「審判の橋」 天国へ行くか地獄へ落ちるか? ホラー風サスペンス【インドネシア映画倶楽部】 第98回

「審判の橋」 天国へ行くか地獄へ落ちるか? ホラー風サスペンス【インドネシア映画倶楽部】 第98回

Jembatan Shiratal Mustaqim

天国へ行くか地獄に落ちるか、死後に渡らなければならない「審判の橋」。典型的なホラー映画に見えて、イスラムの教えに基づく寓話であり、いかにもインドネシア映画らしい作品。

文・横山裕一

 劇場ポスターは典型的なホラー映画のようだが、内容はホラー要素の強いサスペンスドラマ。さらにイスラム教の教えに基づいた寓話でもあり、通常のホラー作品と比べると一風変わった興味深いインドネシア映画らしい作品。

 物語は2018年にジャワ島最西端のバンテン州で起きた津波災害をモチーフに展開する。ジャカルタの大学生アルヤは災害を受けて被災者支援の募金活動をしていた。ある夜、社会省の副大臣を務める父親が2人でドライブしようと誘う。思い悩んだ様子の父親は車中でアルヤに「大きな間違いを犯した」と吐露する。アルヤが詳しく聞こうとした瞬間、2人が乗った車が対向するトラックと衝突、アルヤは奇跡的に助かったものの、父親は死亡してしまう。

 それ以来、アルヤと母親の前に無惨な姿をした父親の霊が繰り返し現れた。2人は父親が何かを伝えようとしているのではないかと思い遺品を調べてみると、父親が災害援助に絡んだ汚職事件に関与していた可能性が明らかになる……。

 タイトルの「審判の橋」(Jembatan Shiratal Mustaquim)とは、イスラム教徒が死後、渡らねばならない橋であり、信心深く善行を積んだものは天国へと導かれ、悪事を働いたものは橋の下にある地獄へと落ちていく。作品ではこうしたイスラム教の教義が反映されている。「汚職は文化」と揶揄されるほどインドネシア社会で蔓延する汚職がテーマの一つであることも皮肉的だが、真面目に生きる国民を蔑ろにする汚職は罪深いもので審判すべきだとの制作者のメッセージが作品に込められているようでもある。

 作品は予想外の悲惨な結末若干シュールにも見えるラストの審判のシーンなど最後まで見逃せない。是非ホラーらしくないホラー作品を劇場で楽しんでいただきたい。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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