8月下旬にジャカルタで始まったデモは、あっという間に、バンドン、スラバヤ、ジョグジャカルタ、バリ島デンパサールなどの各都市へ広がり、治安部隊との衝突などで犠牲者が出た。現在、やや収束傾向に見えるが、まだ火種は残ったままで、予断を許さない状況だ。



国会議員の住宅手当、月6000万ルピア!!
デモが激化した背景として、インドネシア経済の停滞、それに関連して、政府への不満がある。怒りの発端となったのは、国会議員のあまりにも高額な手当が明るみに出たことだ。
インドネシア人ラッパーのヤッコ(Yacko)さんが公開した動画を見てみよう。
「『国民の代表』だとか言ってるあんたたち、これを聞きな」で始まり、「あんたたちは楽しんでて、国民は貧しいままだ」「あんたたちの給料は、私たちの払った税金だ、って覚えとけ」「あんたたちが踊ってるのに、食べる物がない国民もいる」「国民に会いに行け」と怒りをぶつける。
8月15日、プラボウォ大統領は2026年度予算案を国会に提出した。その中で、議員の手当増額が明らかになった。2024年に選出された議員(任期5年)には「公邸を支給しない代償」として「住宅手当」が追加されることになり、その額は月6000万ルピア。ジャカルタの最低賃金の約11倍にも上る。ほかの諸手当を合わせた手取りは月1億ルピアを超えており、一般庶民から見ると天文学的な数字になっていることがわかった。
さらに、15日の国会・国民協議会で、音楽に合わせて踊っている議員たちの様子が報じられ、国民感情を逆なでした。
こうした事柄に批判が集まると、議員の中には、さらに踊っている様子の動画をアップしたり、「私はビンタロに家があるけど、ジャカルタは渋滞がひどいわー。地方出身の議員はスナヤンの近くに家を借りないといけないから、住宅手当は仕方がないでしょ」などと語ったり、デモ隊を「世界で一番の愚か者」と呼んだりして、火に油を注いだ。
オジェック運転手殺害でデモが一つに収斂、各地に飛び火
ジャカルタで最初の大規模デモは8月25日に起きた。学生団体が「国会解散」や「国会議員の手当の透明化」などを訴え、治安部隊との間で衝突が起きた。
続いて8月28日に、労働団体が「アウトソーシング廃止」などを訴えて大規模デモを行い、学生やその他の人々も合流した。デモ隊は投石したり、路上で物を燃やし、治安部隊は放水し、催涙弾を発砲した。
夜になっても群衆は解散せず、治安部隊との間での攻防が繰り広げられた。そうした中で、デモ現場に居合わせたオジェック運転手のアッファン・クルニアワンさん(21)が警察機動隊の装甲車にひかれて死亡するという事件が起きた。その瞬間の動画は一気に拡散された。アッファンさんは装甲車にぶつかって倒れ、装甲車はそのまま前進してアッファンさんをひいている。
庶民の代表格であり、弱者の象徴ともいえるオジェック運転手が警察に殺害されたことにより、国民の怒りは爆発し、それまでバラバラだったデモのターゲットは一気に収斂した。ターゲットは、横暴な警察、そして、豊かな生活を享受している議員たちに絞られた。この怒りは急速にジャカルタ外にも広がった。

8月29日、ジャカルタをはじめとする各地で、議会や警察が襲撃された。ジャカルタでは、トランスジャカルタのバス停や高速道路の料金所などが破壊され、放火された。問題発言をした議員らの自宅も群衆の襲撃と略奪を受けた。
主なデモ発生地
【ジャワ島】
ジャカルタ ※2人死亡(オジェック運転手、学生)
バンドン
スラバヤ
チレボン
ジョグジャカルタ ※1人死亡(学生)
ソロ ※1人死亡(ベチャ運転手)
【バリ島】
デンパサール
【ロンボク島】
マタラム
【スラウェシ島】
マカッサル ※4人死亡(議会関係者3人、オジェック運転手1人)
【スマトラ島】
ジャンビ
※死者数は増える可能性がある。国家人権委員会は「全国で10人が死亡」と発表
治安回復に向けた大統領の強硬姿勢は吉か凶か
国会と政府は、謝罪と火消しに必死だ。問題視される言動を行った議員たちは次々に謝罪動画をアップし、「深くおわびします。これからは言動に気を付けます」と国民に許しを請うた。議員5人は、それぞれが所属する政党により職務停止処分を受けた。
アッファンさんをひいた機動隊員7人は身柄を拘束され、近く処分が決まる見通しだ。
プラボウォ大統領はアッファンさんの弔問に訪れ、機動隊の「いきすぎた行為」を非難した。また、国会議員の「手当削減を求める」と述べた。その上で、「無法行為に対しては強い姿勢で臨む」と強調し、8月31日からは、警察と軍が合同でジャカルタのパトロールを開始した。
学生団体などデモ隊の要求は「国家警察長官の辞任」「警察改革」「国会議員の手当削減の実行」などだ。それらの要求にはまだ応えられていないため、火種は残ったままだ。デモ隊の中に扇動者がまぎれていることも警戒されている。
時系列まとめ
2025年8月
15日(金) 大統領が予算案を提出して施政方針演説を行う国会・国民協議会が開かれる。議員が踊っているシーンや、高額な手当増額に批判が集まる
25日(月) ジャカルタで、学生団体を中心とするデモ。治安部隊と衝突
28日(木) ジャカルタで、労働団体を中心とするデモ。治安部隊と衝突。夜、オジェック運転手が警察機動隊にひき殺される。国家警察長官が病院を訪れ、遺族に謝罪
29日(金) ジャカルタの警察関連施設や国会前でデモ、衝突。マカッサル、ジョグジャカルタなど各地に飛び火し、各地で破壊や放火。夜、プラボウォ大統領がオジェック運転手の遺族を弔問
30日(土) 各地でデモ続く。ジャカルタの国会議員邸を襲撃、略奪も
31日(日) 国会議員5人を所属政党が職務停止処分。プラボウォ大統領、各政党の代表を招集。緊急閣議を開催。ジャカルタで、軍・警察合同のパトロールを開始。破壊・放火されたバス停などの清掃
9月
1日(月) 各地でデモ続く

