「隣の店をチェックしろ 2」 笑いが散りばめられた中でインドネシアの華人問題を垣間見る 【インドネシア映画倶楽部】第46回

「隣の店をチェックしろ 2」 笑いが散りばめられた中でインドネシアの華人問題を垣間見る 【インドネシア映画倶楽部】第46回

2022-12-23

Cek Toko Sebelah 2

インドネシアでの華人社会の抱える問題を取り上げつつ、小ネタギャグの応酬が随所に散りばめられたコメディ作品。2022年の笑い納めにどうぞ。

文と写真・横山裕一

 2016年に公開され大ヒットしたコメディ作品「隣の店をチェックしろ」の第2弾。主人公の華人家族をはじめ脇役もほぼ前作と同じメンバーで、ファンにとっては6年ぶりの待望の続編だが、前作を観ていなくても十分に楽しめる。

 前作は隣り合ったライバル店の一軒、華人経営の店を舞台に、優秀なビジネスマンの次男に継がせたい父親、仕事でシンガポール栄転のチャンスの一方で父親が希望する家業継承に困惑する次男、華人同士でなくプリブミの女性と結婚したため父親から疎んじられている長男を巡るドラマだった。今回は同じ設定、登場人物ではあるものの店舗を巡る物語ではないため、前作ほどタイトル自体に意味は持たない。

 物語は華人の新しい彼女ができた次男のエルウィンが彼女の母親に結婚の許可を求めたものの、既に決まったシンガポール転勤を諦めることを条件にされてしまう。彼女の母親は金持ちの会社経営者だが、娘と二人暮らしだったためだ。一方、長男のヨハンと妻のアユは仕事を引退した父親から孫が欲しいと催促される。しかし、幼少期辛い過去を持つアユは自分の子供を持つことを強く拒んでしまう。愛しい彼女と経済的格差のもと高圧的な彼女の母親の間に悩む次男エルウィンと、孫が欲しい父親と苦悩する妻の狭間で戸惑う長男ヨハンを中心に物語は展開していく。

 前作同様、インドネシアでの華人社会の抱える問題を垣間見ることのできる作品で、今回は民族問題に加え華人社会内での階層問題も扱われている。これらに絡んで、前作父親と長男夫婦の関係がギクシャクしていた理由も今回明らかにされる。また華人社会に限らず、現代社会で深刻な家庭内問題も取り上げられている。

 物語だけみるとシリアスな内容だが、主役も演じるエルネスト・プラカサ監督作品らしく、インドネシア芸人で固められた脇役による小ネタギャグの応酬が随所に散りばめられて全体としてはコメディ作品として仕上げられている。前作と同じく、長男の友人たちによるポーカーシーンや父親の店舗従業員だった「可笑しな」人々も健在で、前作よりも長尺に露出して笑いを引き起こす。長尺な分、前作の小気味良い作品テンポ感は弱まったが、同作品シリーズのファンにとっては前作で笑った懐かしいシーンを今回もじっくりと楽しめることができる、

 終盤は特にコメディ映画ということを忘れるほど、ストーリー展開が中心となっていく。それだけ本作品が一般的な笑いだけのコメディドラマでなく、華人社会における現代の若者世代に加えて、様々な問題を抱えた親世代の歴史なども盛り込まれた魅力ある物語になっているためだろう。

 インドネシアの華人はキリスト教徒が多いことから本作品はクリスマスに合わせた公開に、華人以外のイスラム教徒らには年末年始の笑い納め、初笑い用(こういう風習は実際にはないが)の公開であるが、年末年始に一時帰国しない読者も是非本作品で笑い納めをしていただきたい。(英語字幕なし)

話題作を一挙に公開〜2022年のインドネシア映画

 2022年も残りわずか。今年のインドネシア映画の公開作品をインドネシア映画祭での主な受賞作から振り返ると、最優秀作品賞の「過去、現在&そして(ナナ)」(Before, Now & Then(Nana))、原作賞の「自叙伝」(Autobiography)、などがあるが、新型コロナウイルス大流行に対する政府による活動制限の緩和で映画館の座席制限が無くなった5月頃から話題作が一気に公開された印象がある。

 詳細な記録を取りはじめた2007年以降の歴代最高観客動員数(923万人)を出した「踊り子の村でのKKN(大学生の社会貢献実習)」(KKN di Desa Penari)、歴代3位(639万人)を記録した「悪魔の奴隷2」(Pengabdi Setan 2)、第5位(585万人)の「7番房の奇跡」(Miracle in Cell No.7)と3本もの作品が立て続けに歴代5位以内に入る記録を残した。最高記録を打ち立てた「踊り子の村でのKKN」は、未公開シーンを40分も追加したロングバージョンが29日から公開予定でもある。各作品自体の魅力もあるが、2年余りものコロナ禍という抑圧された長い時期から抜け出しつつある人々が一気に映画館へと足を運んだ感がある。一方で映画配給側も座席制限が解除されるのを待って、話題作を一挙に公開したものとみられる。

 さらには、政府所蔵の名画を多才な若者グループが盗み出す「ラデン・サレを盗め」(Mencuri Raden Saleh)、北スマトラ州のトバ・バタック民族の魅力をふんだんに盛り込んだコメディ傑作「ドキドキするけどいい気分」(Ngeri-Ngeri Sedap)、今月西ジャワ州バンドゥンでも自爆テロが起きたが、対テロ機動隊の隊員を主人公にした「折れた一対の翼」(Sayap-Sayap Patah)など前述のホラーや韓国映画リメイクだけでなく、バラエティに富んだ作品が公開された。

 来年は巨匠ガリン・ヌグロホ監督が初めて手掛けるホラー映画「殺しの愛の詩」(Puisi Cinta yang Membunuh)なども年初早々に予定されるなど、来年も映画を通した様々なインドネシアを楽しむことができそうだ。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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