「真の勝者」 前向きに生きる少年たちの青春群像劇 【インドネシア映画倶楽部】第115回

「真の勝者」 前向きに生きる少年たちの青春群像劇 【インドネシア映画倶楽部】第115回

Juara Sejati

貧しくも真っ直ぐに生きようとする少年少女3人の姿が、高原地帯の澄んだ空気感と相まって好印象を与える。厳しい現実に立ち向かう若者を爽やかに描く

文と写真・横山裕一

 美しい自然が広がる中ジャワ州の高原地帯・ウォノソボを舞台に、家族や仲間を大切にしながら逆境を撥ね除けて成長していく若者を描いた青春映画。同時に地方農村の貧しさや地主に借金を抱え苦しむ小作農の厳しい現実も浮き彫りにしている。

 物語は主人公の少年、エランと2人の親友を中心に子供時代から青年期までが描かれる。幼少期に両親を亡くし祖母の手ひとつで育ったエランは祖母想いの素直な少年だった。ある日、バスに乗り遅れて高校に遅刻したエランは罰として校内を走らされたが、その姿を見たある教師がエランを陸上大会に出場させようと考える。

 エランの隣人で小作農の娘、ムラティは明るく活発な性格だったが、親が地主に借金をしていて、取り立てに苦しむ親の姿に心を悩ませていた。一方、市街地に住み比較的裕福な家庭に育ったラフィはずる賢い少年だったが、エランの素直で思いやりある行動に好意を抱き、陸上のライバルとして友情を育んでいた。

 陸上大会当日。レースに備えるラフィ、そしてムラティも応援に駆けつけたものの、エランの姿がない。心配する2人と教師たち。実は祖母が倒れてしまったため、エランは祖母をリヤカーに乗せて病院へ向かう途中だった……。

 作品ではエラン少年の素直で思いやりある姿を通して、人生において何が「真の勝者」であるかを問いかけている。子供の頃から祖母を大切にするだけでなく、少年期にムラティに借りた自転車を壊してしまい、弁償するため学校を休んで農作業の手伝いをして小銭を稼ぐなど責任感ある姿も描かれる。それを知ったムラティも躊躇なくエランを手伝う。爽やかな青春群像劇だ。

 こうした青春映画に彩りを添えるのが、ディエン高原などウォノソボ周辺の美しい風景だ。もやに煙る山々や濃緑の風景は素晴らしく、当地の澄んだ空気感も感じられる。作品では、山間部であるためバイクや車がないと生活しづらい現状も描かれるが、バスに乗り遅れたエランがものともせず、山道をかけ降りていく姿も清々しい。

 一方で、借金の取り立てに苦しむムラティの家族を通して、地方農村では多くが大地主の小作農で収入も少なく、生活のために地主から借金をせざるを得ないなど、インドネシアの地方農村が抱える深刻な現状も浮き彫りにされている。

 近年、充実するインドネシア映画界で洗練された作品が増えつつある中、本作品はどちらかといえば素朴な作りに仕上げられているが、それが却ってテーマ性や登場人物の性格づけを強調している効果があり、好意的に受け取ることができる。

 貧しいながらも逆境を乗り越えようと進む、少年のひたすら前向きな姿を是非、劇場でご覧いただきたい。(英語字幕なし)

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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