Lift
ジャカルタにある高層ビルのエレベーターが突然停止し、その中で始まる心理サスペンス。最初から最後までノンストップの緊張感だ。
文と写真・横山裕一
インドネシア映画でゾッとするのはホラーだけではない。エレベーターという密室での恐怖を味わいながらの心理スリラー作品で、冒頭からエンディングまで緊張感が張り詰めた意欲作だ。
作品では冒頭、大手ビルディング開発会社の社長がオフィスで何者かに襲われるところから始まる。連絡が取れず不審に思った広報担当のリンダはオフィスのある高層ビルへと向かい、エレベーターに乗る。10階、20階と昇るうちにエレベーターが突如止まってしまう。管理室に連絡しても通じず途方に暮れるリンダ。
やがてスピーカー越しに謎の男の声がし、6年前、4人の死者を出したエレベーター事故の真実について問いただし始める。リンダの会社が開発したビルで起きた事故だった。エレベーター内のモニターには人質となった息子の映像が映され、パニックに陥るリンダ。一人の技術者のミスとして片付けられていた6年前の事故の裏には何が隠されていたのか、謎の男は何者なのか? 恐怖の中、真実が暴かれ始める……。
首都ジャカルタといえば、高層ビル群が代名詞でもあり、中心部のオフィス街や周囲にある高級アパート(マンション)も地上30階以上の高層ビルが並び立つ。筆者もかつて体験したことがあるが、高層ビルのエレベーターが突然止まってしまった時の緊張感はただならぬものだ。そこへ本作品は更なる恐怖も加えて、本格的な心理スリラーを実現させている。
本作品は序盤、断片的なシーンの積み重ねにより本筋が掴みにくく、理解しづらい構成で始まる。しかし、これが劇中内の人物の恐怖感とともに観る者の不安感も煽り、次の展開を期待させてしまう効果があり、なかなかにくい構成が施されている。
本作品をはじめ、インドネシア映画十八番のホラーでなくとも恐怖感を味わせる心理スリラー、ミステリー作品が制作され始めているのも近年の特徴だ。2023年公開の「スリープコール」(Sleep Call)や2024年公開の「いつまでもともに」(Sehidup Semati)、最近では2025年の「闇の伝説、マリン・クンダン」(Legenda Kelam Malin Kundang)など、人間の現実世界での物語だけに、お化け以上に怖い世界が作り上げられている。
2025年は201本の映画が制作・劇場公開されているが、約半数の90本がホラー作品で依然、ホラー作品が多いままだ。しかしそうした中、スリラーやミステリーが増えているのは、ホラー映画大国のノウハウが生かされているようにも窺える。お化けの代わりに人間の心理に踏み込んだ恐怖を題材にしたスリラーやミステリー作品は秀逸なものが多く、近年の充実したインドネシア映画界を反映してもいる。
物語では正義と悪者の対決が多いが、本作品では正義役が一人も出てこないのが面白いところでもある。是非、ノンストップの心理スリラーを劇場で味わっていただきたい。(英語字幕なし)

