くどすぎない、鶏感たっぷりの微乳化スープ 【びーとさんのジャカルタ・ラーメン今月の一杯】#4 「驚」の鶏ラーメン

くどすぎない、鶏感たっぷりの微乳化スープ 【びーとさんのジャカルタ・ラーメン今月の一杯】#4 「驚」の鶏ラーメン

文・びーと(名取敬)

 「ジャカルタ・ラーメン今月の一杯」なんて言いながら、過去3回は自己紹介番外編でした。いよいよ今月から、ジャカルタで食べられるおいしいラーメンを紹介していきます。最初の一軒は「驚(きょう)」です。2025年5月にオープンし、現在はビンタロとテベットに2店舗ありますが、まだ知らない方も多いでしょう。

 「驚」店主の山岡拓斗さん(36)には個人的な縁もあります。山岡さんの本業は建築資材の輸入や設計・施工で、僕の店「むかん」の設計と内装をお願いしました。ただし、今回ご紹介するのは、付き合いがあるからではありません。ここの鶏白湯が、日本も含めてこれまで食べてきた鶏白湯の中でも、かなり好きな一杯だからです。

 山岡さんは京都で生まれ育ち、大学卒業後に、横浜にある住宅会社に入社しました。そこの駐在員としてインドネシアに渡り、技術と人脈を築いた後に独立しました。現在は本業で忙しい傍ら、ラーメン店を経営しています。

 1号店(本店)があるビンタロは、ジャカルタ中心部から車で30分余りもかかる郊外です。「なぜ、ここにしたのですか?」と聞くと、この地域には建築・設計関係の事務所が多いそうで、山岡さんもここに事務所を構えています。倉庫として使っていた1階を改装して店にしたとのことです。

 山岡さんは内装・設計のプロです。その感性は「驚」にも生かされています。郊外の道を走っていると、その場所には少し不釣り合いなぐらいにしゃれた店がぽつんと現れます。店内も広めで、ゆったりとした造りです。テベットの2号店の方はテーブル4つの14席で、広さは必要最小限。ただし、セントラルキッチンなので、メニューも味も両店で同じです。目標は3年で5店舗とのことで、副業とはいえ、かなり本気ですね(笑)。

しゃれた店内に驚く。「1万円の高いディナーではなく700円のラーメンで、日常の中に驚きを感じてほしい」という狙い。ゆったり落ち着ける店だ(ビンタロ店)
しゃれた店内に驚く。「1万円の高いディナーではなく700円のラーメンでも、日常の中に驚きを感じてほしい」という狙い。ゆったり落ち着ける店だ(ビンタロ店)
見た目に驚き、食べて驚く「鶏ラーメン」
見た目に驚き、食べて驚く「鶏ラーメン」

 初めてビンタロ店を訪れたのは、オープンからまだ5日目ぐらいの時でした。山岡さんと知り合う前で、ラヲタの新店ハンターとしての訪問でした。鶏白湯と聞き、「また例のやつかぁ」ぐらいの気持ちで、あまり期待せずに向かいました。ところが、まず驚いたのは、スープの見た目です。インドネシアでよく目にする、真っ白に乳化した鶏白湯とは明らかに違いました。ラヲタの僕らが「微乳化」と分類する範疇のスープです。普通の鶏白湯は食べ飽きていた僕にとって、それだけで気分が上がりました。

 食べてみると、重たい鶏白湯というより「濃厚な鶏スープ」と表現したくなる味です。うまみはしっかりしているのに、くどすぎず、重すぎない。それでいて、決して薄味でも、シャバいスープでもありません。鶏を十分に使った厚みがありながら、食後には「もう少し食べられそうだ」と思わせる、後を引く一杯です。

 レシピは、山岡さんが高校生から大学生までアルバイトをしていた京都の焼き鳥店「ツキトカゲ」の物で、直々に伝授してもらいました。立ち上げの時には「ツキトカゲ」の社員さんご一行が来てくれたそうです。

