「結婚への道」 結婚をめぐるドタバタ、笑いいっぱいのロードムービー 【インドネシア映画倶楽部】第99回

「結婚への道」 結婚をめぐるドタバタ、笑いいっぱいのロードムービー 【インドネシア映画倶楽部】第99回

Menuju Pelaminan

ジャワ人とミナンカバウ人の結婚への道……二人はちゃんと結婚できるのか?! それがジャワ島ジョグジャカルタからスマトラ島パダンパリアマンまでのロードムービーになっている所がまた面白い。笑いいっぱいの快作。

文と写真・横山裕一

 異なる風習を持つ他民族間での結婚から垣間見えるインドネシアならではの多様性文化を、笑いを交えながら楽しめるコメディロードムービー。ジャワ民族とパダン料理で有名なミナンカバウ民族の特徴や人柄を的確に捉えた快作。

 物語の主人公はジャワ民族の男性、ファジャルとミナンカバウ民族の女性、ラフマで、二人の結婚式直前から始まる。ミナンカバウ民族は世界でも珍しい母系社会を伝統的に引き継いでいて、女性が婿をもらうしきたりだ。このためジョグジャカルタに住むファジャルは結婚式を行うために、家族とともにスマトラ島の西スマトラ州パダンパリアマンにあるラフマの実家へと行かねばならない。

 しかし、ファジャルの祖父が飛行機が怖く乗れないため、一行は遥か1860キロ余りの道のりを車で行かねばならなかった。出発の予定時間を大きく遅れて伯父が用意してきた車は旧型のオンボロワゴン。ようやく出発したものの、ファジャルの母親や叔母が道中、有名なモスクで定時の礼拝をして回りたいとわがままを言い出す。挙げ句の果てに母親は礼拝後にうたた寝をしてしまいモスクから出てこない。先を急ぎたいファジャルだが、今度はジャカルタでの渋滞中に祖父が体調を崩してしまう。スマトラ島へさえ辿り着けず、焦りとイライラが増すファジャル。

 一方、一行を待ち受けるラフマは質素な結婚式を望むものの、母親が一族に恥ずかしくない立派な式をあげると張り切る。伝統家屋の内外に装飾を施して準備を進める。しかし、結婚前日の婿を受け入れる式にファジャル一行が間に合わないことを知ると、母親は一族に対する面子を潰され、結婚をやめようとさえ言い出す。果たして、ファジャル一行は無事結婚式に間に合い、ファジャルとラフマは幸せを掴むことができるのか……。

 一族への対面を重んじるミナンカバウ民族と時間にルーズなジャワ民族と、映画のため若干誇張されてはいるが、それぞれの民族の特徴を笑いに変えながら浮き彫りにする手法が巧みに随所に盛り込まれている。また、わがままを言う母親に「有名なモスクでの祈りは別の機会にしよう」とファジャルと父親が諌めても、母親が「婿にいくファジャルと一緒に礼拝できるのはこれが最後だ」と泣くため、ファジャルも聞き入れるしかない。ラフマを含めて、親の望みを最大限尊重するインドネシアでの家族風習もよく表現されている。

 本作品の監督はドキュメンタリー映画を多く手がけてきたユダ・クルニアワン監督。ドラマは初挑戦ながら、テンポ良い巧みな構成で仕上げている。中ジャワ州チルボンをはじめジャカルタ、スマトラ島のランプンなど各地の雰囲気を味わうことができるのもロードムービーならではの魅力だ。

 作品内では、ファジャル一家のジャワ語、そしてラフマ家族のミナンカバウ語が飛び交い、それぞれ独特な言語の雰囲気も味わうことができる。このためインドネシア語字幕を目で追うのは大変だが、それ以上に物語の面白さに魅了される。

 生活レベルでの魅力ある民族多様性、ジャワ島からスマトラ島を巡る旅、そして笑いが詰まった作品をぜひ劇場で楽しんでいただきたい。(英語字幕あり)

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横山 裕一(よこやま・ゆういち)元・東海テレビ報道部記者、1998〜2001年、FNNジャカルタ支局長。現在はジャカルタで取材コーディネーター。 横山 裕一(よ…
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