「香料諸島」として世界史にその名が刻まれている、マルク諸島。北マルクは世界で唯一、丁字(クローブ)の採れた場所だ。今年のレバラン休暇は、北マルクのテルナテ島で過ごすことにした。ジャカルタからは直行便で約3時間半と、実は行きやすい。歴史好きにはもちろんだが、ただのんびりするのにもいい島だ。(文と写真・西川知子)

「島」というより海に浮かぶ「山」
ジャカルタからの直行便で、テルナテ島の空港に降り立った。「テルナテ・ティドレ」とセットで言われることの多い、双子のような島だが、テルナテの方がティドレよりも町の規模が大きい。テルナテにはダイビングショップもある。
テルナテもティドレも、そしてその周りの島々も、どれも真ん中にどーんと山があって、山の麓に街がある。「島」というよりも、海の中に「山」が浮かんでいるようだ。どこを見ても、小さい「山」や中ぐらいの「山」ばかりが海に浮かんでいる景色が続き、「あれ? この島はどの島?」と、すぐにわからなくなってしまう。

テルナテもティドレも、島一周が40キロぐらいだ。バイクで回れる距離なので、ホテルでバイクを借りて一周した。
島の道を走っていても、景色はあまり変わらない。山、海、青い空、そして、モスク。モスクは何百メートルかに一軒、というぐらい、ジャカルタでは見ないほどの数があった。海岸には、まるで海に浮かんでいるように見えるモスクもあった。

のんびりした静かな島だ。道の途中で、広くて立派な要塞跡や、怖いぐらいの緑色をした湖にも立ち寄った。テルナテの王宮には、王様が「在王宮」と示す旗が揚がっていた。王様もレバランで帰省しているのだろう。




バイクを積んだ渡し船が面白い!
テルナテからティドレへの渡し船が面白かった。どちらの島でも「足」はバイクとなるので、島民たちはバイクを持って移動する。フェリーもあるが、それほど本数はないので、この渡し船の方が利便性は高い。
港へ行って、入場料を払って中に入ると、そこにはバイクを持った人たちが集まっており、その場でなんとなく並んでいる。港に停泊している舟2台に振り分けられ、どちらの舟に乗るかが決まれば、バイクはそこに置いて、人は先に乗ってしまう。

バイクを舟に乗せるのは、係の人がやってくれる。舟までは板を渡しただけで、おまけに結構な傾斜だ。バイクを海に落としてしまいそうなのだが、そんなこともなく、見事にバイクを乗せたり下ろしたりしてくれる。素人には到底できない熟練の技なので、これはお任せするのみ。(下がバイク載せの動画)
舟の上にぎっしり20台ほどもバイクを並べて出発する。乗っている時間は15分ぐらい。気持ち良い海の道だが、時々、揺れる。よくバイクが落ちないものだ。舟に乗っている間に、料金を集める人が回って来るので、船賃を支払う。向こうの島に着いたら、同じように板を通してバイクを下ろしてもらって出発だ。


1000ルピア札の風景は?
テルナテ・ティドレは丁字の産地として香料争奪の舞台となったほかに、「1000ルピア札の風景」として有名だ。旧1000ルピア札の裏面に描かれているのは、テルナテ島から見たティドレ島とマイタラ島で、手前に一艘の舟が浮かぶ、のどかで風光明媚な景色だ。
この景色はフィトゥ海岸(Pantai Fitu)から見ることができる。フィトゥ海岸の近くに湖があり、少し小高くなっているそこが、写真撮影スポット。旧1000ルピア札を拡大した物と一緒に、または、自転車に乗って空に浮いているような格好で、湖と2つの島を背景に写真を撮ることができる。ここでの写真撮影は有料だ。

1000ルピア札の実際の景色は、湖ではなくてフィトゥ海岸から見たものだが、そこには誰もいなくて静かだった。
この景色を見た感想は「へえーー」「あーーこれかーーー」というもの。残念ながら、財布の中には新しい1000ルピア札しか入っておらず、テルナテの店で「旧1000ルピアはあるか?」と聞いてみたが、当然ながらなかった。

プラムディヤの評伝を読む
ホテルはテルナテ島南部の山中にある「ヴィラ・マラサイ」(Villa Ma’rasai)にした。街中よりも静かな所が良くて、ここを選んだ。周囲は緑濃く、ものすごく静かだ。そして眺めは「1000ルピア札ビュー」。ティドレ、マイタラの2つの島が見える。こぢんまりしたホテルだが、部屋もバルコニーもとても広い。エアコンはよく効いている。


このホテルで、「プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代」(押川典昭著、めこん、2025年)の上巻を読み始めた。インドネシア人作家のプラムディヤは、ここから南へ行ったマルク諸島のブル島で、「人間の大地」など「ブル島4部作」を書いた。この本は、そのプラムディヤの評伝だ。「読み始めるスタートはマルクにしよう」と思い、分厚くて重い本をわざわざ持って来た。
ジャカルタではなく、北マルクの静かな場所で読むのは「特別感」があった。インドネシアは広い。実際に行かないと感じられないこと、その地に降り立ってみないとわからないことがある。この本をマルクで読み始められて良かった。ブル島が主要な舞台となる下巻は、ブル島で読みたいものだ。

■Information
・ジャカルタ—テルナテの直行便あり(ガルーダ航空、バティック航空)
・テルナテ島ではGrabが利用できる
■値段の目安(2026年3月現在)
テルナテ・ティドレ間の渡し船 バイク1台と人2人で5万ルピア(片道)
ホテルでのバイク・レンタル 1日15万ルピア
ホテル 1泊75万ルピア

