バリガムランは自分で演奏してこそ面白い! はなさんの「私のイし(インドネシア推し)」

バリガムランは自分で演奏してこそ面白い! はなさんの「私のイし(インドネシア推し)」

2025-09-29

華やかな音が空中に飛び散るようなバリガムラン。その魅力は一体、何でしょうか。ジャカルタでバリガムランを習い始めて、「『お稽古の一つ』から『生涯のイし』になった」と言う、はなさんが魅力を語ります。聞いていると、やってみたくなる?!

2025年8月のオダランでの演奏の様子(動画=音声付き)

文と写真と動画(=音声注意)・はな

「脳トレ」、自分史上最難度の大技!

 バリガムランを始めて9カ月という「ガムラン界隈の入口」に立ったばかりの私は、演奏を聴くよりも自分で演奏する方が面白い。最初は黒ばかりだったオセロが少しずつ白に変わる、そんな魔力を宿している「私のイし」、バリガムラン。

 青銅製の鍵板楽器「ガンサ」は、木製のばちで叩いてから、その板を左手でつまんで音の響きを消すのが演奏の基本。前の音の響きを残さず、旋律がきれいに聴こえるようにとの配慮である。右手を追って左手が動いていくので、高音から低音に移動した時には右手と左手が交差する。中には、右手で叩くのと同時に左手でその板をつまんで、わざと音の響きを消す奏法も。そんなこんなで、右手に集中すると左手がおろそかになり、左手に集中すると右手がおぼつかない。ピアノとはまた違う難しさがある。まさに脳トレ。

 さらに、メロディーの展開が全く読めない。一つひとつの短いフレーズがぶつ切りで、何の脈絡もなく連なっている(ように思える)。まるで、串団子の中に、いちごのショートケーキや松阪牛の串刺しがばらばらに混ざっているレベル(私には)。もちろん、すぐには覚えられない。

 極めつけは、音量豊かに響く他奏者の音やメロディーに、自分の音や入るタイミングをかき乱されないよう、「音の格闘技」ばりの感覚に陥る演奏会。最も人数の多い楽器の場合、両脇・前後に、自分とは違うメロディー隊が配置され、さらに、練習時には使わない楽器やインドネシア人奏者もわんさか加わる。もともと高速なバリガムランが、緊張のせいで自分史上最高速度・難度の大技へと転化する舞台!

 以上、ネガティブな言葉を重ねたが、裏返ってそれが、私がガムランに惹きつけられた理由。もちろん、各楽器の多種多様な音がバチッとはまった時の快感や達成感は言わずもがな。さらに、ヒンドゥー寺院のオダラン(周年祭)での演奏機会まである。年を重ねるにつれて自身の成長を実感することが減る中で、その機会をくれるバリガムランは貴重な存在。

金槌のような木製のばちで板を叩くと硬質な音がするガムラン楽器
手前の1列目と2列目が「ガンサ」。金槌のような木製のばちで板を叩くと硬質な音がする

「インドネシアらしいことをしたい」というだけで飛び込む

 バリガムランとの出会いは、ジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC)バリガムラン部での体験だった。当時はまだバリを訪れたことはなく、日々の生活でガムラン音楽を意識して聴いたこともなく、どんな楽器なのかもわからない、ただ「インドネシアらしいことをしたい」というだけのまっさらな状態で飛び込んだ。

 右手と左手の追いかけっことなじみのないメロディーに心折れつつも、弾けた時の高揚感に一縷の望みを見出した。とはいえ、「果たして付いていけるだろうか?」との不安が大きく、入部したのは体験から2か月後だった。

 しかし、実際に入部してみると、ゴトンロヨン(共助)的に支え合う部員たち。楽器未体験のメンバーと一緒に「これ無理!」と愚痴り合ったり、練習を休んだら先生のお手本動画をシェアしてくれ、こんがらがっている部員にも辛抱強く寄り添ってくれる仲間がいる。日常生活での困りごとも親身になって対応してくれるコミュニティー。今思えば、もっと早く始めておけばよかったとの後悔が先に立つ。

