Heartbreak Motel
「役者が揃った」作品。旬の監督、女優、俳優のアンサンブル。監督はヒット作を生み出し続けている実力派のアンガ・ドゥイマス・サソンコ、主演はいま最もノッている女優の一人、ラウラ・バスキ。相手役の2人は「格好良い大人の男性」の代表的な存在であるレザ・ラハディアンとチッコ・ジェリコ。この3人の演技を鑑賞するだけでもこの作品の価値はある。
文と写真・横山裕一
2022年ベストセラーの同名タイトル小説(イカ・ナタッサ著)を原作に映画化したラブ・ロマンス作品。人気女優という華やかな世界で活躍しながら、幼少時の家族間のトラウマを抱え、安堵感を求める女性の心の揺らぎがきめ細やかに描かれる。
アファは映画の話題作に主演する人気女優だが、撮影中に幼少時のトラウマがフラッシュバックして精神コントロールを乱してしまう悩みを抱える。共演する俳優レザがアファの悩みに理解を示して手助けしたことから2人は付き合い始める。しかし、徐々にレザは身勝手で癇癪持ちの本来の姿を見せ始め、アファの心は再び乱され始める。
一方、とあるホテルの女性従業員で大人しそうなマヤは客室を清掃する際に同室の客でビジネスマンのラガと知り合う。最初は避けていたマヤだが、ラガの落ち着いて思いやりを感じる接し方にいつしか安堵感を覚えていることに気づいていく。
物語ではこの二つの物語が並行して進んでいく。ただ、アファとマヤは両人とも女優ラウラ・バスキが演じていて、二つの異なる物語がどうシンクロしていくのか、また正反対の性格にも見えるアファとマヤは同一人物なのかそれとも別なのか、謎を紐解くように鑑賞を進めていく楽しみも同作品には用意されている。
誰もが憧れる華やかな芸能界での、同業者ゆえに仕事に理解のある男性と、一見地味な裏方仕事で出会った、独特な雰囲気を持つ男性。本作品はラブロマンスではあるが、心の安寧や幸せをどこに求め、過去のトラウマにどう向き合うか、といった女性の心のうつろいを描いた大人のドラマでもある。劇中、主人公に問いかけられる「まだ手に入れられていない、あなたの求めるものは?」という質問が印象深く耳に残る作品だ。
さらにこの作品は豪華キャストも見どころのひとつだ。主演のラウラ・バスキは毎年主演作品を重ねるうえ、昨年の話題作「スリープ・コール」でも好演するなど今、最もノッている女優の一人で、今作品でも実力を発揮している。その相手役を演じた二人の俳優、レザ・ラハディアンとチッコ・ジェリコもインドネシアを代表する俳優であり、「格好良い大人の男性」の代表的な存在だ。大袈裟だが、3人の共演、安心できる演技を鑑賞できるだけでもこの作品の価値はあるといえそうだ。
監督は「コーヒー哲学」(Filosofi Kopi/2015年作品)シリーズや「いつかこの物語をあなたに」(Nanti Kita Cerita tentang Hari Ini/2020年作品)シリーズ、「ラデン・サレを盗め」(Mencuri Raden Saleh/2022年作品)など話題作やヒット作を生み続ける、アンガ・ドゥイマス・サソンコ監督。実力派監督と勢いのある女優、それに魅力ある男性俳優のアンサンブルを、是非劇場で楽しんでいただきたい。(英語字幕なし)