山岡さん(前列左)と「ツキトカゲ」スタッフ(山岡さん提供)
山岡さん(前列左)と京都「ツキトカゲ」の皆さん

 スープは店で炊いています。鶏ガラは内臓などが付いた処理前の物を仕入れ、自分たちで掃除と下処理をして、寸胴で約8時間かけて炊きます。骨の処理からやるのはかなりの手間です。工場で作ったスープを買って使っている店も多いので、ここまでまじめにラーメンを作っている店は、ジャカルタでもごく少数だと思います。

スープを炊く。水はプリスティンを使っている。軟水のプリスティンはだしが出やすくて「仕上がりが全然違う」と山岡さん。店主のこだわりだ

 山岡さんは、5歳になる自分の子供が「野菜を全然、食べない」というのが悩み。このため、「日常食にもなるような、健康的なラーメン」を目指し、スープに野菜をたっぷり入れています(溶けていて見えませんが、玉ねぎ、セロリ、じゃが芋など)。化学調味料もいっさい使わない無化調です。油は一般的な鶏白湯より、かなり控えめ。「このラーメンは子供も絶対に好きです。是非、ご家族で食べに来てください」と山岡さん。

 一口目には、まず鶏の香りが来ます。ただし、鶏油だけで食べさせるタイプのラーメンではありません。スープ自体にしっかり鶏のうま味があり、そこに塩ダレの昆布や椎茸が厚みを加えています。日本の「ラーメン道場」で学んだ知識で言えば、鶏のイノシン酸を軸に、昆布のグルタミン酸と椎茸のグアニル酸を重ねている形です。すべてを同じ強さにするのではなく、主役と脇役のバランスを変えることで味に奥行きが出る。このラーメンは、その考え方がうまく形になった例のように感じます。

 塩味はそれほど強くありません。日本で出すなら、もう少し塩味を立ててもいいかもしれませんが、しょっぱい味が得意ではない僕には、食べやすいバランスでした。

 麺は「むかん」で使っている物より一回り細めです。スープが強い「むかん」で使えば、麺が少し負けるかもしれませんが、「驚」のスープには合っていると思います。細麺を好むインドネシア人にも合った選択でしょう。

 鶏チャーシュー、半分に切った卵、ホウレンソウが載っています。チャーシューは突出した物ではありませんが、きちんと仕上がっています。オープン当初と比べると、味も見た目もかなり洗練されています。

 今では、基本の微乳化スープに加え、新しいラーメンも始めました。スープをブレンダーで高速攪拌し、さらに乳化を進めた真っ白な泡系の鶏白湯です。その完全乳化スープにトリュフを合わせたのが、トリュフラーメンです。僕の好みは基本の微乳化の方ですが、完全乳化の方も工場製スープとは違い、鶏の味とスープの厚み、いわゆる「鶏感」がしっかりあります。

新しい「トリュフラーメン」。うまみとコクがあって、こちらもおいしい
新しい「トリュフラーメン」。うまみとコクがあって、こちらもおいしい

 基本の鶏白湯は7万4000ルピア、唐揚げ付きが8万3000ルピア、トリュフラーメンが10万5000ルピア。トリュフラーメンは差額だけを見ると少し高く感じますが、トリュフを使ったラーメンが10万ルピア台という価格自体が安いと思います。

 親子丼、おにぎり、餃子、唐揚げなどのサイドメニューやセットもあります。量はインドネシアでは標準的で、内容を考えれば十分リーズナブルです。

 ジャカルタにあふれる鶏白湯ですが「驚」の一杯は一味違います。鶏感たっぷりの微乳化スープ、是非一度味わってみてください。

山岡さん(左)と筆者びーと
山岡さん(左)と筆者びーと

驚ラーメン Kyo Ramen
ビンタロ店
Jl. Bintaro Utama I No.16A Blk J3, RT.15/RW.8, Bintaro, Kec. Pesanggrahan, Kota Jakarta Selatan
11:00〜21:00

テベット店
Melrose Building, Jl. KH Abdullah Syafei No.10 13 1, RT.13/RW.5, Bukit Duri, Kec. Tebet, Kota Jakarta Selatan
11:00〜21:00

鶏ラーメン TORI Ramen 7万4000ルピア
トリュフラーメン TRUFFLE Ramen 10万5000ルピア
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