ジャカルタで牡蠣塩ラーメン店「むかん」をオープンした、びーと(名取敬)さんのラーメン修行の後編です。基本を学んだ後で、「卒業ラーメン」として自分のラーメンを作ります。
修行中にYouTubeデビュー
日本でのラーメン修行の前半では、ラーメンの基本的な作り方について丁寧に学びました。講師の方々は、まったくの素人である僕にも手取り足取り、丁寧に教えてくださいました。ずっとマンツーマンでの実習でしたが、道場にはほかの受講生もいて、交流する機会もありました。多かったのは、すでに7日間コースなどを受講した人が新しいメニューを開発するために、2〜3日の日程で道場を再訪しているケースです。
その中には、日本で一番有名なラーメンYouTuberのSUSURUくんもいて、自分のお店の新メニューを開発しに来ていました。ちょっとした空き時間に話をしたり、一緒に写真を撮ってもらったりして、うれしかったです。さらに、その新メニューを誰よりも早く試食させてもらいました。その様子が、登録者200万人の彼のYouTubeにも映っていて、思いがけずYouTubeデビューすることに。
塩から味噌へ「味変」する海老ラーメン
道場の後半では、学んだ基本を基に、自分で新しいラーメンを考えることがメインになります。そして最終日には、講師の方々や職員さん、ほかの受講生に食べてもらう「卒業ラーメン」を作ります。通常の7日間コースでは1種類を作るようですが、僕は15日間コースなので、2種類に挑戦することに決めました。
ひとつは海老ラーメン。僕は海老ラーメンが大好きで、ジャカルタの店舗でも出していたのですが、どうしても納得できる味にならず、苦労していました。ところが、1週目に海老スープの取り方を教わり、これがおいしくて感動。海老の香味油も上手に作れるようになりました。習ったことをしっかり自分のものにするためにも、卒業ラーメンへの採用を決めました。
最初は塩ラーメンにするか、味噌ラーメンにするかで迷いました。でも、「どうせなら一杯の丼で両方を楽しめるようにしてしまおう!」ということで、最初は海老風味の鶏の澄んだ塩スープ、途中からトッピングの肉味噌を溶かすことで海老味噌ラーメンへ変化していく一杯を作ることにしました。
理屈では簡単にできると思ったのですが、これが想像以上に難しい。最初に塩ラーメンとしてちゃんとおいしいことは絶対条件です。でも、そこに普通の味噌ダレを足すと、どうしてもしょっぱくなりすぎてしまいます。塩ラーメンとしての完成度を保ちながら、後半は味噌ラーメンとしてもおいしく食べられるように変化させる。そのバランスに苦労しました。
味噌ダレを減らすと味噌感が減って味噌ラーメンとして成立しなくなるので、塩分を控えた味噌ダレを作らなければなりません。味噌の代わりに何を使って「かさ増し」するのか、苦労しました。講師の方からヒントをいただき、なんとか形にすることができました。

鶏スープをかき氷状にしてかけた冷たいラーメン
もうひとつは、冷やしラーメンです。日本では暑い時期になるとラーメンの売上が落ちるため、冷たいラーメンを出す店が増えます。常夏のジャカルタでは可能性があるのではないかと以前から考えていました。冷やし中華ではなく、あくまで冷たいラーメンです。
今回は鶏のスープを使いました。ただし、動物性の油は冷やすと固まってしまうため、油をしっかり取り除く必要があります。その上でスープを凍らせ、かき氷のように削って、冷たく締めた麺の上にかける形にしました。
そこに合わせたのが、みょうがです。みょうがで香味油を作り、トッピングにもみょうがを添えました。大葉を使ったバージョンも作ってみておいしかったのですが、試作段階ではみょうがの方が評判が良かったため、こちらを卒業ラーメンにしました。

道場での後半は、前半ほどきっちりと時間割が決まっていなかったので、合間にようやく千葉ラーメンの食べ歩きもできるようになりました。前半は疲れと満腹でまったく外出する気にならなかったことを考えると、体力的にも精神的にも少し余裕が出てきたのだと思います。
そして迎えた最終日。卒業ラーメンはありがたいことに、どちらも好評でした。海老ラーメンは「香りがしっかり出ていて、途中から味が変わる仕掛けも面白い」と評価してもらえました。冷やしラーメンも「みょうが油を使う発想や、スープをかき氷のような形で出すところが珍しく、独創的で良かった」と言っていただきました。もちろん、かなりお世辞も入っているとは思いますが、素直にうれしかったです。


卒業ラーメンとは別に、筆記テストもありました。初日の座学から始まり、いろいろ勉強したのですが、2週間も経つと忘れていることも多いんですよね。結果は68点。合格点は65点以上なので、滑り込みで合格です。
最後に、日本語と英語の卒業証書を作ってもらい、お世話になった講師から授与していただいて、15日間の修行は終了しました。卒業証書は、ジャカルタの店に飾ろうと思っています。


インドネシアでの事情も理解して教えてくれた講師
今回の修行で学んだのは、ラーメンのレシピだけではありません。新しいラーメンを作る時の考え方や、設計の仕方も理論的に学ぶことができました。
今までは自分の中の引き出しが少なかったので、できることも限られていました。しかし、ここでスープ、タレ、香味油、麺、具材、うま味の組み合わせ方などを学んだことで、その引き出しがかなり増えた気がします。何かが使えないなら、代わりに何を使えばいいのか。どのうま味が足りなければ、何を足せばいいのか。そういうことを、少しずつ理論で考えられるようになりました。
特にありがたかったのは、講師の方々が僕らの事情を理解した上で教えてくれたことです。インドネシアでムスリムのお客さんに提供するには、豚やアルコールを使うことができません。もちろん、みりんや料理酒も使えません。そうした制約を踏まえてどう考えればいいのか。例えば、みりんを砂糖に置き換える場合、どのくらいの量で換算すればいいのかなども丁寧に教えてくださいました。
道場では、材料をかなり自由に使うことができました。貝や煮干しを何種類も使えばおいしくはなりますが、実際の店では原価も考えなければなりません。また、ジャカルタでは入手できる素材にも限りがあります。今後は、学んだことを現実の条件の中でどう落とし込むかを考えていかなければなりません。
それでも、一度でも実際にさまざまな食材を使い、自分で試せた経験は大きな財産です。食材は、頭で知っているだけではなかなか応用できません。実際に使い、味を見て、組み合わせてみて、初めて自分の引き出しになるのだと感じました。
15日間のラーメン道場は、終わってみれば本当にあっという間でした。これまで、食べ手としては自信がありましたが、作り手としても少しだけ自信がついた気がします。
ジャカルタに戻ったこれからが勝負です。すぐにすべてを形にできるわけではないと思いますが、今回学んだ考え方や増えた引き出しを、これから自分の店に生かしていけたらなと思います。
びーと(名取敬)
日本やジャカルタでラーメンの食べ歩きをしている「ラヲタ」。2026年2月、南ジャカルタの「スミトマス」に牡蠣塩ラーメンの店「むかん」をオープンし、「食べる側」だけでなく「作る側」になった。

