濃厚だけどライトな食べやすい豚骨 インドネシア人が育てて再出発 【びーとさんのジャカルタ・ラーメン今月の一杯】#6 「鶴亀堂」の博多ラーメン

濃厚だけどライトな食べやすい豚骨 インドネシア人が育てて再出発 【びーとさんのジャカルタ・ラーメン今月の一杯】#6 「鶴亀堂」の博多ラーメン

文・びーと(名取敬)

 僕が初めて西ジャカルタのタマン・ラトゥで鶴亀堂の豚骨ラーメンを食べたのは、2024年1月8日。どこかのウェブサイトで紹介されているのを見て、行った記憶があります。当時の僕は、ジャカルタの豚骨で先行する店を何軒か食べた程度でしたが、鶴亀堂の豚骨のおいしさにはかなり驚かされました。

 もう一つ印象に残ったのは接客の素晴らしさです。ここは、愛知県にある博多ラーメン「鶴亀堂」のマスターフランチャイズ権を得ているのですが、店員さんから、日本人スタッフは10年以上も来ていないと聞きました。日本人が現場にいないまま、現地スタッフだけで長年、同じ味を作り続ける。しかも豚骨ラーメンです。僕の周りでも、1週間出張しただけでメードさんが作る味噌汁の味が変わっていた、なんて話を聞くのは日常茶飯事なのに、ここでは高いクウォリティーでしっかりキープされているんだから本当にびっくりでした。ただ、その後の取材で「日本人スタッフは毎年来ている」と聞きましたので、僕の聞き間違いだったようです。

 今年3月、その鶴亀堂が閉店すると知った時は、正直、耳を疑いました。ところがなんと、閉店のお知らせがインスタグラムに出た途端、バズりました。「閉めないで」「最後にもう一度食べたい」という声が殺到し、実際、遠方からわざわざ食べに来た人も大勢いたようです。「投資したい」という声も相次ぎ、なんと、30人が投資を申し出たそうです。実は、僕も加わりたいと少し思ったのですが、「むかん」の開店と時期が重なったため、見送りました。ちょっぴり後悔(笑)。

 僕はそのバズっている様子をリアルタイムで見ていました。3月1日にクローズを発表してから、そこから数日で流れが変わり、あっという間に出資者が集まっていくライブ感が、まだ強く印象に残っています。 

 鶴亀堂の元々のオーナーは、ラーメンが好きで店を始めたそうです。僕も自分が食べたい店をジャカルタに作ってしまったので、この感覚はよくわかるし、シンパシーを感じます。そして、閉店騒動の中で名乗り出た投資家の中から3人が選ばれ、元のオーナーと一緒に、新たなチームとして再出発することになりました。

鶴と亀のイラストがかわいい
8月24日にオープンした新店舗の店内。鶴と亀のイラストがかわいい

 新しく加わったオーナーの一人がライアンさん(42)です。スポーツ関連の仕事をしていますが、子供のころから日本文化が大好きだったとのこと。ライアンさんらが考えたのは「鶴亀堂は大きなコミュニティーを持っていて、その味は支持されている。問題は立地であり駐車場」ということでした。

 実は僕も、以前の店へ行くたびに、駐車場のなさには苦労しました。自分で運転する人が車を停めるのは難しく、運転手がいても、店の前では待てないので、食べ終わってから呼び戻す必要があります。車での移動が中心のジャカルタでは、いくら味が良くても、駐車場のなさは致命傷になりかねません。

 鶴亀堂の新チームは、まずは場所を変えることにしました。以前からのお客さんを失わないように西ジャカルタは離れず、選んだのが、プリ・インダの道路沿いにあるルコです。ここなら駐車は簡単です。高速道路からは店が見え、高速へのアクセスも良い。周辺にはオフィスと住宅地があり、飲食店も増えています。

 移転してから8月に再オープンした新店舗は3階建てです。1階はラーメンを作る様子を見せるオープンキッチン、2階は揚げ物の調理場、3階は大きな寸胴を並べたスープ工場という構成です。3階には従業員宿舎も備えています。席は1、2階に62席あり、週末の来客数は1日350人を超えるそう。日本にあるラーメン店でも、1日350人はかなりの繁盛店です。

 再オープン直後の取材時にも、多くのお客さんが訪れ、あっという間に満席になっていました。移転のためにしばらく閉店していたので、新装開店を待ちかねたお客さんも来ているみたいでした。「また店が危機に陥ったら、『閉店します』と言えばいいかもしれないですね」とライアンさんが冗談を言っていました。

