「ディラン ITB 1997」 インドネシア民主化の中で、大人へと成長するディラン 【インドネシア映画倶楽部】第124回

「ディラン ITB 1997」 インドネシア民主化の中で、大人へと成長するディラン 【インドネシア映画倶楽部】第124回

Dilan ITB 1997

大人気「ディラン」シリーズの最終章とも思われる第5弾。1997年、バンドゥン。民主化の高揚と弾圧、そして民主化の幕開けとなった時代を背景に、大学生から大人へと成長するディランが、インドネシア現代史とシンクロするように描かれる。

文と写真・横山裕一

 第1作目「ディラン1990」(Dilan 1990/2018年作品)で観客動員数631万人以上、2作目「ディラン1991」(Dilan 1991/2019年作品)で同525万人以上とブームを起こした映画「ディラン」シリーズの第5弾。西ジャワ州バンドゥンを舞台に、暴走族のディランと普通の女子高生ミレアとの恋愛物語から7年。大学卒業間近のディランの新たな恋と大人へと踏み出すステップが描かれる、シリーズ最終章とも思わせる作品だ。

 物語はディランが半年間のキューバ短期留学を終え、バンドゥンへ戻ったところから始まる。かつての恋人ミレアは高校卒業後、ジャカルタへ移って久しい。バンドゥン工科大学(ITB)の学生ディランには、すでにパジャジャラン大学学生の恋人チカがいた。誤解による不和などもあるが、ディランのチカへの想いは高まっていた。

 暴走族だった高校時代のしがらみなど過去との訣別をつけたディランは人生において大人の男として変わろうとしていた。折しも、1997年は経済危機や民主化の高まりから、長期独裁政権を続けたスハルト大統領への退陣要求の声が高まっていた。ディランも学生デモに参加し、グドゥン・サテ(西ジャワ州庁舎)へと向かった……。

 5作目となる「ディラン」シリーズで今回一番の変化は、ディラン役が3作目までのイクバル・ラマダンからアリル・ノアに変更したことだ。どうやらイクバル・ラマダンは本人の意向で4作目からディラン役を降板したようだ。

 本作品のタイトルにもある1997年は、ディランは20代半ばの設定。アリル・ノアもイクバル同様、イケメンの歌手であり俳優だが、現在44歳。さらに相手役のチカ役を演じる女優ニケン・アンジャニは48歳。今回は主役の二人が実年齢よりも約20歳若い役を演じる配役だ。観ていて流石に大学生役に無理も感じられるが、内容的には二人の落ち着きぶりが学生気分から大人へと成長する過程を描くには相応しいのかもしれない。

 一方、物語の中では、社会情勢として経済危機、民主化の高揚、スハルト大統領退陣要求、民主化への弾圧、そしてスハルト大統領が辞任し民主化の幕開けと時代の変化が盛り込まれる。ディランの人生における学生時代から大人へと成長する姿を、インドネシア現代史における時代の変化とシンクロさせているかのようだ。

 作品の前半、ディランがチカに冗談混じりで話す様々なインドネシア語ならではの言葉遊びも面白く、聞き逃したくないところだ。これまでとは異なった、大人のディランを是非劇場でご覧いただきたい。

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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