Ayah, Aku Mau Cerita
心理ミステリーの改作。長さをまったく感じさせず、引き込まれてしまう。横暴な警察、結束する家族。その対決の行方は。
文と写真・横山裕一
不幸にも罪を犯した家族が主人公とはいえ、つい応援したくなってしまう自分に気づくほど、物語に引き込まれる魅力あるミステリードラマ。インド映画(Drishyam/2013年作品)のリメイクで、本作品は中ジャワ州を舞台に、権力を振りかざして捜査を進める警察と、愛する家族を守るため全力を尽くす男の対決が見ものだ。
主人公であるアンディは各地で古い映画を上映する仕事をし、妻と娘2人の4人家族。ある日、長女のアイシャが課外活動で伝統舞踊を披露した際、若者インドラに一方的に見初められ、付き纏われる。インドラはアイシャが着替える様子を盗撮し、映像を拡散されたくなければ、夜、自宅裏で会うようアイシャを脅迫した。
その夜、アイシャの助けに応じた母親がインドラと対峙したが、言い争いの末、インドラが暴力を振い始める。母親を助けようとアイシャが丸太でインドラを殴るとインドラはあっけなく死んでしまう。パニックに陥るアイシャと母親。翌朝、仕事から帰宅したアンディは事態を知り、家族を守るため、証拠隠滅とともに完全犯罪に取り掛かった。しかし、死んだインドラは実は地元警察署の女性署長の息子で、行方不明の息子を探すため警察を挙げての捜査が始まった……。
本作品で興味深いのは、主人公のアンディが仕事柄、大量に観た古い映画の知識をもとに家族の完全なアリバイ工作や警察に対する受け答えを用意するところだ。警察署長はアンディ家族が怪しいと睨むものの、家族一人一人に対する事情聴取で不自然さは感じられない。しかし、警察署長も引き下がらず漏らす言葉が「全てがうまくいきすぎている、まるで映画のようだ」。
拷問も辞さぬほどの権威を傘に迫る警察と、怯えながらも結束して警察に対応するアンディ家族。まさに基本的な善悪の判断を倒錯させてしまうほどの巧みな構成、心理戦に魅了されてしまう。インド映画のリメイクとはいえ、インドネシアにおいて、横暴な警察のイメージが拭いきれていない現状や家族の結びつきの強さといった要素がインドネシア映画にうまくマッチした作品だともいえそうだ。
主要人物を演じる俳優の好演も光っていて、アンディ役にフィノ・G・バスティアン、女性警察署長にマルシャ・ティモシーが参加している。特にマルシャ・ティモシーは冷徹な警察署長に徹した演技で、実は被害者の母親でありながら、あたかも物語の悪役であるかのように感じさせるほどの名演ぶりだ。
本作品の上映時間は、インドネシア映画としては珍しく2時間46分もの長編だが、鑑賞後の印象は通常の1時間40分前後の作品よりも短く感じられるほど。それだけ引き込まれる作品だということだろう。是非、劇場で心理ミステリーの快作を味わっていただきたい。

