「タナルントゥ」 スラウェシ島ポソでの宗教抗争を舞台に描く「理想的な」警官像 【インドネシア映画倶楽部】第131回

「タナルントゥ」 スラウェシ島ポソでの宗教抗争を舞台に描く「理想的な」警官像 【インドネシア映画倶楽部】第131回

2026-06-26

Tanah Runtuh

1998年年末から2001年にかけて実際に起きたスラウェシ島ポソでの宗教抗争を舞台に、騒乱で母親とはぐれてしまった子供の兄弟を手助けする警官の姿を描く。現在の警察への批判を込めた逆説的な作りの作品でもある。

文と写真・横山 裕一

 作品タイトルの「タナルントゥ」は中スラウェシ州ポソにある地名だが、インドネシア語で「崩落した大地」という意味でもある。皮肉なことにこの意味のごとく、当地では約25年前、住民同士による悲惨な宗教抗争が起きている。本作品は騒乱に巻き込まれた子供と真摯に任務を遂行しようとする警官たちの物語だ。

 物語の舞台はポソにあるタナルントゥ地区。カイとリンゴの兄弟は母親と伝統市場で買い物中、突然の爆発とともに武装住民の銃撃に襲われる。ダウン症のリンゴと彼にいつも付き添っているカイの2人の兄弟は銃弾が飛び交うため身動きがとれず、母親とはぐれてしまう。母親も必死に探すが重傷を負い、子供たちを見つけられないまま避難所に搬送されてしまう。

 一方、ポソでの住民抗争の首謀者とみられる指名手配の男たちを拘束するため、現地に赴任した警察官イダムは手配犯を追う最中にカイとリンゴを保護する。そして、2人に母親を探すことを約束する。一方、自動小銃や爆弾で武装した手配犯らはイダム率いる警官グループをも襲撃の標的として狙いはじめる……。

 ポソの住民らによる宗教抗争は1998年年末、キリスト教徒とイスラム教徒の住民同士の小さな諍いがきっかけだったが、当事者が異教徒だったこと、また当地がキリスト教徒である土着住民と、商売や移民政策によるイスラム教徒の移住民から構成されていたこともあり、結果的に地域を二分する大規模な抗争にまで拡大した。発生当時がイスラム教徒の断食月中に迎えたクリスマスの日だったことも宗教抗争にまで至ってしまった要因ともみられている。抗争は住民間による和解まで約3年間続き、少なくとも1000人余りの住民が死亡したといわれている。

 当時はスハルト長期独裁政権が崩壊して民主化の時代に切り替わったばかりの時期で、民主化勢力と守旧派勢力が対立し社会不安が高まっていた時期。このためポソと同様の宗教抗争はマルク州と北マルク州でも発生していて、西カリマンタン州では土着民族と移住民による抗争も起きている。

 本作品では命の危険を伴う任務をこなしながらも子供たちの母親を探す手助けをする警察官イダムと部下たちの人道的で真摯な姿が描かれる。作品最後に国家警察に対する感謝のクレジットが出るが、警察による資金協力を受けるなどいわゆる警察の広報作品ではない。逆に本作品のプロデューサーは記者会見で、警察官のプロフェッショナルな姿を描くことで現在の警察に対する批判も込められていることを明らかにしている。その意味では本作品は逆説的な作りの映画でもあるようだ。

 作品では、母親を探す2人の子供の必死な姿や、「理想的な」警察官たちの姿は素直に気持ちよく観ることができる。是非劇場で鑑賞し、製作者の意図でもある現在の社会のあるべき姿に思いを巡らせていただきたい。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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