日本では天皇家の跡継ぎが論議の的となっているが、マタラム王朝の流れを汲むジョグジャカルタ王室にも跡継ぎ問題がある。現在の王であるハメンクブウォノ十世(80)の子供は5人全員が女子。ハメンクブウォノ十世は長女(54)を自らの跡継ぎにする方針だが、王の弟らからは反対の声も上がっている。ジョグジャの事例を見てみよう。(写真はすべてジョグジャ王宮のインスタグラムより)

日本の象徴天皇制と違い、ジョグジャカルタの王(スルタン)は、特別州知事でもあり、政財界に実権を持つ。そして、人々の尊敬と崇拝の対象となっている。イスラムとジャワ神秘主義と現代が混じり合い、独特な世界を作り出している。
ハメンクブウォノ十世は、ハメンクブウォノ九世とその第二夫人との間に生まれた長男。九世は正妻5人を持ち、子供21人がいた。正妻5人全員に対して「皇后」に当たる称号が与えられ、その地位は平等で、王位継承権はそれぞれの長男にあるとされた。九世の後継者は家族会議で決められた。現在の十世が皇太子に決まり、九世の死去の翌年である1989年に即位した。
昔の王は複数の正室や側室を持ったが、時代は変わり、複数の妻を持つことは社会通念上でも一般的ではなくなった。十世の妻はヘマス夫人ただ1人で、子供5人全員が女子。十世は子供たちに「女性だから、やらない」ということはなく、帝王教育を授けたようだ。

長女のプンバユンさんはシンガポール、米国、オーストラリアに留学し、オーストラリアの大学で学位を取得。英語も流暢だ。宮廷での活動やジャワ文化振興のほか、環境保護活動にも力を入れている。2002年に結婚し、子供は長女と長男の2人。
ジョグジャ王室で女性が王になったことはない。イスラムの教えのほかに、ジャワ神秘主義に基づく儀礼の中で女性が行えないものもある。男性で跡継ぎを探すとなると、十世の弟らが該当する。だれを後継者にするかという問題が長くくすぶっていたが、十世は2015年に詔勅を出し、この問題に決着をつけた。
十世は長女のプンバユンさんに「マンクブミ」の称号を与えた。この称号は、王の次に高い位を意味し、暗に跡継ぎであることを示す。十世は同時に、女性であることの障壁を取り払う、さまざまな布石を打っている。
まず問題となるのは、王が所有し、王権の象徴でもあるクリス(短刀)。クリスは男性が持つものだ。十世は、王のクリスと皇太子のクリス2本を「休ませる」儀式を行った。男性が持つクリスを今後「使わない」ということは、次の王が女性であることを意味している。

十世は「インドネシアでは男女平等なのに、私がなぜ男女差別をする必要があるだろうか。矛盾が生じてしまう。時代は変わった。私はインドネシアに属するし、法の下にあらねばならない」と述べた。プンバユンさんも「アチェなど、ほかのイスラム王国には、かつて女王が存在した。私が言えるのはそれだけ」と述べている。
これに対し、十世の弟らは強く反発している。十世の義弟の一人であるプラブクスモさん(71)は「権力に飢えている」として十世を批判し、「何百年と続く伝統を壊すものだ。十世が亡くなったら、十世の妻と娘たちを王宮から追放する」と息巻く。
懸念されているのは、儀礼への影響だ。マタラム王朝の始まりの時から、「王家は南海(=インド洋)に住む女王ニ・ロロ・キドゥルと霊的な婚姻関係を結び、それによって守護を与えられる」と信じられている。これは現代まで続き、毎年、王がインド洋で、切った爪や髪の毛を捧げる儀式がある。ジョグジャの王が女性になると、この儀式は催行できなくなる。「女王が二人。災いが起きないか」と心配する声もある。
しかし、市民の多くは「王家が決めたことには従う」という態度だ。王位継承についての法律はなく、王が絶対的な権限を持つ。プンバユンさんも、王家の儀式などを行う中で存在感を示し、地歩を固めつつある。反対する弟らも高齢化する中で、プンバユンさんが後継者となることは既成事実化されていくことになりそうだ。

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