豚骨スープを炊いているところ
3階のスープ工場で豚骨スープを炊いているところ
豚骨スープ
12時間以上かけて炊く豚骨スープ。濃厚そうに見えるが、意外にライト
豚チャーシュー
豚チャーシュー

 豚骨スープは骨から12〜14時間かけて炊くそうです。食べてみれば、業務用スープを溶かしたのではなく、店で骨からきちんと炊いていることがわかります。今回は3階のスープ製造現場も見学し、まじめに作っていることを自分の目で確認できました。

 鶴亀堂の豚骨スープは、しっかり濃さがあるのに獣臭がほとんどありません。人工的な味もあまり感じない。薄いわけではないのに癖が少なく、豚骨を食べ慣れていない人にも食べやすい味です。

 先行するほかの豚骨ラーメン店には、もう少し強い匂いを特徴にする店もあります。それを好きな日本人も多いですが、苦手な人もいます。濃厚だけどライトな豚骨スープは、女性やインドネシア人にも受け入れられやすい。この癖のなさは、鶴亀堂の大きな特徴だと思います。

細麺か縮れ麺かを選べる
細麺か縮れ麺かを選べる。スープに合うのはやはり細麺

 ただ、再オープン直後の取材で食べたスープは、以前より少し「若い」ようにも感じました。味が落ちたということではありません。新しい厨房と寸胴で炊き始めたばかりなので、店が落ち着けば、もう一段うまみの乗ったスープになるんじゃないか。以前の味を知っているだけに、まだ伸びしろがあると思っています。

 新メニューとして加わった「熊本風ラーメン」は、豚骨自体はおいしいのですが、マー油とフライドガーリックが控えめで、博多ラーメンとの違いが少しわかりにくい。もう少しニンニクを効かせて熊本らしさを強めれば、2つのメニューの個性がより明確になると思います。そして今回、初めてチャーハンも食べました。カリカリに炒めた肉が香ばしく、予想以上のおいしさ。ラーメンだけでなく、ぜひ試してほしい一品です。

豚チャーハン(5万5000ルピア)
カリカリ肉が香ばしい豚チャーハン

 鶴亀堂は日本のブランドですが、僕がこの店に感じるのは、インドネシアのローカルなラーメン店の空気です。日本から進出した、ほかのチェーン店と比べても、その感覚が強い。「日本の名前を借りて営業している」というより、「現地の人たちが自分たちの店としてチームで育ててきた」温かさを感じるんです。

 日本人が現場にいなくても、インドネシア人のスタッフが味と接客を守ってきた。閉店の危機には、店を惜しむ人たちが集まり、新たな人が経営に加わった。そして旧店舗の問題を分析し、再出発した。その現地チームの力こそが鶴亀堂の大きな特徴です。

 今後は投資希望者らにも声をかけながら、新店舗を展開する計画だそうです。今のところ、ジャカルタのノン・ハラル地区に4店舗、バリにも進出してインドネシアで計10店舗ぐらいを予定しているようです。プリ・インダにある新店舗は以前より車で行きやすくなりましたが、日本人が多く住む中心部や南側からは、まだ少し距離があります。フランチャイズ展開が進めば、この味をもっと多くの人が食べられるようになるでしょう。

 一時は閉店するはずだった鶴亀堂が、新しい場所で再びゆっくり歩き始めました。新しい厨房でスープがどう育つのか。そして、いつか僕の家の近くでも、この豚骨ラーメンを食べられる日が来るのか。首を長くして楽しみに待っています。

新オーナーの一人、ライアンさん(右)と
左から、オペレーション担当のナタシャ・ロハナタさん、筆者、ライアンさん
鶴亀堂
ルコの一画にある

鶴亀堂ラーメン Tsurukamedo Ramen
Blok M8 No.1B, Jl. Puri Kencana, Kembangan Sel., Kec. Kembangan, Jakarta Barat
11:00〜22:00

maps.app.goo.gl

博多豚骨ラーメン Original Hakata Tonkotsu Ramen 8万ルピア、ハーフ5万ルピア
熊本風豚骨ラーメン Tonkotsu Ramen Kumamoto Style 8万8000ルピア
豚チャーハン 5万5000ルピア

Instagram@tsurukamedoujkt

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