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文・写真…鍋山俊雄

 インドネシアでは昔から、端から端までという意味で「サバンからメラウケまで」と言う。インドネシア全体を長方形で囲った時、左上がサバン(アチェ州)、右下がメラウケ(パプア州)になるからだ。では、インドネシアの北端とはどこか? この問いをインドネシア人の友人たちに聞くと、答えは意外にまちまちだ。

「マナドの上のフィリピンに近い所」と言う人もいれば、「リアウ諸島州(スマトラとカリマンタンの間)の北端」と言う人もいる。地図で見ると、マナドの上のフィリピンに近い島々と、スマトラ島アチェ州のウェー島(サバンのある島)が、良い勝負で北端を争っている。

インドネシアで最北端(かもしれない)、フィリピンに近い島々ーー。北スラウェシ州タラウド諸島県に行ってみることにした。県庁所在地は、カラケラン島にあるメロングアネ。ジャカルタを午前2時前に出発した夜行便をマナドで乗り継ぎ、マナドからプロペラ機で約1時間余り。メロングアネに着いたのは正午前だった。

飛行機の窓から見ると、海岸沿いに所々、小さな町や村があるが、内陸は一面の原生林に覆われた山々が広がっている。スマトラやカリマンタンで見られるような油ヤシのプランテーションもない。

ジャワの田舎の鉄道駅のような、小さな空港ビルを出た。タクシーの交渉をすべく身構えていたら、誰も外国人である私に興味を示さず、まったく声もかけてこない。これは私のインドネシアでの旅行経験の中でも極めて珍しい。つまり、ここには観光客がほとんど来ない、ということだ。当然、タクシーらしきもの(=自動車)もない。出口の近くの広場に、ベントール(becak-motor。ベチャ同様に前輪部分に2人ほど座れる台車が付いているが、自転車ではなくオートバイで動かす。ジャカルタでは見ないが、地方都市ではよく見かける)が数台停まって客待ちをしていた。これで街まで行くことにした。

実は、メロングアネのホテル情報を事前に調べたが、インターネットでもガイドブックでもまったく見つからなかった。タラウド諸島の観光関連ウェブサイトを見て、かろうじて、いくつかの宿泊所(penginapan)があることだけはわかった。しかし、場所も中身もよくわからないので、実際に行ってみて、いくつか見てから宿を決めることにしていた。

ベントールの運転手に街の中心がどこかを確認すると、空港のすぐ横だと言う。ホテルはないかと聞いたら、運転手同士で話を始め、私が事前に確認していた宿の名前が出てきたので、場所をよく知っていそうな運転手のベントールに乗った。3カ所ほどの宿(どれも街の大通りの近くだった)を回って、港の近くの宿に泊まることにした。

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日本で言うと民宿のようなイメージか、個人宅に客室部分が増築してある。2階の部屋で、室内は十分に清潔、ちゃんと動くエアコンとテレビがある。シャワーはもちろん水だが、トイレは洋式で、なんとトイレットペーパーまで付いていた。「デラックス」の部屋(1泊35万ルピア、朝食付き)にした。

宿の目の前の港には、1日数回、フェリーが到着する。マナドまでは約12時間かかるそうだ。マナドからタラウド諸島地域の小さな島々を2週間ほどかけて巡回し、物資を運搬したり島民の移動の足となっているフェリーも入ってくる。

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通常、ガイドブックに載っていないような場所に行く時は、旅行好きのインドネシア人が書いたブログや観光局の情報を見て、行きたい所に当たりをつけている。しかし、この町には観光情報がほとんどない。わずかに、スラウェシの地方紙のウェブサイトで「観光名所として巨大なキリスト像を建設中」という記事を見たのと(ブラジルのリオのような写真が付いていた)、カラケラン島からボートで渡ったサレバブ島に、戦時中に掘られた洞窟があることがわかっていた。それらを軸に、街歩きをすることにした。

町の人の話によると、メロングアネはカラケラン島の南端に出来てまだ14年の新しい町だ。カラケラン島の中心だったベオ(島の中部)や、サレバブ島の中心地リルンはいずれも山が近く、空港建設に適さないという理由で、森林と野原しかなかったメロングアネに空港を建設し、県庁所在地にしたとのことだ。生活物資の多くはマナドからのフェリー便で運ばれているが、空港が出来てからは飛行機も使われている。物資輸送のほかに政府関係者やビジネス関係者の往来で、毎日1往復の便はほぼ満席だそうだ。

元々、この地はフィリピンと交流が深く、フィリピン人を祖先に持つ人も多い。私はいつもラジオを旅行に持って行き、地元の放送を聞く。予想した通り、ミンダナオ(フィリピン)の中波放送が昼間でも受信できた。ただし、ミンダナオはイスラム人口が多いが、ここは約95%がクリスチャン。県庁関係の公務員、スラウェシ島ゴロンタロやマカッサルからの移民がムスリムだ。現在、フィリピンとの直接の交流は、表立っては行われていない。

