Tanah Runtuh
「タナルントゥ」はインドネシア語で「崩落した大地」という意味だが、スラウェシ島ポソにある地名。1998年12月から約3年も続いたポソでの住民抗争を舞台に、母親とはぐれた兄弟を真摯に助ける警官の姿を描く。現在の警官への批判を込めた逆説的な作りとなっているが、気持ち良く鑑賞できる。
文と写真・横山 裕一
1998年年末から2001年にかけて実際に起きた中スラウェシ州ポソでの宗教抗争を舞台に、騒乱で母親とはぐれてしまった子供たちと、捜査の傍ら子供たちの手助けをする警察官を描いた作品。
物語の舞台はポソにあるタナルントゥ地区。カイとリンゴの兄弟は母親と伝統市場で買い物中、突然の爆発とともに武装住民の銃撃に襲われる。ダウン症のリンゴにいつも付き添っているカイの2人は銃弾が飛び交うため身動きできず、母親とはぐれてしまう。母親も必死に子供たちを探すが重傷を負い、避難所に護送されてしまう。
一方、ポソでの住民抗争の首謀者とみられる手配中の男たちを拘束するため、現地に赴任した警察官イダムは手配犯を追う最中にカイとリンゴを保護する。そして、2人の母親を探すことを約束する。一方、自動小銃や爆弾で武装した手配犯らはイダム率いる警察グループも襲撃の標的として狙いを定める……。
ポソでの住民らによる宗教抗争は1998年年末、キリスト教徒とイスラム教徒の住民同士の小さな諍いがきっかけだったが、当事者が異教徒間だったこと、また当地が土着のキリスト教徒と商売や移民政策によるイスラム教徒の移住民から構成されていたこともあり、結果的に地域を二分する大規模な抗争にまで発展した。発生当時がイスラム教徒の断食月中に迎えたクリスマスの日だったことも宗教抗争にまで拡大した要因ともみられている。抗争は住民間による和解まで約3年間続き、少なくとも1000人余りの住民が死亡したといわれている。
当時はスハルト長期独裁政権が崩壊して民主化の時代に切り替わったばかりの時期で、民主化勢力と守旧派勢力が対立し社会不安が高まっていた時期。このためポソと同様の宗教抗争はマルク州と北マルク州でも発生していて、西カリマンタン州では土着民族と移住民による抗争も起きている。
本作品では命の危険を伴う任務をこなしながらも子供の母親を探す手助けをする警察官イダムと部下たちの人道的で真摯な姿が描かれる。作品最後に、国家警察に対する感謝のクレジットが出されたため、本作品もバックアップを受けたいわゆる警察主導の映画作品かと思ったが、資金など警察の協力は受けていないようだ。逆に本作品のプロデューサーは記者会見で、警察官のプロフェッショナルな姿を描くことで現在の警察に対する批判も込められていることを明らかにしている。その意味では本作品は逆説的な作りの映画であるようだ。
作品自体は、母親を案じて必死に探す2人の子供の姿や「理想的な」警察官たちの姿は素直に気持ちよく観ることができる。是非劇場で鑑賞し、製作者の意図でもある現在の社会の姿に思いを巡らせていただきたい。

