコメディ作品だったが、本作品は本格的なホラーの怖さをとどめたまま、笑い要素も交えた、これぞホラーコメディといえそうな構成だ。

 作品内で横行する権力の下の暴力や不公正、汚職は、獄中内でありながら、まるで一般社会での出来事であるようにも見えてくる。ジョコ・アンワル監督も記者会見の中で「生きていくこと自体が(不条理な)刑務所の中にいるようなもので、我々は抜け出すことができない。そこで何をすべきかを描いた」と話している。作品の巧みさは「そこで何をすべきか」をコメディタッチに描いているところで、本作品の見どころでもある。

 さらに物語はトケッがかつて東カリマンタン州で取材した森林開発に絡み多くの死者も出した汚職事件が絡んでいく。物語が進むにつれて、残虐な殺人を繰り返す謎の霊が正義の味方なのではないかとまで思えてくるところも興味深く、同監督のストーリーテラーとしての巧みさの本領発揮ともいえそうだ。

 マニアックではあるが、囚人をはじめとした登場人物を演じる俳優陣は、過去のジョコ・アンワル作品に出演した役者が勢揃いしていて、物語とは別に心躍ってしまう楽しみもある。

 本格的なホラーコメディといったエンターテイメントの中に、世の中の不公正や汚職批判といった社会的要素も交えた、贅沢な作品だ。本作品は欧米をはじめ世界86カ国で上映が予定されているという。しかし残念なことに日本では上映予定が無いようだ。それだけに是非この機に劇場で味わってご覧いただきたい。(英語字幕なし)

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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