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街中をぶらつきながら、新聞で見たキリスト像を探していると、小さなロータリーの向こうに、建設中のキリスト像が見えた。のんびり街中を見学しながら、像まで歩いて行った。道すがら、大きなハム(アマチュア無線)のアンテナを立てた家があり、インドネシアのハムの免許を持っている私としては、つい、その家の人と話し込んでしまった。キリスト像の現場では、数人の工員たちがのんびりと作業をしている。近くに貼ってある完成予想図を見ると、きれいな公園の中にキリスト像がたたずむ予定だ。来年ごろに完成するらしい。

そのすぐ近くに、この島では最も大きな建物であろう、立派な県庁オフィスがあり、その裏手には、県知事の大邸宅とともに行政機関のオフィスが整備されつつあった。この街で唯一と思われるモスクもまた、この官公庁エリアの一番奥にある。

着いた翌日は日曜日だった。教会へ行き、着飾った町の人々が集まって来るのを見ながら、礼拝を外から見学した。インドネシアではどこに行っても、必ず、教会のスタッフが親切に話しかけてきて、中に入るように促してくれる。私は仏教徒だからと言って丁重に断りつつ、町の話をいろいろ聞くのが楽しい。

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その後、港の近くの海岸に出て、サレバブ島リルンに渡るスピードボートを探した。通常は客が3〜4人集まったら出発し、1人3万ルピアとのこと(事前にベントールの運転手や宿の人から情報を仕入れていた)。しかし、日曜は人の集まりが悪いようだ。貸し切りだと10万ルピア(約3人分)。「午後は波が高くなるから午前中に出て、遅くならないうちに戻った方がいい」というベントールの運転手のアドバイスに従い、一人で貸し切ることにした。

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たった15分で着くとは言え、それでも結構、お尻が痛い飛び跳ね方で、向こう岸のリルンに到着した。目に付いた大きな教会に行き、再び教会の人に、リルンについて教えてもらう。メロングアネもリルンもキリスト教徒がほとんどの街なので、残念ながら、商店も市場も日曜は見事に休業。活気のある街の様子は見られなかった。

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街はずれの洞窟に、オジェックで行ってみた。ブログによると「戦時中の遺骨や遺品が残っている」ということだったが、地元の人に聞くと、すでに調査関係者がマナドに持って行ってしまったとのことで、ただの洞窟だけが残されていた。

再びスピードボートでカラケラン島に戻ってから、夕食をとるレストランを探したが、レストラン自体があまりない。ナシゴレンが食べられそうな店を見つけて入る。マナド系の料理は辛い物が多く、写真入りメニューが妙に赤いのが気になった。やはり、注文して出てきたナシゴレンは相当に辛く、空腹であるにもかかわらず、思わずスプーンが止まるほどであった。大汗をかきつつ、なんとか食べ終わる。

娯楽がほとんどなさそうな町(ショッピングモールどころか、大きなスーパーもない)だったが、個人宅でも大きなスピーカーがあることには昼の街歩きで気付いていた。土曜の夜はスピーカーからビートの効いた音楽が流れ、午前2時ごろまで続いた。日曜の朝は、教会からアップテンポの賛美歌が聞こえてくる。道端では、スマホでミュージックビデオを見ながらダンスの練習に励む女の子を見かけた。音楽好きの島なのだ。

月曜の朝に、町外れのパサールに立ち寄った後、平日の活気を取り戻した大通りをベントールで通り抜けながら空港へ向かい、この北の島を後にした。

町の人に「この島がインドネシアの最北端なのか?」と尋ねたところ、もっと北にミアンガス島(Pulau Miangas)という小さな島があり、そこからはフィリピンも見えるとのこと。今は、島を巡回していくフェリーで長い時間をかけて行くしか方法がないのだが、現在、空港を建設中で、来年には完成するそうである。それを聞いた「はしっこ」好きな私としては、しっかり、「行きたい所ロングリスト」に書き留めておいた。

 

鍋山俊雄(なべやま・としお)
インドネシアに在住期間は計10年になる。仕事でジャワ、カリマンタン、スマトラへの出張が多いことに加えて、「週末弾丸トラベラー」としてインドネシア各地を放浪し、全34州を訪問した。
 
 
インドネシア全34州の旅
#0 空港
#2 アチェ州 インドネシア0キロ地点と津波の跡
#3 ブンクル州 英国の砦、スカルノの足跡
#4 南カリマンタン州 川の街の水上マーケット
#5 バンテン州 バンテン王国跡へ、列車の旅
#6 西カリマンタン州 春分の日に赤道へ 影がなくなった!
#7 南東スラウェシ州(上) 波の音しか聞こえない、ぜいたくな空間
#8 南東スラウェシ州(下) インドネシア最大級、ブトン王国の城壁都市。
#9 バンカ・ブリトゥン州 アホック前知事の故郷、「ラスカル・プランギ」の島。
#10 リアウ諸島州 最北端の島の1つ。石群が織りなす造形。