
インドネシア、2025年はどんな一年だったでしょうか? +62が主宰し、X(ツイッター)投票で決める「インドネシア流行語大賞」、今年は「万博(ヨヤクナシ)」が圧勝! インドネシアと日本の交流という意味でエポックメイキングな出来事でした。Xでの皆様のコメントも交えながら、今年の流行語をインドネシアの世相とともに読み解きます。「今年よく聞いた『あれ』は何だったの?」がわかります。(文と写真・知る花、大阪・関西万博の写真は上原径さん提供)

「リアルなインドネシア」はパビリオンの外にあった
私も実際にインドネシアパビリオンに行きましたが、インドネシア人のおもてなし、そしてユーモアあるパフォーマンスに心温かくなりました。
匿名(DM)
大阪・関西万博のインドネシア・パビリオンの呼び込みとして有名になった「ヨヤクナシ」。「♪よやくーなしでー、すぐはいれるー」と歌い踊りながら客をパビリオン内へと誘導します。これが「面白い」と話題になってSNSでバズり、日本のテレビ番組などでも取り上げられて、さらに大人気となりました。通称「ヨヤクナシダンス」、歌って踊るスタッフは「ヨヤクナシボーイズ&ガールズ」と呼ばれています。万博の大きな話題の一つとなり、万博公式チャンネルにも動画がアップされています。
インドネシアやインドネシア人を知っている人からすると、「これこそがインドネシア人」「日本にいてもどこにいても、インドネシア人はインドネシア人だね」という感想を持ちます。しかし、インドネシアについてまったく知らない日本人にとっては、新鮮な驚きだったのではないでしょうか。
日本でのインドネシアのイメージはいまだに「テロ」「暴動」などのネガティブなものが多いのかもしれません。そして、それ以上に多いのが、「まったくイメージがない」「どんな国なのかまったくわからない」というものでしょう。それが、この「ヨヤクナシダンス」によって、新たなインドネシア像やインドネシア人像が生まれたように思います。
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インドネシア人は「何もなくても『楽しく』できる人たち」「『楽しむ力』に優れた人たち」です。自分たちで楽しみながら周囲を巻き込んでいきます。それが「コンテンツとして面白かった、楽しかった」というのが、ヨヤクナシダンスがこれだけ人気となった理由でしょう。
そして絶妙なのは、それが「情報」であることです。いろいろ調べないとわからない万博で、「予約なしですぐ入れる」という情報をわかりやすく伝えてくれ、「どうぞ、どうぞー」の呼び声とともに「人がするする吸い込まれていく」(インドネシア・パビリオンMCの大場亜沙美さん)という状況を作り出しました。
インドネシア・パビリオンの内部も好評ではありましたが、展示内容は政府が決めた物であって、偏りがあり、「インドネシアのリアルを表しているか」というと、そうとはいえません。むしろ、「パビリオンの外」の方にリアルなインドネシアが存在していた、と言えるでしょう。
万博はインドネシアではなくて日本での出来事でしたが、「日本人に大きなインパクトを残し、日本とインドネシアの間で新たな交流を生んだ」という意味で、インドネシア流行語大賞に選ばれたこともうなずけます。

「いったん『バックレ』よう」から、独立記念日、そしてデモ
私が推すのは「Kabur aja dulu.(とりあえず逃げよう)」です。この現象・語は日経新聞にも取り上げられました。インドネシアを越えて広がったから、というのがその理由です。
匿名(DM)
年の初めのほうだったかと思いますが、Kabur aja duluは、その後も、いまの若い人たちのマインドを言い得ていると思ったものでした。
マークス・インテリジェンス広報部@MRKS_pub
「ヨヤクナシ」以外のノミネートである「Kabur aja dulu」(いったん「バックレ」よう)、「独立80周年」、「デモ」は、一連の流れだといえるでしょう。この中でも特に「デモ」は、インドネシア在留邦人にとって非常に大きな出来事でした。ちょっと振り返ってみます。
2024年10月に就任したプラボウォ大統領はいよいよ本格的に政権を始動させ、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)前大統領との政策の違いが際立ってきました。特にその経済政策は、ジョコウィ前政権の「インフラ開発」や「工業化」重視から、いろいろな予算を削りながらの「無料給食」へとシフトしました。ちなみに、無料給食による経済成長促進効果は「ほとんどない」というのが識者の見方です。
インドネシアでは、ジョコウィ政権時代から経済停滞が続いており、中間層の縮小や若者の就職難も顕著となってきています。せっかく大学を出ても国内に良い仕事がないので、若者が海外へ流出する動きも出ています。それが「いったん『バックレ』よう」(kabur aja dulu)というネガティブなトレンドワードです。
インドネシアの某大学を無事卒業したオタク長女もこの波に乗ったと言うべきか、日本で就職となりました。あー、日本国籍のままでも良かったかも 😅
個人的な事情は置いといても、インドネシア若年層の就職難は近年ますます厳しくなる一方です。高等教育を受けても昔のように安定した職につける王道ルートが狭まっているのは間違いなく、日本はじめ海外就職を目指すインドネシア人は今後益々増えるでしょう。
世代間の軋轢や階層出身の格差は昨日今日始まった問題ではありませんが、少し前まで経済成長著しい大国、若くて豊富な労働力と消費欲旺盛な中間層が増加中とか、関係者各位やら専門家やらから持ち上げられていたのは一体何だったのか?と思わなくもありません。
ところで、KaburAjaDulu は日本語にするなら「まずはバックれよう」「ひと足お先にバイバイ」あたりでしょうか🤔
Ahmad Hideaki TODOROKI@ahmadhito240415
また、政府が地方交付金を減額したために、困った地方政府は固定資産税の大幅引き上げを行い、各地で長期間にわたるデモや治安部隊との衝突が生まれました。そうした火種がくすぶる中で、皮肉にもインドネシア独立80周年となる8月に、不満の鬱積がピークに達していきます。
引き金を引いたのが、プラボウォ大統領の「今年は独立80周年という特別な年だから、独立記念日の8月17日だけでなく、8月の1カ月間、国旗を掲揚しよう」という呼びかけです。これが思わぬ反発を生み、トラック運転手やSNS上で起こったのが「海賊旗掲揚」騒動でした。「政府への不満の表明」として、日本の人気マンガ・アニメ「ワンピース」の海賊旗を掲揚するのがトレンドとなったのです。

