第1回「インドラマユ・バティック・ツアー」を2022年12月10日に開催しました。チレボンの近くにあるインドラマユは、有名なバティック産地ですが、チレボンのようにバティック工房が集まっているわけではなく、バティックを探しに行くにはちょっとわかりづらい地域です。
朝、ジャカルタのガンビル駅に集合し、「アルゴ・チェリボン」号に乗って、インドラマユへ向かいました。快適なエクセクティフ(特別)車両で、水田の広がる車窓の風景を眺めたり、遠足気分でお菓子を食べたりしているうちに、インドラマユのジャティバラン駅に到着しました。
そこからは車で、市内にあるエディさんのバティック工房へ向かいます。チレボンでバティック工房を主宰していた賀集由美子さんは、エディさんとの共同作業でバティックを制作していました。二人の共作バティックには「海模様のペン子ちゃん」「猫とコーヒー」「マジョリカタイル」柄などがあります。
工房に着くと、職人さんたちが円座になって蝋描きをしたり、染色や蝋落としをしたり、それぞれの持ち場で仕事をしていました。バティックのチャップ(型)を押す職人さんは3人。3つのテーブルで、賀集さん原画の「とらほー」「マジョリカタイル」などのチャップがぽん、ぽん、と布の上にリズミカルに押されていました。見事に模様が連続していく様子には感動します。
今回のツアーでは「チャップ」にフォーカスしました。チャップ・バティックは「安かろう悪かろう」と見られがちですが、やりようによっては、さまざまな面白い可能性を秘めています。賀集さんも、チャップの活用がバティック産業の生きる道の一つだと考え、いろいろな試みや挑戦をしていました。また、手描きバティックはあちこちで体験する機会もありますが、多数のチャップを押せる場は、なかなかありません。
今回は縦横約1メートルの布に、好きなチャップを押して自分のオリジナル作品を作ります。出来上がった物は、風呂敷やテーブルクロス、ストールなどとして使えます。準備された布を見て、「思ったより大きい」という声が上がりました。
構成は自由。使いやすそうなチャップが並べて置かれていましたが、それ以外に、工房の壁に掛けてあるチャップから好きな物を選んで使うこともできます。マンゴー、仮面を付けた踊り、稲穂や米など、インドラマユらしいチャップがいろいろありました。賀集さんがデザインしたチャップは、ペンギン、猫など。エディさん工房オリジナルの、マンゴーが雨のように降る様子を表現した「マンゴー・レイン」が人気で、「線を繋げるのが難しそう」と言いながら挑戦する人も。「いろんなチャップを1個ずつ押したい」と両手いっぱいにチャップを抱えた人や、「実家が長野だから」と、リンゴのチャップを選んでいる人もいました。
チャップは判子のようにポンポン押すだけで、簡単そうに見えますが、実際にやってみるとなかなか難しいです。線が均等な太さになるように押すには、チャップの振り方などにコツが要ります。連続させる所は、押す位置を慎重に決めてから、模様がずれないように押します。
チャップ職人さんがマンツーマンでやり方を教えてくれます。蝋の温度を調整し、押す場所を指示し、一人で全部を押すのが大変な場合は、押すのを手伝ってくれます。
風呂敷のデザインはどれも個性的で、見守っていたエディさんは「私たちにはとても思い付かないアイデアです。クリエイティブで素晴らしい」と感心していました。
参加者の一人、大名里枝さんは、ペンギンの乗ったクジラのチャップを縁に押しました。通常は直線となる所に、面白い曲線が生まれました。中央には、賀集さん原画のチャップ「イルカとマンゴー」を全面に押します。これは四角いチャップなので、縁との間に隙間が出来ます。その部分は、手で蝋描きして模様を繋げるようにして埋めました。一見、全部手描きしたようにも見える素晴らしい作品が出来上がりました。
染料は赤、オレンジ、青の3色の中から好きな色を選び、染色したら、すぐに蝋落とし。大きなドラム缶の中で布をゆでるようにして、蝋を落とします。その後、水洗いしてから、干して乾かします。
全員の風呂敷作りが一段落したころに、賀集さんと親しかったバティック職人のアアットさんが来て、蝋描きのデモンストレーションをしてくれました。模様の地の部分に細かい卍模様を描きます。布には当たりの線が鉛筆で引いてあるだけで、フリーハンドで模様を描き入れていきます。まずは一気に縦に三本線を入れてから、次は一気に横線。「そういう順番で描くんだ」と驚きの声が上がりました。
デモの後は、アアットさん手描きのバティックを一枚ずつ広げて見せてもらいながら、インドラマユ・バティックの説明を聞きました。インドラマユを代表するモチーフには、大エビや魚の描かれた大漁祈願の「イワック・エトン」や吉祥文様の「難破船」などがあります。アアットさんと賀集さんの合作である「インドネシア地図」バティックの原画も見せてもらいました。
ツアーのお土産は、インドラマユ名産のマンゴーに、アアットさん手作りのオタオタ(バナナの葉に包んだかまぼこ)、完熟マンゴーを使った手作りドドール(ういろうのような菓子)と、インドラマユ名物の取り合わせ。バティックの買い物もして、再び列車に乗って帰途につきました。
参加者の方々は「日帰りとは思えないほど充実した内容だった」と満喫された様子でした。コロナ禍中にインドネシア駐在が始まったせいで、なかなか旅行する機会のなかった方も多く、ジャカルタ外への日帰り旅行、他ではできないチャップ体験を楽しんでいただけたようです。
インドラマユ・バティック・ツアーはまた、インドラマユの方たちと深い関係を築き、チャップ・バティックの可能性に夢中になって「チャップの面白さを伝えたい」と考えていた賀集さんの思いを繋げる旅でもありました。