メッカのカーバ神殿の周りを白い服の人たちがぐるぐる回っている……そんな映像を見たことがないだろうか。イスラム教徒の義務であり、一生の悲願でもあるメッカ巡礼(ハジ)。そのハジの練習をする施設がジャカルタ近郊にあり、イスラム教徒でなくても入ることができる。ガイドの説明を聞きながら見て回ると、巡礼やイスラムについて学べる。

カーバの構造を実際に見て理解する
サウジアラビアにある聖地メッカは、イスラム教徒以外は立ち入ることのできない場所だ。話を聞いたり、写真や動画を見ても、その実際の様子を想像することは難しい。ところが、南タンゲランにある「アルマムダ・マナシック・トレーニング・センター」(AMTC)では、メッカの施設がミニサイズで再現されている。巡礼者がハジに行く前に練習したり学習する場所なのだが、観光地としても利用されており、イスラム教徒以外にもオープン。
メッカの象徴であり世界一高い時計塔として知られる「ザムザム・タワー」のレプリカが迎えてくれる。タワーを越えた先にあるのが、回廊に囲まれた白い広場の中心に立つカーバ神殿のレプリカ!


イスラム導師のシャイクさんに案内してもらった。
カーバを7周する行を「タワーフ」と言う。起点となるのは、カーバの角にはめ込まれた黒石のある地点だ。地面に線が引かれているほか、緑色の光線を照射してスタートラインがわかるようになっている。
この黒石は天から下ろされたものとされる。元々は「白石」だったが、人々がこの石に触ったり接吻したりするうちに、人間の罪を吸収して漆黒になったという。石はいくつかの破片に割れた物をセメントで固めてあり、周囲に銀の枠を付けてある。このカーバのレプリカでは、その黒石の様子と銀のカバーを再現している。

黒石は巡礼の人々が殺到する場所で、なかなか近付けないのだが、暁の礼拝の後には「女性専用」の時間が設けられているという。
カーバは立方体だ。黒石のはめられた角のほかに、イラク、シリア、イエメンに向いた3つの角がある。回廊には210カ所もの入口があり、その中で主要な入口は5カ所。黒石に最も近いのが「キング・アブドゥル・アジズ」入口だ。「では、ちょっと回ってみましょうか」とシャイクさん。
スタートラインに立ち、右手を挙げて「ビスミッラー、アッラーアクバル」と唱え、手のひらに接吻してから、手を下ろす。そして、反時計回りで、カーバの周りを歩き始める。この挨拶は、スタートライン地点に来たら、毎回、行う。

黒石の近くの壁には金の扉があり、本物のカーバは中へ入れるようになっているのだが、一般の人は立ち入れない。しかし、「中は空で、特別な物はない」とシャイクさん。金箔を施した柱3本が天井を支え、上からは金色のランプが吊されているそうだ。プラボウォ大統領が2025年に巡礼をした際、中に入って礼拝を行った。その金の扉の近くには「イブラーヒームの足跡」を金のかごで囲った場所がある。
その次の角(イラクの角)を曲がると、U字型の塀で囲まれた場所がある。塀の上には緑のランプ3個が置かれている。ここは「イスマイールの囲み所」と呼ばれる特別な場所だ。元々はカーバ神殿とつながっていたが、メッカが大洪水に見舞われた際に分離したという。このため、ここでの礼拝はカーバ神殿内部での礼拝と等しいとみなされている。この「囲み所」のあるカーバの上方の壁には純金製の雨樋が付けられている。

カーバの詳しい構造をこんな風に「実際に見て、理解できる」のは面白い。
砂漠に湧いた「ザムザムの水」の教え
カーバ7周と礼拝が終わったら、カーバを眺めながら、有名な「ザムザムの水」を飲むのが巡礼者の楽しみだ。水はロボットが運んで来て、自由に取って飲んで良いとのこと。シャイクさんは「味は普通の水と変わりませんが、(その力は)自分の意思次第」と言う。
ザムザムの水のいわれは、カーバの隣の、長い通路のような建物にある。「サーイ」という行をするこの建物では、両端に小高い丘のような物が作られており、「サファー(レプリカ)」と「マルワ(レプリカ)」と表示されている。この建物は、本物の1/10縮尺だ。



言い伝えによると、イブラーヒームとの間にイスマイールを産んだハージャルは、イスマイールと共に砂漠に置き去りにされてしまう。ハージャルはイスマイールのために水を求めてさまよう。丘に登ると、向こうの丘に水が見えるが、行ってみるとそれは蜃気楼。こうして丘から丘へ行ったり来たりするが、水は得られないままにイスマイールの元へ戻ると、なんと、そこに水が湧き出ていた。それが「ザムザムの水」だ。天使ガブリエルが「ザム、ザム、ザム!」(集まれ!)と言ったことから、この名前が付いた。
シャイクさんによると、この出来事は「神は全知であり、幸運を与えたもう。(結果が見えないからといって)努力をやめてはいけない」「神の業は、ほかの人を通して現れる」という教えだという。
巡礼者はハージャルにならって、「サファー」から「マルワ」までを7往復する。それを済ませると小巡礼(ウムロ)は終わりだ。男性は剃髪し、女性は髪一房を切り落とす。これは「過去の思考を捨て、新しい人生を始める」ことを意味するという。
悪魔への石投げをやってみた

小巡礼はこれで終わりだが、大巡礼(ハジ)の場合、このほかにもまだやることがある。ミナのテント村で過ごす夜や「石投げ」の儀式だ。「石投げ」のいわれは次の通りだ。
神はイブラーヒームに息子イスマイールを犠牲に捧げるよう命じた。イブラーヒームの夢の中に最初の悪魔が現れ、「神がそんなことを命じるはずがない。従わなくてもいい」とイブラーヒームを誘惑する。イブラーヒームは石を投げ付け、悪魔を追い払った。続いて、2人目の悪魔はハージャル、3人目の悪魔はイスマイールを誘惑するが、二人とも石を投げ付けて悪魔を追い払った。


「石投げ」はこれにちなみ、悪魔に見立てた3つの石の柱に向けて、1つの柱に7個ずつ、手に持った小石を投げ付ける。石は柱に当たる必要がある。この行は「悪魔をやっつける」というよりも、「自分の悪い思考を捨てる」ことを意味するという。
やってみると、意外に、当てるのに失敗したりする。「必要な石の数は21個ですが、失敗することを考えて、もっと拾っておくといいでしょう」と、実用的なアドバイス。なるほど、ハジに行く前に「事前の練習」が必要なわけだ。施設を見て回っていると、写真や動画を見ているだけよりもずっと具体的に、巡礼の様子がイメージできてくる。
「ハジとは、預言者の足跡をたどる旅。大きなトランクを持って行く肉体の旅ではなく、精神の旅なのです」(シャイクさん)。

Almhmudah Manasik Training Center
Jl. Lkr. Selatan No.KM 1, RW.5, Muncul, Kec. Setu, Kota Tangerang Selatan, Banten
https://maps.app.goo.gl/B3ZBDpmj2o7V5V4GA
8:00〜16:00 金休み
https://ayomanasik.com
入場料8万ルピア
・男性も女性も、体全体が隠れる服を着用する。女性はヒジャブ(ベール)着用のこと(髪を隠せれば何でも良い)。
・ガイド(英語、インドネシア語)を頼んで案内してもらうと良い。