さらに、国会議員の高額な住宅手当が明るみに出る中で8月15日の国会・国民協議会で楽しそうに踊る議員たちの様子が報じられ、その上、議員たちの相次ぐ失言が国民感情を逆なでします。生活の苦しさ、議員に象徴される特権階級への怒りなど、積もり積もった不満が爆発する形で大規模デモが起こり、それが暴動へと発展しました。
デモ・暴動は、ジャカルタのほか、バンドン、ジョグジャカルタ、バリ島などの各地で起き、ターゲットとなったのは国会・地方議会、そして警察でした。議員の私邸も襲撃・略奪の対象となり、「次のターゲット」になることを恐れた華人住民は、家族をシンガポールへ避難させるなど、警戒を強めました。ここまで緊張が高まったのは、スハルト政権崩壊を招いた1998年暴動以来のことでした。
しかし、暴動は意外に早く収束しました。「最悪の事態」になる可能性もありましたが、それは避けられました。市民の間で、SNSを駆使した運動に変わったからです。
Brave Pink Hero Green
誰でも簡単に参加できるインドネシアらしい表現活動。日本の方も参戦してました。17+8 Tuntutan Rakyat
Y0s@wkwkjapan@Y0s_tan
8月17日に掛けるなど、スローガンとして洗練されている。日本にもゆかりがあるJerome Polinらが活躍。
暴動が起きた後、「バス停とか高速料金所とか、公共の物を燃やしてどうするの?」「騒ぎを起こそうとしている扇動者がいる。落ち着こう」という動きが起きました。政府に対する具体的な要求は「17+8(=25)項目の国民の要求」(17+8 Tuntutan Rakyat)として取りまとめつつ、SNSのプロフィール画像をピンクと緑色に変える運動がトレンドになりました。これは、「勇敢なピンク」(Brave Pink=治安部隊に立ち向かったピンクのヒジャブを着けた女性)、「ヒーローの緑」(Hero Green=デモ中に警察機動隊にひき殺されたゴジェック運転手)の二人を象徴し、市民の連帯を表明するものです。また、「Warga jaga warga」(市民が市民を守る)という合い言葉の下に、「扇動者から、自分たちや民主主義を守ろう」として、さまざまなクリエイティブな画像がアップされました。

インドネシアのこうしたSNS戦略は見事なもので、具体的な要求とクリエイティブな表現の両方を織り交ぜつつ拡散し、プラスのパワーをSNSに注入することができます。非常に有効にSNSを使っています。われわれ日本人に大きな示唆と教示を与えるものだと思います。
こうして暴動自体は早期に収束したものの、経済停滞といった問題は依然として残っており、根本的に解決したわけではない、という点には留意が必要です。

