バティックの選び方、買い方 第1回 プリントとの見分け方

バティックの選び方、買い方 第1回 プリントとの見分け方

2024-10-03

バティック売り場に行くと、派手な色と柄の洪水で、一体何を、どんな基準で選んでいいのかわからない……そもそもバティックって何? プリントと「本物のバティック」はどうやって見分けるの? そんな疑問にお答えします。「バティックの選び方、買い方」初級編です。

バティックって何?

 まずは「基本のき」。「バティック(batik)とは何か」? 「あの派手な柄」の布をバティックと言うのか? 「あの派手な文様」をバティックと呼ぶのか? 違います。

 バティックは「蝋を使って防染する技法、または、その技法で作られた布」と定義されています。日本で言う「ろうけつ染め」です。

 染めたくない部分に蝋を置いて、染まらないようにブロック(防染)し、染色する、という技法です。ポイントは「蝋を使っているかどうか」です。この定義により、蝋を使っていない「プリント」は「バティック」ではありません。プリントは、あくまで「バティック風」の布ですので、注意しましょう。

材料の蝋(インドラマユのエディ工房)
材料の蝋(インドラマユのエディ工房)
蝋伏せをした布。茶色い蝋で、染まらないようにブロックしている(チレボンのカトゥラ工房)
蝋伏せをした布。茶色い蝋で、染まらないように背景をブロックしている(チレボンのカトゥラ工房)
蝋伏せした布(左)と出来上がり(右)。蝋で伏せた部分に染料が入らず、白くなる
蝋伏せした布(左)と出来上がり(右)。蝋で伏せた部分には染料が入らず、白くなる(蝋描きはインドラマユのバティック職人、アアットさん)

バティック布の大きさ

 布地として売られているバティックは、縦1メートル、横2.5メートルほどの横長の布で、「カインパンジャン」(kain panjang=「長い布」という意味)、略して「カイン」(kain)と呼ばれています。布の長さは一枚ずつ微妙に違い、2メートル程度しかないこともありますし、逆にもっと長い物もあります。特に用途が決まっている場合は、買う時に布の大きさを確認しましょう。

 カインパンジャンの本来の用途は「腰に巻いて着用する」です。このため、柄は横方向(horizontal)に入っていることが多いです。

 今でももちろん巻いて着ても良いですが、現代では洋服に仕立てることが多いです。シャツ、ワンピース、スカート、ブラウスなど、何でもOKです。服にする以外にも、部屋の壁に飾ったり、テーブルクロスやベッドカバーにするなど、家のインテリアとしても使えます。

バティックの「カインパンジャン」
バティックの「カインパンジャン」(チレボンのアリリ工房)

バティックとプリントの見分け方

 プリントの方がバティックよりも、柄がくっきりして、きれいに見えます。あまりバティックを知らない人にはプリントの方が受けが良かったりします。バティック模様の小物にはプリントが使われていることが多いです。

 プリントは日光にも洗濯にも強くて安価ですので、用途によってはプリントを使うのもありです。しかし、プリントにすっかり押されてしまっているバティック産業を応援するためには、もちろん、バティックを買った方が良いです。

 特に「バティック着用」がドレスコードとなっているようなフォーマルの場では、プリントは避けた方が良いでしょう。インドネシア人も実は結構、プリントを着ており、バティックについて詳しくない人もいます。しかし、わかる人はわかります。着ているバティックがどの程度の等級の物なのかも、見る人が見ればわかります。重要な場ではプリントではなくバティックを、できればそれなりのバティックを着ましょう

 下に挙げたのは、バティックとプリントの見分け方のポイントです。

①裏を見る

 バティックの通常の染色方法は、布全体を染色液にどぼんと漬けて染める「浸染」(しんせん)というやり方です。このため、布の裏側まで染色液が通って、裏側までしっかり染まります。

 プリントの場合、布の表に版を押す「捺染」(なっせん)というやり方ですので、表の柄はくっきりしていますが、裏側にまで染料はしっかり通りません。布の裏を見て、色が薄かったり、なんとなく白っぽかったら、プリントと考えられます。ただし、薄手の生地の場合は、裏側でも柄や色がはっきり見え、「表側よりも裏側が少しだけ薄い」という程度なこともあります。表と裏をよく見比べてみてください。

②においをかいでみる

 バティックからは、独特な蝋の香りが「ぷーん」とします。蝋のにおいがするのは「蝋を使っている」証拠です。バティックも長く使っていると、あまりにおいがしなくなりますが、新品のバティックには蝋のにおいの残っている可能性が高いです。

③値段を見る

 バティックには「適正な価格」があります(価格については、次回)。「非常に細かい柄」や「多色染め」なのに、あり得ないほど安い値段であれば、プリントだと考えられます。

④柄の入れ方を見る

 バティック布には、一枚の中に様々な「パーツ」があります。腰に巻いた時に、正面に来てアクセントとなる「柱」のような部分(クパラ=kepala)があったり、端の模様があったり、腰に巻いた時に変化が出るように、工夫を凝らしてデザインされています。服にする場合は、そうしたパーツを上手に使いながら仕立てるわけです。

 大量生産のプリントの場合、そのようにいろいろなパーツはなく、布全部がパターン化された同じ柄(総柄)のことが多いです。

バティックの「カインパンジャン」。左側の色が違っている部分が「クパラ」
バティックの「カインパンジャン」。左端の色が違っている部分を「クパラ」と呼ぶ。クパラのないカインもある

⑤布の大きさを見る

 一般的に売られているバティック布は、上の「バティック布の大きさ」で書いたように、縦1メートル、横2.5メートルほどです。「腰に巻いて着用する」という本来の用途から、この長さが標準となっています。もっと長いバティックを作れなくもないのですが、用途を外れていて需要があまりないこと、布を大きくすると失敗するリスクも高まることから、あまり作りません。

 下写真のように、束に巻かれてメートル売りされている物は、もちろんプリントです。

メートル売りされているプリント布
メートル売りされているプリント布

 ただし、カインの大きさで作られたプリントもあります。

カインの大きさのプリント布
カインの大きさのプリント布
「バティック模様のテキスタイル」と明記してあるのは良心的
「バティック模様のテキスタイル」と明記してあるのは良心的。明記していない場合ももちろんある

①〜⑤で総合的に判断しよう

 バティックっぽく見せるために蝋のひび割れ模様をわざと入れたり、プリント生地に蝋描きを加えたり、バティックに似せて非常に精巧に作られたプリント生地もあります。そうした精巧な物になると、素人では(時には玄人でも)見分けがつきにくいのが実状です。このためバティックはできるだけ信頼できる店で購入することをお勧めします。それが難しい場合は、上記の条件から布を見て、総合的に判断しましょう。(つづく

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