メンバーお手製の楽譜
メンバーお手製の楽譜

日常離れした「光の空間」での演奏

 初めて踏んだ舞台はヒンドゥー寺院でのオダラン。原色で彩られたお手製の装飾の数々と、ここぞとばかりにおしゃれした人々の祝福ムードと相まって、そこだけぽっかりと浮かんだ光の空間に見えた。

 そんな日常離れした空気に包まれて、「ジュブラグ」という五鍵楽器を担当した。お寺の鐘のような柔らかい「ゴーン」という音を1小節の中で1~2回叩く。高速弾きの先輩方の手さばきに感動しつつ、オダラン特有のきらびやかな、かつ、神聖な舞台にうっとりして終わった。

 2度目の舞台もオダランで、今度は高速弾きサイドに回った。当日はリハもなくぶっつけ本番。余裕はないはずなのに、コラボしたバリダンス・サークルの踊りに目をやり、ガムランのリズムとの親和性をちゃっかり堪能しつつ、何より楽しすぎてニヤけている自分がいる。苦手な所はもちろん真顔で必死に演奏(笑)。

オダラン特別仕様のヒンドゥー寺院にて
オダラン特別仕様のヒンドゥー寺院にて
2025年8月のオダランでの演奏の様子(動画=音声付き)

ほかの音の粒に耳を澄ませて息を合わせる

 バリガムランの面白さは、パズルのようなメロディー、リズムの多彩さ。それに加えて、インドネシア人奏者との交流があること。

 私たちが普段練習している十鍵楽器「プマデ」と「カンティル」ではそれぞれ、ポロス(第1メロディー担当)、サンシ(第2メロディー担当)と呼ばれるペアを組む。1台は固定の5音×2オクターブの計10音。それに広がりを持たせるため、サンシの音はポロスよりもわずかに高く調律され、その結果、同じ音を同時に叩くと強い唸りが生じるようになっている(皆川厚一「音楽指導ハンドブック20 ガムランを楽しもう〜音の宝島 バリの音楽」参照)。

 サンシの演奏方法は、私が知る限り3つある。1つ目はポロスの4音上の音を叩く。2つ目はポロスが叩いたのと同じ音を裏拍で叩く。3つ目はポロスの音の隙間を埋めるように音を入れる(「コテカン」と言う)。サンシ初心者の私にはどれも難しいが、複数パートが高速で交わるのがバリガムランの大きな魅力。

 インドネシアらしい柔軟さがあり、同じ曲なのに難易度「低」から「高」バージョンまであったりする。時には、そのどれを取るかでバリ人の先生と部員たちとの間で攻防がある。

 演奏会では楽器の種類と数が増えるので、先生の仲間のインドネシア人奏者たちが助っ人でやって来る。私たちは親しみを込めて「おじちゃん」「イブイブ」と呼んでいる。繰り返しの回数や強弱の合図を出してくれるヘルプフルなおじちゃんもいれば、スピードを適度にコントロールする役目のはずなのに、気持ちが乗ってくると音が速くなっていくイブ、こちらの手を見ながら音や入るタイミングを盗み見るおじちゃん、間違えたら容赦なくお互いをからかい合うおじちゃんたち。おじちゃんとイブイブは癒しであり師匠だ。

 直近の舞台では、鍵板楽器だけでなく、お鍋の蓋のような形状でカポンカポンした牧歌的な音が心地よい「レヨン」や、複雑なリズムにこちらの拍が惑わされる太鼓など、11種類もの楽器が登場した。皆がほかの音の粒に耳を澄ませて息を合わせる、合奏の醍醐味がそこにある。

おじちゃん、イブイブと一緒に演奏
おじちゃん、イブイブと一緒に演奏

はな
夫の駐在に伴い家族でインドネシアへ。ジャカルタ在住2年目。

JJCバリガムラン部
毎週金曜9:30~12:00、タマンミニ(Taman Mini Indonesia Indah)のバリ館で練習(イベント前は週2回練習)。会費は月40万ルピア。
メール:writetosgp@gmail.com
インスタグラム@jjc_baligamelan

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