イー・カー・エヌはどうなった?
そのほかに特筆すべきは、昨年の「インドネシア流行語大賞」に選ばれながらも、今ではほぼ聞かれなくなってしまった「IKN」(インドネシア新首都ヌサンタラ)はどうなった?ということ。プラボウォ大統領は「2028年にはIKNを『政治の首都』(ibu kota politik)にする」という大統領令を出したものの、首都移転には後ろ向きとみられます。IKN予算は削減しており、2025年の独立記念式典もジャカルタのみの開催へと戻されました。
IKN同様にノミネートはされなかったものの、インドネシアのニュースでずっと話題になっていたのは、「無料給食」(Makan Bergizi Gratis、略称MBG)です。ジョコウィのIKNに代わり、こちらがプラボウォ大統領のペット・プロジェクトで、今年1年間、ずっとニュースになり続けていました。各地での集団食中毒の発生に加え、給食を運んで来た車が校庭に突っ込んで児童や教師にけがをさせたり、「いろいろ、やってくれたな」という給食関連ニュースでした。
そのほかにニュースでよく聞いたのが「イジャザ(ijazah)」というインドネシア語で、「卒業証書」という意味です。これはジョコウィ前大統領を追及するネタとされているもので、大学の卒業証書の偽造疑惑です。「そんなこと、大学側に照会したら一発だろう」と思うのですが(ちなみに大学側はジョコウィ氏の卒業を認め、偽造疑惑も否定しています)、ずっと話題になり続けています。また、ジョコウィの影も、ギブラン副大統領とともに、随分薄くなっています。
そして、一年の終わりにはスマトラ島での大洪水(banjir bandang)が起き、自然災害(bencana)も大きなニュースとなりました。これからインドネシアでは多くの人が移動する年末年始休暇になりますが、各地で異常気象と災害が起きていることから、旅行を見合わせる人もいるようです。皆様も気象情報に注意しながら、どうぞ良いお年をお迎えください。
その他のノミネートはこちら
ボートレース Pacu Jalur
スマトラ島リアウ州の伝統競技。舟の舳先に立ってバランスを取りながら踊る男の子の動画がバズった。
万博(ヨヤクナシデ スグハイレル)かなという気もしますが、今年前半の世界的なバイラルとしては、独立記念日祝典でも出ていたこちらかな〜。
Pacu Jalur
Arizonian Chandler@chandlerblv
トゥントゥントゥンサフール Tung tung tung sahur
断食月中は、朝食(サフール)の時間になると、「トゥントゥントゥン」と竹筒をたたきながら練り歩いて、寝ている住民を起こす。その竹筒に似たAI生成キャラクター。キモかわいさがウケて、バズって大人気に。
抹茶ブーム Macha
世界的なブームがインドネシアにも到来。
デモがやっぱり記憶に残る出来事だけど、
🇮🇩在住ゴリラ(34)平成一桁クソジジイ🇯🇵横浜@Saya_orangJpn3
平和的なことだと抹茶ブームとかも推したい。

正妻、ノー、妾、イエス(正妻ではなく、妾でした) Ani-ani NO, simpenan YES
リドワン・カミル前・西ジャワ州知事との間に「子供がいる」と告白したリサ・マリアナさんの言葉がバズる。リドワン・カミル氏は複数の愛人がいるとして妻に離婚を申し立てられ、現在、離婚調停中。
シン・テヨン解任 Pecat Shin Tae-Yong
韓国人で2019年からサッカー・インドネシア代表の監督を務めたが、2025年1月に解任された。
今回は
「シン・テヨン解任」にします。・PSSI
・エリック・トヒル
・パトリック・クライファート
のどれかと思ったのですが、やはり正月早々一番驚いたニュースで、かつ上記の3つに全部繋がるということで☺️#インドネシア流行語大賞2025
yoichi takano.@yoichitaneko22
プラムディヤ生誕100周年 100 Tahun Pramoedya Ananta Toer
インドネシアを代表する作家プラムディヤ・アナンタ・トゥールの生誕100周年。
美は傷 Cantik Itu Luka
エカ・クルニアワンの長編小説。
生前ノーベル文学賞に幾度もノミネートされた、インドネシア最大の文学者と言っても過言ではないプラムディヤ・アナンタ・トゥールの生誕100周年を祝い特集記事がメディアで組まれました。何より、包括的な彼の伝記がインドネシア本国よりも先に日本で出版されたことの意義は非常に大きいものです。この本格評伝、すなわち押川典昭さんの『プラムディヤ・アナンタ・トゥールとその時代』上下巻は、合わせて千頁を優に超える正真正銘の大著なので、購入を躊躇う方が少なからずいることは容易に想像できます。
しかし、だからこそ私は擁護したい。
インドネシア上級者にも初級者にも読みやすくてわかりやすい日本語で書かれた本として、これ以上のものは現時点でおそらくないのではないでしょうか?
インドネシアとは何か、インドネシア人とはどのような人々なのか?
あまりにも漠然としたこうした問いに対する答えが、この本には詰まっています。
文学関連でもうひとつ。世界的なベストセラーとなっている Cantik Itu Luka の日本語版「美は傷」が新訳で出版されたのも今年の「事件」ではないでしょうか。
訳者の太田りべかさんの大車輪の如き今年の活躍ぶりは本当に素晴らしいです。
ショート動画を見ただけの浅薄な外国理解が跋扈する昨今の風潮に抗う意味も込めて、面白い物語を欲している人たちにもっと届いて欲しいという願いも含めて、ノミネートしてみました。
Ahmad Hideaki TODOROKI@ahmadhito240415

